第46話 注文の多い依頼主③
三つのドアには、それぞれA、B、Cと銘打たれていた。そして真ん中のBのパソコンの側にメッセージカードが置かれていた。
“続いてメーンディッシュを召し上がって頂きます。牛、鶏、魚とありますが、伊集様御一行には牛を召し上がって頂きたいと思っております。
しかしこちらのミスでどこに牛料理がご用意してあるか分からなくなってしまいました。つきましてはそれぞれにギャルソン(パソコン)をご用意致しましたが、一様にクセがございます。
一人は正直者です。一人は嘘つきです。一人は本当と嘘を交互に言います。
誰にどんな質問をしても構いませんが、質問は二回しか出来ません。どうか二回の質問で牛料理がある部屋を推理して、お入り下さい” 探偵は読み終わると、手の平を上に、耳の高さで開いた。
「流石の伊集さんも、今回ばかりは難問ね。こんな条件でたった二回の質問しか出来ないなんて」
「そんな事はないさ。こんなの正反対の事を同じ人物に二回続けりゃ、簡単さ」
そう言うと、探偵はAのパソコンに《牛料理の部屋はどこですか?》と打ち込んだ。するとしばらくしてパソコン画面に《Aです》と表示された。
続いて同じパソコンに今度は《牛料理ではない部屋はどこですか?》と打ち込んだ。すると今度は間髪入れず《Cです》と表示された。探偵は迷わずCの部屋に入った。部屋には美味しそうな牛フィレ肉のステーキが用意されていた。
「どういう事?伊集さん」凛子は訝しげに探偵に聞いた。
「良いかい。肝は二問目の質問さ。もし聞いたのが正直者なら、この質問は二つの答えを言うはずなんだ。だから一つしか言わないって事は、正直者ではない。
次に一問目だけど、一方は嘘を言い、一方は本当の事を言う事になる。って事はだよ。交互に言う人間だったら一問目と二問目は同じ答えを言う事になる。ってか二問目の答えが一つならそれが正解に、二つ言ったら一問目の返答が正解って事さ」凛子は首を捻りながらも何とか納得した。
牛フィレステーキを美味しくいただいた二人は次の部屋へと進んだ。最後の部屋には歪な形のケーキが置かれていた。
“最後にデザートのケーキを召し上がって頂きます。このケーキは左右非対称で
「
「ふん。簡単な事だよ」探偵は迷わずナイフを手に取り適当にケーキを半分に切った。
「えっ?また算数か何かの問題なの?」
「これは算数でも物理学でもない。心理的な問題さ。僕は等分だと思って
「さぁ、こんなお
「いやぁ、流石は伊集先輩だ。お見事な回答」
「こんな手の混んだ事をしてまで僕を呼んだ目的はなんだい?」
「失礼ながら先輩の腕が落ちていないかを試させていただきました。実は僕には手に余る依頼に力を貸して欲しいと思いましてね」
「手に余る依頼?」探偵は佐原を
「そんな怖い顔しないで下さいよ、先輩。先輩は二ヶ月前の小野野木公園爆破事件を覚えていますか?」小野野木公園爆破事件とは、桜田ファミリーによると思われる、幼女一人の被害を出した凄惨な事件だった。
「あっ……あぁ、もちろん覚えているさ」探偵はこの事件がテレビで報道されている時、美々が発作を起こし意識を失ってしまった事を思い出した。
「その時、唯一の被害者となってしまった
「被害者の父親が?で依頼内容はどういったものだい?」
「爆破を引き起こした犯人の捜索です。真犯人を探し出し、正当な罰を与えたいとの事ですが」
「真犯人?この事件は桜田ファミリーが引き起こしたものなんじゃないのかい?」探偵は意外な表情をして驚いた。
「えぇ。警察でもそっちの方向で見てたみたいなんですが、事件が起こったのは三月二十三日の午前です。そして桜田 文利が出所したのが、その日の午後です。息子たちだけでも犯行はもちろん可能ですが、それじゃあ動機も意味もない」
「なるほど、分かった。協力しようじゃないか。フリニスト佐原君」
「そ……その呼び方は止めて下さい!」通称フリニスト佐原。不倫調査専門の佐原は耳まで赤く染めて叫んだ。
私立探偵 伊集煉斗 岡上 山羊 @h1y9a7c0k1y2
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