第42話 桜田ファミリーの逆襲④

 鳴海 凛子はどうやら薬のような物で眠らされているらしい。両手を後手に縛られ、口にはさるぐつわをされている。そして側には黒い鉄製のボックスが足元の金属製足枷あしかせ鉄鎖チェーンで結び付けられていた。

 探偵は左の内ポケットから財布大の黒いポーチのような物を取り出した。中身を広げ、小さなドライバーとニッパーを取り出した。

 探偵は先ず、黒いボックスを、ドライバーで開け、中身を確認した。中にはいくつもの銅線が迷路のように配線されている。

「何だこれは?こんなの専門外の僕に解除出来るのか」複雑な回路を見て、思わず泣き言を言う探偵の右の内ポケットが震えた。探偵がスマートフォンを取り出し見てみると、一通のメールが送られていた。探偵はそれを見て、イヤホンを装着した。

「美々ちゃんかい?目を覚ましたんだね。心配したよ」

「何、勝手な事してくれてんのよぅ。アタシと探偵は一心同体なんだから、一人で突き進んでもらったら困るんだけど」イヤホンジャックの向こうから、いつも以上に元気な美々の声が聞こえた。

「美々ちゃん?良かった。本当に良かった」

 探偵は状況を説明した。

「それヤバいじゃん。そんで?爆弾の形状は」

 探偵の説明に、美々のキーを叩く音が激しくなった。

「そんで?コード線は何色と何色になってんの」

「何色って、黒一色しかないよ。こう言う場合って大概は赤と青で、どっちを切るかってのが相場なんじゃないの」再び美々がキーを叩く音が鳴った。

「探偵、良ぉく聞いてねぇ。それはごく、単純なロジック回路で出来てんだよぅ。その分、コードの色を一色にしてぇ、ややこしくしてるだけだからねぇ」探偵は美々の指示通りに、配線をタイマーになっている市販品の目ざまし時計から追い、起爆装置らしき物までの回路を辿たどった。

「どうやらここで二手に分かれているらしい」時限装置はタイマーがセットされた時刻を示すと電流が流れ、起爆装置まで流れるような仕組みになっているようだった。

「探偵、良い?これからやる事は四通りあるよ。分岐したコードがAとBとして、①何もしなかったら起爆装置は作動するよ。次に②間違った方を切っても、③両方とも切っても作動する。だから止めるには、④絶対に一発で正解のコードを切る必要があるから」つまりは単純計算で、四分の三の確率で爆発を起こしてしまう。

「分かった。慎重に見極めよう。先ずはここをこう辿るから、こっちにこう流れて……」探偵はタイマーが表示するカウントダウンを見ながら、慎重に回路を辿った。

「ん?なんかこれおかしいなぁ。美々ちゃん。例えばなんだけど、この分岐したコード、どっちを切っても、起動を止める事は不可能な場合ってあるんだろうか?」探偵が辿った結果、正解と思われるコードは、途中で電流が途切れているように見られたが、そこから更にコードが起爆装置に向かって配線されているように見えた。

「そうか、それはトラップなんだよ。一見正解と見せておいて、実は時間を待たずして、即爆破する仕掛けになってんだよ。だけどそれならどうやって止めんのよぅ」いくら美々とて、専門家でも、ましてや現物も見ていない。美々はパニックになった。

 タイマーは遂に一分を切ってしまった。

「もしかしてだけど、美々ちゃんが最初に言った物より、実はもっと単純で、タイマーから伸びている、このコードを切断……いや、外してしまえば良いんじゃないの?」

「もうアタシには、もう何がなんだか分かんない」タイマーは遂には十秒も切った。

「一か八かだ」探偵はゆっくりと目覚め時計の螺子を回した。そしてコードを外した。

 しかしタイマーはカウントダウンを続け、零秒を指し示した。

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