第41話 桜田ファミリーの逆襲③

 今回の事件は探偵にとってのディスアドバンテージは大きい。いつもは犯人側が何を仕掛けてくるのか、その為の対策として、何を用意するのか。全て準備万端で敵地に乗り込む。

 しかし今回は時間がなかった上に、敵の思惑が把握し切れていなかった。Ωファイルを要求してきた事は探偵にも理解は出来る。しかし恐らく先に起こした爆破テロも桜田ファミリーの仕業であると考えられた。しかしその目的が分からない。

 想像するに何かの警告的行為なのだろうが、現在に至るまで、ここまで過激に活動する事はなかった。

 今から二十年以上前の事だ。クロノスは生まれた。当初のクロノスは、アグリズム(農耕主義)を掲げて、いずれ訪れるであろう食糧危機について、積極的且つ平和的な活動を行なっていた。

 しかし桜田 文利が幹部についた頃から、様相を変えていった。アグリサンス(農耕革命)との造語を旗印にして、活動の過激化が進んでいった。しかしそんな信念とは裏腹に、実情は食糧生産、食糧流通を牛耳ぎゅうじり、私服を肥やす事が目的であった。

 当然、そんな団体を社会が認めるはずはない。しかしその弾圧を、桜田 文利を始めとしたファミリーは、活動のエネルギーへと変えた。そうしてテロ集団へと変貌したクロノスを摘発するのに一役買ったのが伊集 練斗だった。

 クロノスは警察組織の上層部にまで食い込み、賄賂と引き換えに、活動を見逃すよう操作した。そこにΩファイルが深く関わっていたのだ。

 探偵自身もΩファイルについて詳細を得るに至らなかったのだが、Ωファイルは複雑なファイアウォールに守られ、それを突破出来るのは、システムを熟知した桜田ファミリーか、若しくは有能なハッカーの存在が必要であった。そこで伊集は、道具屋の田子 京作に依頼して、強力なファイアウォールにファイアウォールを被せたのだ。

 そんな状況下、探偵は浜野埠頭に立っていた。

「おい、桜田 文利。Ωファイルはここにある。彼女を…鳴海 凛子を開放するんだ」真っ暗な埠頭内で、探偵はΩファイルのデータが入ったUSBメモリを片手に叫んだ。すると薄暗い物影から、桜田ファミリーの面々が姿を現した。

「よう、伊集 練斗。USBそいつを地面に置いて、後ろを向け」

「彼女の安否が先だ。彼女はどこにいる」するとメンバーの一人が、側にあったコンテナの重々しい扉を開けた。中には身体をロープで拘束された凛子がいた。凛子の身体には、何か黒いボックスのような物が繋がれていた。

「良いか、伊集。この女に結んであるのは、時限爆弾だ。十分ある。我々がデータの中身を確認したら、解除方法を教える。しかし、データが偽物だったり、解除出来ない時は、これだ」文利は右手拳を突き出し、爆発するように広げた。

“十分。出来るか?もし出来なきゃ、僕も凛子ちゃんも終わりだ。やるんだ。なんとしても…”

「分かった。データが本物かどうか、十分間、吟味するんだな」探偵はUSBを相手に投げると同時に、凛子の元に駆け寄った。

 探偵が時限装置を解除するのが先か、桜田ファミリーがΩファイルのファイアウォールを突破するのが先か。命懸けのタイムトライアルが始まった。

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