第35話 どんな組織にも悪い奴は必ず存在する④

「いつまで居んのよ。ここは高校生の遊び場じゃないんだかんね」

「お前だって高校生じゃねぇかよ。大体さぁ、師匠ほどの人物がお前みたいなお子ちゃまを相手にするかってぇの」探偵不在の探偵事務所で、鳴海なるみ 美々みみ神子園みこぞの 竜也たつやは、子供っぽい言い争いを繰り広げていた。

「何だい、下まで聞こえるような大声で」探偵は目を丸くして入ってきた。

「あっ、師匠、お疲れっす」

「ねぇ探偵、聞いてよ。タッちゃんこいつ、ここに居座って帰ろうとしないんだよぅ」

「はいはい。お遊戯の時間は終わりだよ。美々ちゃん、お仕事の時間だ」美々の膨れっ面は一気に明るくなった。

「何、何?今度はどんな悪者をやっつけんの」

「師匠。俺にも何なりとお申し付け下さい」竜也も張り切って口を挟んだ。しかし探偵は竜也を無視して続けた。

「先ずはこれを見て欲しいんだ」探偵はパソコンを起動させると、“県内、放火、ボヤ” とキーワードを打ち込んだ。そこには非難、批判を含めたコメント。事件当時の動画や犯人を特定させるような内容で埋め尽くされていた。

「あっ!これ知ってる。ウチの近所の消防士さんが疑われてるやつじゃん」

「俺も知ってるし。確か檜本ひのもと 忠彦ただひこっちゅうヤツだよな」高校生コンビはそれぞれに自分の知っている情報を話した。

「うん。それも容疑者の一人だよね。だけど問題はそこじゃない」探偵はいつになくシリアスな表情を作った。

「だからぁ、本物ほんもんあぶり出せって事だよねぇ。それなら前に作ったアプリあいつイジったら……」美々は激しくパソコンキーを叩き始めた。

「ちょっとごめんね、探偵。小一時間くらいかかるかも」美々が作ろうとしているものは、一定の条件などを入力する事で、格段にサーチ能力を上げるプログラムだった。そして今回は放火犯に対して肯定的なコメントを書き込んでいるユーザーを絞り込む事だ。

 やがて美々の作業は48分後にピタリとんだ。

「これね、前に作ったんだけど、検索エンジンの一種なのね。そんでぇ、フィルターを強化したから、探偵の言ったキーワードから、よりしぼられるようになったからねぇ」言葉遣いの子供っぽさに、思わず忘れてしまいがちになるが、やはり美々は間違いなく天才ハッカーであった。探偵が言った “一” の言葉に、“十” のアイテムで返してくる。

 美々が作ったプログラムを通して検索をやり直すと、あっと言う間に数人の書き込みをしているユーザーに絞り込んだ。

「流石は美々ちゃんだね。うーん、この “トロイの木馬” ってユーザーの書き込みだけをピックアップしてみてくれるかい」

 探偵が指定した “トロイの木馬” なるハンドルネームの書き込みは以下のようなものであった。

 名無し:火は大きくならなかったけど、放火は放火。死刑確定だね。

 トロイ:放火犯を断罪する前に、火災について関心が薄い我々も反省すべき点はあるんじゃないか?

 キンちゃん:それは言える。だけどやっぱ放火は良くないよ。方法は他にもあったんじゃない?

 トロイ:そんなの代替案を自分で上げてから言えよ!傍観者ぶった正義感は逆に悪だ!

 名無し:死、死、死、死、死、死、死!放火犯を抹殺せよ!

 トロイ:お前が正義の業火に焼かれて死にやがれ!

トロイの木馬コイツで確定じゃん?ねぇ、探偵はどう思う」

「うん、確かにかなり怪しいね。そうだな……美々ちゃん。トロイの木馬に罠を仕掛けてみようと思う。出来るかい?」探偵の言葉に、美々は再びキーを叩き出した。

「目には目を、歯には歯を。そんでぇ、トロイの木馬にはトロイの木馬だよぅ」美々はひらけたプログラムについての説明をした。

「ふん。流石は天才クラッカーだね。目に物を見せてやろう」探偵は不敵に微笑んだ。

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