第34話 どんな組織にも悪い奴は必ず存在する③
古山警部に呼び出された探偵は、県警を訪れ捜査二課にいた。
「良いかい、練斗。このスィッターの投稿を見てごらん」古山警部が指し示したパソコン画面には、とある動画と共に、コメントが添えられていた。
動画は放火現場の起こっている、まさにその時を撮影したものであり、コメントは以下のような文言が書かれていた。
“マジウケるんすけど。都会のど真ん中でバーベキューっすか?けどバーベルは食えないっす(笑)”
「チッ。またこうやって面白可笑しく人を傷付ける動画をアップして」探偵は舌打ちした後、ため息をついた。
「そう言う事じゃないんだよ、練斗。これはね、私のプロファイリングからの読みなんだが、こう言った投稿は犯人を助長させる危険があるんだ」
古山のプロファイリングはこうだ。犯人像は伊集の読み通りに火災を扱うプロだと言える。しかも調査官の吉川のように、自分の仕事に誇りを持ち任務に励んでいる。
しかしながら近年の市民の防災意識が低下すると共に、自身の仕事に疑問を感じ始めた。“こんなに低俗で、
何とか判らせたい。火災の危険さを。重要性を。そんな想いから、軽い
「もし私のプロファイリングが正しいとしてだ、そんな風に思う容疑者がこの投稿を見たらどうなると思う?」
「警鐘が足りない。刺激が低いと……」伊集は
「そう。犯人がエスカレートする」
「なんとか止められないんですか?」
「難しいだろうね。この犯人の犯行は規則性はあっても
「しかし拘りのない今回の犯人は、犯行を実行するのに、金属製品を捨てている場所、他に燃え易い物が周りにない場所、そして酸素が充分に循環する開けた場所など、どこにでもあるようなところを選ぶ為、一貫性がない」伊集は額から
その時、一度に空気を変える勢いでドアが開いた。
「課長!大変です。
現場は凄惨なものであった。と言うのも遂には犠牲者が出てしまったのだ。火元は武庫野川に架かる武庫大橋の橋脚付近の草むらであった。一見、人気がないように見受けられるのだが、橋下にテントを張って暮らしている、ホームレスの男性が寝ていたのだ。
犯行時刻は夜間と見られ、河川敷の為に街灯も届かず、当時は真っ暗であったと想像された。その為、犯人は本意ではなかったであろうが、死人を出してしまったのだ。そして被害者も寝ていて気付かなかったと見られた。
「古山課長。どうやら今回は少し勝手が違うようですな。今回は草むらに灯油を撒いた後で火を放っているようで」ベテラン鑑識員の
「どう思うね、練斗」古山は難しい表情を伊集に向けた。
「これで恐らく犯人の行動パターンは二通りに分かれるでしょう。一つは死人が出てしまった事で、後悔を引きずり犯行を止める。そしてもう一方はヤケになって犯行がもっとエスカレートしていく」
「うむ、私も同意見だ。もし後者だった場合、それをどう食い止めるかだな」古山の表情は、より強く苦渋の色を強めた。
「古山さん。上手くいくかは分かりませんが、一つ試したい事があります」そう言い残して探偵は現場を後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます