第31話 殴るは恥だが役に立つ④

 探偵は依頼人の井上 翔子を呼び、調査結果と、その後の顛末について報告していた。

 先ず、科研食品側は金鷲会に依頼した事自体を知らず、顧問弁護士が独断で金を積み、金鷲会を動かしていたのだった。科研食品側は、あくまでも井上 翔子側に、特許使用についての交渉を進めるように弁護士に指示していたのだ。

 それにより科研食品は、翔子に特許使用料として一億円の用意がある事を告げてきた。探偵はそれについて、敏腕弁護士を知っているので、彼女を代理人として一週間以内に交渉の場を作る事を約束した。無論、代理人は鳴海なるみ 凛子りんこの事である事は言うまでもないだろう。

 そして相手側弁護士は、顧問契約を解除、背任行為があったとして、弁護士会並びに検察への提訴を約束してくれた。

「これで金鷲会やつらも芋づる式に検挙されて、少しは大人しくなるでしょう」

「ありがとうございました。貴男に頼んで良かったですわ。これ、今回の依頼料です」翔子から渡された茶封筒は、やたらと厚みがあった。

「とりあえず五十です。残りは特許料が入りましたら、もう百、お渡しします」思わぬ高額報酬に、探偵は表情が崩れそうになったが、なんとかクールさを保って続けた。

「やはり流石さすがは天下の科研です。話しが早くて助かりましたよ」探偵の笑顔はどこかぎこちないものだった。


 翔子を見送った後、美々が話しかけてきた。

「探偵。あの時はごめんね。だけど探偵ってあんなに強かったの?」

「何だい。僕が護身術も使えないと思ってたのかい」

「だって探偵っていつもなよなよしてるっていうか、格闘とかに関しては頼んなさそうじゃん」

「悪かったね、なよなよしてて。まぁ能ある鷹は爪を隠すって言うだろ」二人が会話していると、入口を激しく叩く音がした。

「キャッ、何?」探偵が入口に向かっていると、勢い良く扉が開いた。

「師匠!これからは俺も役に立ちたいっす」見れば見覚えのある金髪男が立っていた。

「えっ?タッちゃん?」

「師匠って誰だ?」

「もちろん伊集先生の事っすよ。今度、凶悪な敵が来たら、俺が殴って……いや、たてになって師匠を守りますよ」神子園 竜也は鼻息荒く言い切った。

「いや、間に合ってるから。ってか君、僕に負けたよね」

「タッちゃんは探偵の迷惑になるだけだから帰れ」

「何言ってんだよ。美々の事も俺が守るって決めたんだぜ」高校生の二人のやり取りに、探偵は辟易して、ため息を漏らした。

「ここは幼稚園でも動物園でもないっちゅうの」

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