第29話 殴るは恥だが役に立つ②
「探偵。会いたかったよ。探偵も
「こらこら、そういう事をするから凛子ちゃんが怒るんだよ」探偵は
「別にもっといちゃいちゃしたって良いじゃん、探偵。姉貴はいないんだからさぁ」お気楽な美々の態度に探偵は鼻から空気を抜いた。
「話しは変わるけどね、この投稿が今回の依頼があったものなんだけど、投稿者の特定は可能だろうか」パソコンを立ち上げ、スィッターの投稿欄を見せて言った。
「あんねぇ。こういったSNSは開発者にアカウント開示申請をしなきゃ特定出来ないの。そんな事も知らないで探偵やってんの」美々は姉の凛子バリに辛辣な言葉を浴びせつつ、面倒臭さそうにパソコンのキーを叩いた。
「スィッターの開発者はジョディ・ドロシーって女性なのね。ドロシーとアタシはインステで相互フォローし合ってるからDMのやり取りもやってんの。出来っかどうか分かんないけど、裏ルートからの情報開示が可能かやってみんね」美々はウェハースを咥えたまま、
美々が手を止めて数十秒後、パソコンから通知音がなり、再び美々の手が
「うん。発信元は海外のサーバーをいくつか通してるみたいだけど、これって……
金鷲会じゃん」美々の言葉を聞き、探偵は反応した。金鷲会は先の特殊詐欺事件の黒幕であった反社会的勢力の、元暴力団組織だ。
「美々ちゃん。これはただのネット書き込み事件とは訳が違うかもしれないね。裏にもっと大きく黒い組織が
探偵のビートルは、とある雑居ビル横の駐車場に停められた。車から降りた探偵は、そのまま隣接する雑居ビルの三階へと上がった。三回フロアには三室が入っており、階段を上がって一番奥の扉の前に立った。扉には小さなアクリル板が貼り付けられており、
「
「煉ちゃんさぁ、いつも言ってっけど、入ってから入るよっての止めてくれる」
「今回はヤバめの案件なんだ。なんか新兵器とかないの?」探偵は半田小手から出てくる煙を手で
田子は製品を凝視したまま、半田小手でデスクの隅っこを叩いた。叩かれた場所に目を
「それ、送りの方。こっちが受け」
「へぇ。これ、かなりコンパクトだね。で?これシールみたいになってんの」
「そう。裏のセロファンを剥がして、付けたい場所に貼り付けるだけ。範囲は障害物なしで半径五百メートル。周波数は五百キロヘルツとエーエムラジオ並みにしてあるから、入り組んでても、結構拾うよ」
「ふーん、優秀じゃない」探偵が褒め讃えているところ、田子はゆっくりと半田小手を置いた。
「後はカバーを嵌めてっと。はい。七万円ね」
「えらく良心的じゃない」探偵は田子のデスクに一万円の札束を置いた。
「ふん。前回のをチョチョイと触っただけだからね。言わば三号機 “改”ってところかな。例のあれも付いてるから」
「サンキュー。また何かあったら頼むね」探偵は田子の元を出て、再びビートルに乗り込んだ。
「さぁてと、こいつをどうやって設置するかだよね」座席に座った探偵は、両手を組んで後頭部に
「そう言う手があったか」ニヤリと笑うと、探偵はビートルのエンジンをスタートさせた。
探偵のビートルは、また別の雑居ビルの前に停車し、一つの郵便受けから郵便物を取り出し、田子から受け取ったシールを貼り付けた。
「これで良しっと」探偵はそのまま雑居ビル向かいのカフェに入った。そしてテーブルの上に田子から受け取った機械を置き、機械の横にある穴に、USBを挿した。
用意を終え、窓外を見つつブラックコーヒーを啜っていると、雑居ビルから柄の悪い男が、先程の郵便受けから郵便物を取り出し、上に上がっていった。そのタイミングで探偵は腕時計型マイクに話しかけた。
「美々ちゃん。聞こえる?もうすぐスピーカーから音声が聞こえると思うんだけど、その音を拾って
「オーケー!あんま指示がないから寝ちゃうとこだったよ」イヤホンからキーボードを激しく叩く音が聞こえてきた。
間もなく、機械から男たちの会話が聞こえてきた。その内容は、探偵が下調べした内容を大きく上回る巨大な
「うーん。こりゃ厄介だねぇ」思案に暮れながら、探偵は残りのコーヒーを飲み干した。
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