第21話 探偵なんだから密室トリックくらい解き明かしなさいよ⑤

「確かに言われればそうだ。兄貴は父さんを介抱すると言って、一人この部屋にとどまった」恭之が身体を小刻みに震わせながら発言した。

「あなたは三人を人払いした後、いつ戻ってくるか分からない状況で、焦って螺子山を潰してしまった。その光景が目に浮かぶようです」探偵は目を伏せがちに喋った。

「俺は……俺はこの家の長男だぞ。なのに、あの男ときたら俺は出来損ないで、会社を任せるのは弟の恭之しかいないって言ってやがった。だから奴が遺書を作成する前に殺すしかなかったんだよ」

「それは違います、恭一郎様。おそらく恭一郎様は私に愚痴る旦那様のお言葉をお聞きになられたのでしょう。それを旦那様は分かっておいでで、あなた様を発奮させる為に、えて厳しい物言いをなされたのです」玉川は神妙な面持ちのままに口を開いた。

「そうだ。兄貴はバカだ。父さんはいつも言っていたよ。"あのバカだが熱い想いを持ったあいつを賢明なお前が支えてやってくれ。そうすれば必ず会社は成長する"って」恭之は流れる涙を拭おうともせず続けた。

「良いですか、恭一郎さん。どんな事も思い通りにならない事は沢山あります。でも決して逃げちゃいけない。例え道が違っても自分が信じた道を進む。それが何より肝要なのです」探偵はどこか物思いにふけった表情をしていた。

「俺は……俺はどこで間違えてしまったんだ」恭一郎は手と膝を床につき泣き崩れた。

「恭一郎さん。署の方で詳しい話しをお聞かせ下さい」こうして恭一郎は連行された。

 パトカーの赤ランプが、この事件の虚しさを物語っているようだった。


探偵と女弁護士は、いつものバーをいつもとは違う心持ちで訪れていた。

「なんだか切ない事件だったわね」凛子はアンニュイな表情を浮かべてカシスソーダを口に含んだ。

「そうかな。人間に関わる仕事上かな。僕はそう思ってないよ。誰にだって起こり得る事件なんだよ。人間なんてそんなに強い生き物じゃないし、そんなに弱くもない」探偵はバーボンロックを一気に胃袋に流し込んだ。

「何だろ?あなたに興味が湧いてきたと同時に、なんだか腹が立ってきた」今度は凛子が酒を一気に飲み干した。

「まぁまぁ、凛子ちゃん。僕を知りたかったら、今度温泉旅行でもどうかな。二人でシッポリと」

「こ……この、巫山戯ふざけんなぁ!変態探偵がぁ」探偵の左頬をはたく音と凛子の怒号が、町中に響き渡った。

 

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