第20話 探偵なんだから密室トリックくらい解き明かしなさいよ④

「この密室を完成させる為には、一つ道具がいります」そう言うと、探偵は秘書の玉川に耳打ちをした。

 玉川が部屋を出てしばらく、何やら小さく細長い物を手にして現れた。玉川はそれを丁寧に探偵に手渡した。

「おい、なんだ。それはドライバーじゃないのか」大岩は不思議そうに探偵を問い質した。

「そうです。何の変哲もない、ただのプラスドライバーです」探偵は涼しい顔で言った。

「こんな大掛かりな密室をそんな物で完成させたって言うのか」大岩は探偵が道具と言った時、もっと大層な物を持ってこさせるとたかくくっていたらしい。

「まぁ見てなさいって」そう言うと探偵は閂のそばに行き、プラスドライバーで作業を始めた。

「先ずはこの良くクルクル回る閂を止めているビス螺子を左手で調整しながらほど良く締める」探偵はビス螺子の螺子山にプラスドライバーを差し込んで、時計回りに少しづつ回していった。

「これは締め過ぎてはいけません。ある程度のセンスは必要かもしれませんが、さほど難しくもないでしょう」そしてドライバーをポケットにしまうと、次に閂を回し始めた。

「この角度が重要です。時計の短針で言うと、十二時を少し回ったくらい。大体ドア側に五度から十度くらいいったところで止めます」すると閂は微妙な位置でピッタリと止まった。

「さぁ僕が今、恭太郎氏を殺害したとしましょう。そしてこの部屋から密室を完成させる為に出ていきます」探偵は部屋の外に出て、ドアを目一杯に引いて閉めた。するとドアが閉まる衝撃を受け、閂はドア側に倒れて、受け金具にスッポリと収まった。

「はい、密室の完成です」探偵は斧で開けられたドアの穴から顔を出して、ニッコリと微笑んだ。

 凛子は閂錠を解放して、探偵を部屋へ招き入れた。

「そんなのあなたの想像でしょう。そうやって密室を作ったって証拠はあるんですか」黙って聞いていた恭一郎が興奮して言った。

「もちろん。想像でも妄想でもありません。証拠はこれです」探偵はビス螺子を指差した。

「ビス螺子?一体なんの事だ。えーっと、伊集さん」大岩はビス螺子を眺めながら言った。

「大岩警部。ビス螺子の螺子山を良く見て下さい」探偵に促されるまま、大岩はビスを見た。すると螺子山は綺麗なプラス型をとどめておらず、僅かに山が欠けていた。

「なんだか螺子山が潰れてるな」

「その通り。その螺子山の欠けが何よりの証拠なんです」一同は探偵の言わんとしているところの真意が分からずに首を捻った。

「想像して下さい。その閂錠を取り付けた職人が、ドライバーで閂を取り付けます。螺子をドンドン時計回りにねじ込んでいき、ある程度の遊びがあるところで止める」

「それがなんだってんだ」大岩は苛立って声をあららげた。

「その欠けた山を良く見て下さい。欠けた部分は左側、つまり反時計回りの方向についている。それは緩める時に欠けてしまった事を示している。しかし職人はそれを取り付ける時に、ビスを緩める必要はない。仮にドライバーを扱うのが下手くそだとしても、欠けは右側にできるはずなんです」

「なるほどね。つまり一度取り付けられた閂錠を緩める必要はない。もしあるとしたら、先っきあなたがやったような事をしない限りは螺子山が欠ける事はない」凛子は納得顔で話した。

「それで?それを実行したのは誰か分かってるのか」大岩が早口に喋った。

「もちろん。良いですか。この密室を完成させる為には、もう一つ必要な事があります。それは恭太郎氏の遺体が発見された後、ビス螺子を元の遊びがある状態に戻す事です。それが出来るのは、この家にいた四人全員の人間で発見した後、犯人以外の三人を人払いして、自分だけがこの部屋に残った人物。それはあなたしかいません」探偵に指差された恭一郎は目をいた。

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