第18話 探偵なんだから密室トリックくらい解き明かしなさいよ②
薬師神邸の周りには数台のパトカーが取り囲むように停車し、規制線も張られて閑静な住宅街を騒然とさせた。
邸内には県警捜査一課の
「ダイフクさん。
「なるほど。で、死因は判りそうか」
「司法解剖の結果を待つ事になりますが、検視官によると、唇に
「シアン?青酸カリか」大岩はノック式ボールペンで頭頂部の
大岩は事件当時、この家に在宅していた人間から個別に話しを聞くように坂本に指示を出した。
「ですから出来るだけ早く来て下さいよ、鳴海さん……お願いしますよ」恭一郎は少し苛立って電話を切った。
「おや?どちらかに電話ですか」坂本の問いかけに恭一郎は僅かに動揺したように見られた。
「えっ、えぇ。弁護士にね。代表取締役が亡くなったとなれば自ずと後継者問題やら持ち株の処理などについてあれこれと
「なるほど。ところで第一発見者というのは?」坂本は手の平を上に
「えぇ。とは言ってもこの屋敷にいた者全員でです。誰が早くと言うよりも立場上、私が先頭に立っていたと言うだけですよ」恭一郎の言葉尻はどこか他人事といったニュアンスが含まれており、傍観者を決め込みたい願望が垣間見られた。
継いで次男の恭之に話しを聞いたが、父親の急死を受け入れられないといった具合に動揺していた。
「確かに一一〇番をしたのは僕です。兄から指示を受けて電話しました。それより父は自殺なんですか。だって……だって内側からしか掛けられない閂錠が掛かってたんですよ」狼狽する恭之だったが、言う通り、他殺だとすると密室殺人という事になる。現場を見る限りでも間違いなく自殺であろうとの見解が捜査陣にもたらされた。しかし、肉親以外の二人の供述は、それを否定するものであった。
「旦那様は普段通りに高血圧のカプセル錠をお飲みになってから自室へ向かわれました。自らでお命を断たれるとは考えられません」メイドの詩織は語った。
「旦那様はいつも通りにお部屋に入られました。私は向かいの部屋でいつも通りに時間まで待機しておりましたが、特段変わった様子はございませんでした。自殺?絶対にあり得ません」執事兼秘書の玉川はそう話した。
一体真実は何なのだろうか。その時、邸宅の外で動きがあった。
「あれ?もしかして鳴海先生」丸屋西署の皆川刑事が薬師神邸を訪れた鳴海 凛子に声を掛けた。
「あら。皆川刑事じゃないですか。管轄でもない場所で殺人でもない現場に何故あなたが」皆川はこの事件の管理官が旧知の仲である事から応援を頼まれた事や、この事件自体が自殺、他殺、病死など様々な検証が必要である事を説明した。
「そうですか。分かりました。私は私の仕事がありますので」凛子は社交辞令な挨拶もそこそこに、邸宅の中に入っていった。
屋敷内は道理が通用しないこの事件に、混沌とした雰囲気を醸し出していた。
「恭一郎さん。これは?」雰囲気を嫌がり、凛子は恭一郎を問い
「いえね。どうも警察が父の自殺を密室殺人事件だとか言い出したんですよね。困ったもんです」恭一郎は辟易して目を閉じたまま首を横に振った。
「そうですか。個人的にお薦めは出来ませんが、少し頼りになる男を知っています。呼んでも差し障りありませんか」恭一郎は黙ったまま首を縦に振った。
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