第16話 騙す奴らは馬に蹴られて死んじまえ④

 伊集探偵事務所では、二人の活躍により、詐欺事件を見事に解決に導いた祝杯を挙げていた。

「ねぇ探偵。探偵って今、何歳いくつなの」美々は頬張っていたウェハースをオレンジジュースで流し込んだ。

「歳?何歳に見える?とか聞いたらおじさん扱いされるんだろ?こう見えても三十五さ」探偵は残りの缶ビールを一気に飲み干した。

「へぇ、どう見えてると思ってんのか知らないけど、姉貴と三歳みっつしか違わないんだ」

「三歳?確か道広氏はかなり高齢だったと記憶してるけれど」

「父さんは遅咲きってぇの。姉貴が生まれた時も五十三歳だったし、アタシなんて六十七のおじいちゃんだよ」美々は両足をバタバタさせて子供のように笑った。

「へぇ、そうなんだ。それは同じ男として夢のある話しだね」二人が談笑している頃から遡る事、七時間前。探偵は美々にある司令を出していた。もちろん誰でも出来る事ではなく、美々のホワイトハッカーとしてのスキルを見込んでの指示だった。

 先ずは受け子が掛けた先の端末にアクセスし、ウィルスを忍ばせる事。そのウィルスの内容は、発信した場合に盗聴システムが作動し、なおつ相手先の番号を入手できるようにするもの。

 それとは別に、スマートフォンで発信した場合に、こちら側が指定した番号にしか掛けられなくするウィルスを作る事だった。もちろん指定先は県警捜査二課である。

 そうして探偵の思惑通りにウィルスを忍ばせた後、旧知の古山警部と倉持警部にメールを送ったと言う訳だ。

 もちろんミネヤマが電話で話していた相手は古山警部だったのである。そもそも捜査二課と言うのは、知能犯を相手にする部署であり、それを束ねる古山は、頭の切れる人物であった。その為、探偵の事も大いに評価していたし、その探偵からの少ない言葉、情報だけで全てを悟り、対応出来たのだ。

 一方で倉持警部はその後、近年の犯罪傾向から、合同捜査となる機会が多い二課に対して、気後れはあったものの、探偵の助言を聞き入れ、古山警部に協力を仰いだ。その結果、オオヤマの居所も突き止め、検挙するに至った。

「ねぇ探偵。次の事件なんだけどさぁ」美々がパソコンキーを叩きながら言った。

「ちょい待ち。それはもう駄目だよ。僕はなにもボランティアでやっている訳じゃないんだよ。今回の事件だって結局は報酬なしじゃない。依頼者のない依頼はなし、なし」その時、事務所の入り口がけたたましい音を立てた。

「やっぱいた。一体どう言う事。伊集さん」そこにはメガネを掛けたスーツスカートの美人が立っていた。

「り……鳴海弁護士」探偵は狼狽うろたえた。

「言ったわよね。未成年との交友は犯罪だって」凛子の表情はもはや鬼神と化していた。

「だ……だから違うんだってばぁ」

「うるさぁい!」探偵の左頬をお馴染みの激痛が走った。

「凛子ちゃん。ちょっと待ってってばぁ」

「問答無用。近い内にあなたを未成年略取で訴えます」凛子は美々の腕を取り、事務所を後にした。

「ねぇ、僕ってそんなに悪い事したかなぁ?」夜空には夏の大三角形が燦然と輝いていた。

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