第15話 騙す奴らは馬に蹴られて死んじまえ③

"なんだって?先に別の受け子が金を取りにきた?そんなはずねぇだろ。受け子に選んだのはお前だけだ"

"しかしですね。実際にここに白鷺町しらざぎちょうのヘブンズ・ドア名義の印字がされてる領収書があるんです"

"領収書?ウチはそんなもの発行する決まりはねぇ。らちが開かねぇなぁ。オイ、ババァに変われ"

"お母さん。こちら警察ですが、今そこにいる人間が本当のハシモト ユウイチ弁護士です。その人にお金を渡さないと、息子さんの痴漢被害者との示談が出来ませんよ"

"そう申されましても、もうウチにお金はありません。時間的にも明日まで待ってもらわないと用意が……"

"もしもし?お母さん?聞こえますか"

"ヤバいっす。警察がきました。一旦ここを離れます"

 録音データはここで途切れ、後は不通音が鳴った。

「中々良くれてるじゃない。さて美々ちゃん。頼んでおいた事は完璧かな」

「もちろん。でも探偵も面白い事考えるわね。あっ、言ってたら発信したよ」美々はパソコン画面の電話番号が表示されたバナーをクリックして、キーを叩いた。

「うんとね。次はこの番号」美々が初めにクリックしたバナーの番号が、受け子が掛けた掛け子か若しくはグループのリーダーと思われた。そしてこの番号から発信された先が、おそらくは組織のボス乃至ないしはそれに近い存在の男を思われた。

 探偵は二人の会話内容を良く聞き、吟味ぎんみした。

「美々ちゃん。まだだよ。僕がしたお金の横取り行為は、こう言った組織にとっては大問題のはずだ。だから継いで継いでいって、最後には必ずトップに報告がいく。その時が美々ちゃんお手製のお灸の出番だよ」こうして同じ作業を美々は繰り返した。そして受け子から数える事、五件目で遂にトップと思われる人物に掛けられようとしていた。

「探偵。本当に良いんだね」

「あぁ、間違いない。こいつがナンバー2だ」探偵の言葉を聞き、美々はあるアイコンをナンバー2の男のものと思われる番号のバナーにドラッグ&ドロップした。

「よし。間に合った。後はにメールを送信してっと。これで奴らの組織も終わりさ」探偵と美々は両手を合わせてハイタッチした。


"もしもし、大変です、オオヤマさん。我々組織の動きを把握して、示談金の横取りを画策する組織が現れたようです"

"何?そうか。まぁ落ち着け。これから詳しく話しを聞きに行く。お前、今どこにいる"

"わ……分かりました。今は白鷺町の例の事務所です"

"分かった。一時間後にそちらに行く。いいか、これは緊急事態だ。できるだけ全員のメンバーを集めておくんだ。分かったな"

"分かりました。受け子のバイトを除けば、後は四、五人で全員集まります"


 それから一時間後、詐欺師集団の事務所を、県警の捜査二課並びに捜査四課の捜査員たちにより一網打尽にされた。特に四課の面々は、以前より捜査を進めてきた特定暴力団の金鷲会きんしゅうかいの新たな金元シノギとして、この詐欺集団に目をつけていた。その為に張り切りようは半端がなかった。しかしターゲットのオオヤマが不在であった事で大きく肩を落とした。

 その時、捜査の指揮を取る、倉持警部の携帯電話が震えた。

「ハイ、こちら倉持」

「やぁ警部。お久しぶりで」

「い……伊集か?」

「今、捕らまえた中にミネヤマと言う男がいるでしょ?そいつはナンバー2です。その男の携帯電話の発信履歴、一番上をご覧なさい。それがオオヤマの番号です。精々、逆探知の準備を完璧にしてから奴の居場所を探ってみては?ちなみに二課の古山警部に力を借りるのがお薦めです。まぁ嫌でしょうがね」そう言って不通音が倉持の耳を突き刺した。

「くそっ、伊集め。いちいち正論を吐きやがって」

 こうして特殊詐欺事件は解決をみた。一体何故警察はオオヤマが現れる前に踏み込めたのか。探偵が仕掛けた罠はどんなものだったのだろうか。

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