第12話 危険なJK④

 探偵は鳴海なるみ 凛子りんこ弁護士に呼び出され、いつものバーに来ていた。今回の依頼料は、もちろんきちんと払った凛子だったが、それとは別にお礼がしたいと、今夜は彼女のおごりだ。しかし探偵は変わらずいつものジャック・ダニエルのロックを飲む。何があろうとも、自分のスタイルを変えない事も、探偵の流儀なのだ。

「ところで何故あの暗号文が降下法だって気付いたの。あの意味が分からない文章が、何かの暗号だって事は私にだって分かるわよ。でも暗号なんて何種類もあるんでしょ。それを降下法と見抜けたのは何故なのかしら」凛子はカシスソーダを人差し指で軽く混ぜた。

「うん。答えに辿り着く切っ掛けは最後のリターンマークさ。あれを改行みたいな意味に取るのか、下がると取るのかで意味は変わってくるんだろうけど、決め手は日本語としては違和感だらけの "づ" と "な" の後に記された小さな "や" だよ。特に小さな "や行" は通常では母音が "い" の文字の後にしか来ない。だから "な" は "に" の前だから、自ずとこれは降下法で書かれてるって気付いたのさ」探偵はバーボンを一気に飲み干すと、グラスを頭上に掲げてマスターに合図した。

「なるほどね。大した名探偵っぷりだわね。気は引けたけど、今回あなたに依頼したのは正解だったかも知れないわね。でも美々とのやり取りでは醜態をさらしてしまったわね」凛子もカシスソーダを飲み干すと、頭上に掲げた。

「それだってちゃんと調べてたんだろ?美々ちゃんの母上・文乃さんに聞いて、ちゃんと道広氏を愛していたと。美々ちゃんも、れっきとした道広氏の娘であると。しかし道広氏の愛情が美々そとに向く事をおそれてしまった君は、美々ちゃんを疎外する事で、なんとか心の均衡を保とうとした。そんなところなんじゃない?」

「何でも分かったような事を言うのね。あなたの言う通りよ。黒い噂にしたって本当は美々かのじょを……父の言う事を信じたかった。だから探偵あなたの目を通して確かめたかったの」凛子は店内を遠い視線で見つめた。

「少しは僕の事を見直してくれたって事かい?」

「ふっ。気にいらないけど、認めて上げるわ」

「いたーっ。やっと見つけたよ」入り口のドアの鐘が鳴ったと思ったら、女と呼ぶには少し早いと思われる女が、興奮気味に立っていた。

「み……美々?」さすがの凛子も大人の社交場で見かける未成年の妹には面食らった。

「ねぇ、。アタシ決めた。このかわいい美々ちゃんが探偵の助手になったげる」美々の突然の宣言に、凛子は目を白黒させた。

「アンタ……何言ってんの?ねぇ伊集さん。もちろん断る……」

「君に僕の天才的推理について来れるかな?」探偵は遊んだ前髪をいじりながら気障きざに言った。

「もっちろん!このかわいくて頭の良い美々ちゃんに任せなさい」美々は胸を張って叩いた。

「こ……この変態!未成年者との交友は犯罪よ。ぜーったいに訴えてやる!」またしても探偵の左頬を激痛が走った。

「ちょっ……話しが違うじゃんか。僕を認めてくれたんじゃ……」

「良いじゃん。探偵にはこのかわいい助手、美々ちゃんがいるんだから」店を出ていこうとする凛子を追いかけようとする探偵の腕を、長年探してきて、やっと見つけた居場所を離してなるものかと、美々はしっかりと掴んでいた。

「もう何回殴られても良い。凛子ちゃーん!待ってぇ」探偵の魂の叫びは店内を虚しく響き渡らせた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る