第2話 落とし物にはご用心②

「それで、落とされたのは丸屋町近辺だと言う事ですな?」眼鏡をかけた白髪交じりの警官は、老眼が入っているのか、眼鏡を下にずらして上目遣いに見てきた。それが探偵をいらっとさせた。

「だから先っきから言ってんでしょ。バーから自宅までだって。地図はないの?」探偵の言葉を受け、警官はゆっくりと立ち上がり地図帳をコピー機にかけた。その動作の遅さたるや探偵の苛立ちに拍車をかけた。

 警官はピンクの蛍光ペンを持ち、キャップも開けずに地図帳のコピーを指し示しながら、ここからこの辺くらいですかな?、などと言った。

「ちょっと貸して下さい」探偵は蛍光ペンのキャップを外すと、ピンクの線を引きながら、ここからここまで、と強い口調で言った。

「なるほど。それで財布の中身は覚えておられますかな?」

「覚えていますとも。酔ってはいても、この伊集 煉斗は記憶力には抜かりなしですから」探偵は胸を張り気味に答えた。

「良いですか。バーで支払いをした時、一万円札が五枚あったところに一万円札で支払いをしました。つまり残りが四枚。返ってきたのが五千円札と千円札が一枚づつと百円玉硬貨が四枚。十円玉が八枚です」昨夜の出来事を詳細に述べる探偵の言葉を、メモを取りながら感心して、警官は聞いていた。

「釣り銭から五千円札が一枚、千円札が九枚、五百玉が三枚と百円玉が七枚に五十円玉が二枚、十円玉が十二枚です。残念ながら五円玉以下の硬貨は覚えていません」探偵の説明を聞き、警官は怪訝な表情を浮かべた。

「ちょっと待って下さい。そのお金の残り方、おかしくないですか?」警官の言う通り、確かにおかしな残り方だ。探偵の言う事を整理すると、バーでの会計前は、一万円札が五枚。千円札が八枚。五百玉が三枚に百円玉が三枚。五十円玉が二枚と十円玉が四枚あった事になる。会計が三千五百二十円ならばきっちり丁度支払えたはずなのだ。

「これは僕の悪い癖でしてね。何故か支払いを大きなものから払ってしまう。そのお陰でいつも財布の中は小銭ジャラジャラ、千円札の束でいっぱいだ」探偵は両手の平を耳元から上に向けて、気取った態度をとった。

「なるほど。それでそれ以外のものは覚えておいでですかな?」

「ポイントカードのJカードとURA銀行のキャッシュカード。それから運転免許証に全国探偵協会の会員証です」

「ほほぅ。貴男は探偵をされているのですか。それならご自分でお探しになった方が早いのでは?」警官は皮肉っぽく話した。

「あのね。いくら探偵と言ったって捜査権限や組織力が我々民間の探偵と警察ではまるで違う。それくらいご存知でしょ」探偵は少し膨れっ面をした。

「これは申し訳ない。それではプリントアウトしますので、内容を確認次第、署名捺印をお願いします」警官はニヤついた表情で言った。

それから財布の取得届けが届いたのは、三日後の事であった。

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