第4話
狼にも似た黒い化け物は、いまだに白い箱から離れようとしない。ただその周りをうろうろしているだけだ。
まるで、白い箱に近づくものを警戒しているように。
周りは森に囲まれ、木や茂みに隠れて、辺りを見回すことができない。
いきなり、その茂みの中から、拳一つ分ほどの石が飛んだ。
その石は化け物の頭にぶつかる直前で、化け物の鋭い牙で噛み砕かれる。
その直後に、石が投げられた方向の真逆の位置から、ほとんど音もなく、人影が飛び出した。同時に、最初と同じ場所から再び石が投げられる。
さらに少し遅れて二つ目の石が投げられる。
「グルガァッ!」
化け物が吠えた。
一つ目の石を交わし、二つ目の石は、再び噛み砕く。
だが、石に注意が逸らされたがために、空に投げあげられた小さな布袋に気づかなかった。
それは、気づかれることなく化け物の顔に落ちてきて、鼻先にぶつかる。
緩められていた袋の口が開き、中から吹き出た白い粉が舞い上がった。
「バフゥ!」
袋に入っていたのは、砂だった。その砂ぼこりによって視界が一瞬奪われる。
その瞬間、後ろから影が忍び寄った。彩華だ。
右手には、警棒のようなものが握られている。神夜が自分のバッグに入れていたものだ。
神夜曰く、とある友達につくってもらったものだという。
そして、この瞬間、さっきから石を投げていた神夜も飛び出していた。
彩華は、その棒を化け物の頭に全力で降り下ろす。
「グギィッ!」
化け物は初めて痛がる様子を見せた。
それは、持ち手の部分以外に電流が流れるスタンロッドだった。その電圧は辛うじて人が死なない程度の威力。
彩華は降り下ろしたスタンロッドを滑らかに振り上げ、再び降り下ろす。
「ギィ!……グルァッ!」
だが、それが三度降り下ろされることはなかった。
電気によってダメージを負いながらも、化け物は異常なスピードで振り向き、バキッ、という音とともにスタンロッドを噛み砕いた。
彩華は後ろに下がるが、化け物はにじりよってきた。思わぬダメージに、一瞬、白い箱のことを忘れたように。
彩華がスタンロッドを降って挑発する。
まるで、化け物の注意を引こうとしているように。
化け物は姿勢を低くして、飛びかかる構えを見せる。
彩華はそれに警戒しつつも、思わず笑みを浮かべる。
だが──
「グルガアッ!」
化け物は、後ろに向きながら飛びかかった。
その先にいたのは、神夜だった。気づかれないように白い箱にそっと近づいていたのだ。
彩華は囮。彩華に注意を向かせている間に後ろから箱に忍び寄っていた。そして、あと少しで白い箱に手を触れそうなるところまで来て、化け物に気付かれた。
神夜は走り出した。だが、その手が箱に届く直前──
左足が喰われた。
「ぐあぁあぁぁ、ああぁぁがぁぁあ!」
だが、それでも神夜は手を伸ばす。足が無くなった事によってバランスが崩れ、前に倒れる事も利用して、必死に、全力で手を伸ばす。
この、訳の分からない状況を打破するめに。
そして、倒れる寸前ーー
「オオオオオォォォ!!」
左手の指先が、白い箱に、触れた。
その直後、黒に覆われていた空に、一筋の光が突き抜けた。
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