パンドラワールド
ミクル蜜柑
第1話
2050年某日とある家。少年は夢を見ていた。
夢のなかで、少年は森を歩いていた。しかし、どうも、自分の夢ではない。視点が違うし、こんな森も見覚えはない。かと言って誰のものかもわからないのだが。
体は勝手に動いている。ただその夢の中の人が見ている景色をそのまま見ているような感じだ。
しばらく歩くと、少し開けたところに出た。その中央には小さな石造りの入り口がある。
この誰かも分からない夢の主は、そのままそのなかに入っていく。入るとすぐに下へと続く階段があり、中はだいぶ暗くなっている。
その時、急に前が明るくなる。どうやらもともと手に持っていたランプに火をつけたようだ。
すると、視界が急に切り替わる。
今は、目の前にこれまた石造りの門がある。それを開くと、中は真っ暗だった。ランプを先にいれてみてみると、広さは大きめの教室ぐらいだろうか、それなりに広い空間が広がっていた。
その中に目を引くものがひとつ。低めの台座の上にある、不思議な箱だった。それは、光を反射しているようであり、光を吸収し、それを自らで発光しているようでもあった。
ただ、中は黒く、その奥にも何か光が見えるような気がする。
夢の主は、そんな箱に近づき、手に取った。
瞬間、夢にも関わらず、とてつもない寒気を覚えた。己の本能が、全力でこの箱から逃げろ、近づくな。と訴えかけるが、自分の体ですらなく、さらには夢の中である。
そんな思考を全く気にすることもなく、その手は箱の蓋を開けた。箱から出たのは真っ黒なエネルギー。
そこで視界は再び切り替わる。
まず見えたのは、化け物だ。黒い化け物数体が街らしき場所の中に闊歩している。辺りには既に死体となっている人間が転がっている。
酷い有り様だった。
一人の男が斧を持って必死に立ち向かっていった。しかし、その斧が化け物に届く前に、殺された。
ここがどこなのか、今目の前で何が起こっているのかはわからない。しかし、1つだけわかることがある。分かるというよりは、感じる、というべきか。
とにかくそれは、この目の前の黒い化け物を、この夢の主が操っている、どころか、作り出してさえいることだ。
そんな恐ろしい光景を見ているのに声も出せない。
また、視界が切り替わる。
それはさっきの光景の、まさに逆であった。黒い化け物が人によって消されていく。だが、さっきは全く歯が立たなかったのに何故…と思っているとその理由はとすぐにわかった。
黒い化け物が現れると、神主のような格好の男性が、細長い紙を持ち、何か言葉を唱える。
すると、それに合わせたように黒い化け物の足下が光り、黒い化け物が消えていった。
人間が聞こえない歓声を挙げ、喜んでいる。人間の完勝だった。
だが、今までそばの物陰に隠れていたこの夢の主が、その人間達に向かって走り出した。
そして…人間達にその姿を見られる前に全員を殺した。文字通りの瞬殺だった。
視界は再び切り替わった。
死闘。そんな言葉がろくに働かない頭をよぎった。それはまさに死へ向かう闘いだった。
目の前には手に手に武器を握りしめた人間達。だが、夢の主はその大軍勢の真ん中で黒い化け物を生み出しながら駆ける。
人を殺し、殺し、殺して、殺した。背後から刺され、斬られ、殴られてもその勢いはとまらない。
気づくと、周りには誰もいなくなっていた。離れた所に残っている者達も近寄ってこなくなった。
だが、それは、人間達の罠だった。人間が必死に考え、足掻いて作った罠。悪魔はその罠に掛かった。
それは光。悪に対しての裁き、人間達にとっての救いの光。それはまさしく天から降りてきた。
それまで空にたれこめていた分厚い雲が裂け、もはや質量さえ伴った一条の光が降った。それは戦場に残されていた夢の主に落ちた。
視界が弾けた。
裂けた雲が見える。周りには人間が囲んでいた。その手に持った武器が一斉に降り下ろされる。だが、吹き上がる血はなかった。もはやその血すら残っていなかった。
だが、その時、憎悪にまみれた人間の顔が気味悪そうに歪んだ。少年はその理由がよくわかった。
夢の主が笑った。
死んでいてもおかしくないようなダメージをくらっただろう悪魔が笑う。
その意味がわかったのは全てが終わった後だった。目に光が入ってきた。さっきのような白い光ではない。黒い、光だった。
そのまま、視界が黒い光に包まれた。
その時、悪魔がどんな顔をしていたのかは定かではない。だが、少年には、確かにその声が聞こえた。
「愚カナ人間ドモヨ。コノ世界ニ俺ヲ留メテオケナカッタコトヲ悔ヤミ、絶望セヨ。」
悪魔はそう言って、その世界から消えた。
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