第19話 想い

俺の両親が銃殺された景色がフラッシュバックする。


いや、俺は異世界転生した時点で両親は生きていたはずだ。


両親は平和に生きており、死んでいるどころか銃殺された記憶があるわけもない。



ただ、今フラッシュバックしている記憶は間違いなく「俺の両親」が銃殺された時のものなのだ。


この記憶はなんなのだ。


記憶が早回しで再生される。


「両親」が銃撃されたのは、他国のスパイ疑惑からだった。


地下で反政府活動はしていたが、スパイではなかった、と後から話には聞いた。


何が本当の話かはわからない。


父さんが連れて行かれそうになって止めに入った母さんが撃たれた。


それを見て激昂した父さんも撃たれた。


俺は妹とその光景を見ているだけだった。


母さんはこちらを見ているようだったが、何も口は動かなかった。



警察の取り調べが終わった後は「妹」と親戚の家をたらい回しにされた。


数年かけて最終的に施設にいきついたが、どちらにもあまりいい思い出はない。


「妹」は6つ下で、ソバカスが多い赤毛の女の子だった。


俺にはよくなつき、たまに肩車してやっていた。


鏡に、肩車をしている二人が写る。


「俺の顔」として、知らない青年の顔が鏡にうつる。


二人とも楽しそうだ。 そう、二人でいる時は楽しかったんだ。


「俺」は、ある朝目覚めると、右手に指輪をしていることに気付いた。


「俺」は選ばれたんだ。


両親が死んだ時依頼の感情の昂りを感じる。


これで金が手に入る。


蔑まれて邪魔者扱いされることはなくなる。


警察や親族が、俺と妹を邪険に扱ったシーンがフラッシュバックする。


「俺」は攻撃タイプのロボを相棒にした。


馬車や個人店への強盗と、新人狩りによる換金が効率よく稼げた。


妹は俺に少し怯えるようになった。


肩車は最近しなくなった。


鏡には、「世紀末ファッションの男」が写っていた。




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「おい!大丈夫か!?」


少年の声が聞こえる。


土の味がする。


少年に肩をゆすられている。


また俺は倒れてしまっていたようだ。


「目が覚めたかの。」


じいさんトカゲが砲台を確認しているが見えた。


俺は立ち上がり、あたりを見渡す。


世紀末ファッションの男は逃げてしまったのか見当たらない。


ネコ型ロボは暇そうに毛繕いをしていた。


日はそこまで落ちておらず、夕方になりかけのままだ。 あまり時間は経っていないようだ。


「指輪を重ねることで、お主はあの男に勝利した。」


状況を理解していない俺に、じいさんトカゲが説明を始める。


「中央管制塔にお主とあやつの情報が送られ、勝敗を認定したのじゃ。」


「これからお主は、同じような戦いを勝ち続けなければならん。」


「お主には、勝利に対する報奨金と、充電済みバッテリーが追加で貸与される。」



「俺は、気絶していたのか? さっきの記憶はなんなんだ?」


じいさんの説明も魅力的だったが、まだ俺の中には謎の記憶が残っている。


記憶を思い出そうとすると、新しい「知らない記憶」が付随して再生されてしまう。


俺の中に他人の精神が流れ込むようでとても気持ちが悪い。


「見えてしまったのか。」


じいさんトカゲは少しため息まじりに驚くと、


「アレは、失敗作でな。 見えんやつの方が多いんじゃがの。」


「来なさい、中で説明してあげよう。」


じいさんはスーツの内ポケットから、綺麗な紫の絹の布を出した。


その布で、まるで大切なものでも扱うかのように砲台を丁寧に包んだ。


「もちろん、お主が気に病むことはないんじゃが。」


おじいさんトカゲは両手で包まれた砲台をかかえている。


「敗北したこいつは、二度と動くことはないのじゃ。」



「強いものは、弱いものの想いも背負って進む必要がある、ということなのかの。」


おじいさんトカゲは、少し困ったような顔をしていた。

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