第20話 墓
俺たちはじいさんトカゲに連れられ、店の地下へ向かった。
地下室は土を固めただけの土壁で、とても簡素な作りだった。
3メートルほどの幅の地下室が、奥まで長く続いている。
壁際には、ズラっとロボが並べてあった。 全部で50台はあるだろうか。
どれも埃と砂をかぶり、長い間動いていないように見えた。
おじいさんは地下室の奥に向かって歩いた。
ランタンで灯りをとってはいるが、地下はだいぶ暗く、寒い。
「こいつらをいつか目覚めさせてやれないかと思っての。一応保存しておいてはいるんじゃ。」
「まぁ、現実的でないことはもはや明らかなのでの。今ではただのお墓かもしれんの。」
冗談なのか自虐なのかわからず、俺は無言でついていった。
暗かったので、少年の表情も読めない。
奥の方のロボの前には、それぞれ、何かハーブのような植物と火の消えた蝋燭が置かれていた。
何かの儀式のようだ。
手前にあったロボの前にはなかったが、かつては置かれていたのだろうか。
ロボがまだ置いていない場所までくると、じいさんは止まった。
布から砲台を取り出すと、床に置いて、こちらを見た。
「さぁ、戻ろうか。」
儀式は一人でするのだろうか。
俺たちが店内に戻ると、黒い炊飯器は寝息を立てていた。
緊張の中一人で放置されてしまい、疲れてしまったのだろうか。
マイクをつけてすぐペラペラと喋ってはいたが、生まれたてである。
精神的には幼い面もあるのかもしれない。
俺たちは炊飯器をおこしてしまわないよう小声で話を続けた。
「さっききた男は、明らかに報奨金目当ての登録者だったな。」
「機体の力を悪用して、金になることはなんでもする輩じゃ。」
「じゃが、本来この機体同士の戦いは、村長や、町長、あるいはそれ以上の施政者を決めるための大事な戦いなのじゃ。」
「長い歴史があって今の形にたどり着いたんじゃが、『人が理解し合うとは何か』。これが、長い間、問題となっておったんじゃ。」
「政治主体を細かく分割してイデオロギー毎に国を作らせたり、世俗化の強制排除が試みられたり、とにかく色々な方法が試された。」
「が、それらの政治主体を管理する、最高権力者に関してだけは、とにかく意見がまとまらなかったのじゃ。」
「王、あるいは政治家も一人の人間であり、農民や商人、貴族、黒人、白人、男女、全ての代弁者足りえることは難しい。」
「それでは結局、不満を持つものが出てきてしまう。」
「そこで編み出されたのが、『みんなの気持ちが本当に理解できる王様の生成』じゃ。」の
「そんな人間はもちろん実現しない。だが、実現しないのであれば、作ってしまえばいい。という本当にグロテスクな発想じゃった。」
王様の生成。
嫌な予感のする力強い単語だ。
緩くなったお茶を飲みながら話を聞く。
「最初は人間で実験がなされたが、なかなか上手くいかなかったようじゃな。 記憶に拒絶反応が生じたのじゃ。」
「拒絶反応、つまり免疫反応回避のために、記憶抑制剤、なんてのも使われとったが、それも失敗に終わった。」
「結局はその『王を生成するプロジェクト』自体、破棄されてしまったようで、詳細は伝えられておらん。」
「一度完成してはいたが、何者かに破壊されたとも言われておる。」
「しかし、『生態による機体認証ユニット』、つまり、その指輪のことじゃが、その指輪は今言ったプロジェクトを進行していた者達が作ったものでな。」
「さっきいった機能が不完全ながら、入っているのじゃ。」
「その不完全な機能が先ほど発動し、お主が見たという記憶のリフレインが発動したのじゃろう。」
「お主は、真の意味で『皆の気持ちが理解出来る王』になれるかもしれない、希有な存在の一人じゃ。」
「じゃが、仮に理解が出来ていたとしても、それを信じてもらえるかはまた別の話じゃ。」
「それに、複数記憶の所持は、お主の精神に負荷をかけ過ぎる。 あまりお勧め出来ない選択じゃな。」
俺も同意見だった。
無理してまで皆のための王様になることはない。
「そういえば、おじいさんは指輪をしていないんですか?」
俺はさっきから気になっていたことを聞いてみた。
ネコ型ロボットはおじいさんの機体なのだと思ったが、おじいさんの指には指輪が見えない。
また、さっきの戦闘でも俺は何も闘っていない。事実上おじいさんの勝利でしかないのだ。
なぜ、おじいさんの指輪を重ねなかったのだろう。
「こいつはワシの契約機体じゃないんじゃ。」
「ワシの孫、今生後半年なんじゃが、その子の契約機体での。まぁ、色々わけありなんじゃ。」
「さて、話はこんなもんかの。」
じいさんに話を切り上げられてしまった。
「お主の機体カスタマイズに戻るとしよう、足はタダのパーツで良いが、報奨金も入るじゃろ。 武器もつけていくといい。」
そうだ。俺は炊飯器のカスタマイズに来ていたんだった。
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