第18話 戦闘
「まだそこにもいんだろう!出てこいよ!!」
男がこちらに叫んでいるようだ。
「じぃさん。」
少年は膝をついたまま呆然としている。
頼りになりそうなおじいさんトカゲはやられてしまった。
残りは、少年と俺と、家の中のお嬢様ロボ(タイヤをつけて無いので動けない)。
これは割とピンチなのでは? 男の砲台はこちらに照準を定めているようだった。
「ここは危ないから逃げよう」
俺が少年の腕を掴んで移動させようとしたその時、
「今じゃ!!!」
遠くからおじいさんトカゲの声がした。
窓が割れる音がし、水色のネコ型ロボが店から飛び出した。
ネコは砲台に向かって全速力で走っていく。
「チッ! 撃て、撃てぇ!!」
砲撃が2発はなたれた。
ただし、言葉通りのタイミングではなかった。
1発撃ったあとに4秒ほど間があいた。冷却か何かに時間が必要なようだ。
ネコは2発の着弾を泳ぐように掻い潜ると、男と砲台の前に瞬く間に対峙した。
沈黙が流れる。
男も次に避けられると、装弾までの時間で自分が攻撃されることを感じているようだった。
ネコはどんな攻撃をするのだろうか。
俺にはネコが硬そうな砲台を破壊するイメージが浮かばなかった。
人間の方を噛みちぎるのだろうか。
少年も息を飲んで動かずにいる。
「ほいしょお!」
急に砲台が宙にうかぶ。
砲口が空に向いた。
「なんだ?!」
男が驚く間にネコが近くにあった岩を尻尾でつかみ、砲口にたたきこんだ。
バスケットの名プレーを見ているかのような速さと洗練された動きだった。
砲台は、投げ捨てられるようにひっくり返され、地面に転がった。
「来い!」
おじいさんの声がするので、走って戦闘現場に向かう。
近づくと何が起きたか、おおまかにだが理解出来た。
目の前では、鱗が地面と同色の大トカゲが、男に睨みをきかせている。
この大トカゲ、メガネと黄色い目がおじいさんトカゲと同じだ。
恐らく、これがおじいさんトカゲなのだろうが、いつの間にか四足歩行になっている。
このおじいさんの口で砲台を持ち上げていたのだろう。
ことの顛末はきっとこうだ。
砲撃の土煙に紛れ、自分を見失わせ、四足歩行で目立たずに男の後ろに移動する。
素早いネコに対峙させ、ネコに注目している隙に、後ろから砲台を持ち上げ、無力化させる。
完璧な作戦だ。
少年はまだ、何がおきたかわかっていない様子で、ぽけーっとした顔をしていた。
犯人の世紀末ファッション男は、怯えた顔で尻餅をついている。
無理もない。
頼みの砲台は無力化され、尻尾まで含めると2メートル以上の、巨大なトカゲに睨まれているのだ。
砲台はひっくり返ったまま、ネコにツンツンと遊ばれ、たまにガタガタと抵抗している。
おじいさんは、男を睨みつけながら、こちらに喋りかけた。
「今から、こいつの指輪に、お前の指輪を合わせる。」
「それが勝利条件なんじゃ。」
おじいさんトカゲは前脚を器用に使い、男の右手を動かないように地面に押さえつけた。
「さぁ早くするのじゃ。 少し混乱はするだろうが、何も怖いことはないから。」
男は右手の小指に指輪をしていた。
おじいさんのいう意味はよくわからないが、男の指輪の上に自分の指輪を重ねる。
「もっとしっかり!」
おじいさんトカゲに怒られる。
おじいさんトカゲの鱗はもう、保護色の茶色から、元のくすんだ緑色に戻っていた。
カメレオンやイカのような生物的変化よりも、光学迷彩のような機械的変化に見えた。
剥がれかけの鱗が風に揺れている。
俺は指輪をしっかり重ねようと試行錯誤する。
しっかり重ねるってのはどういう状態なんだろう、重ねる行動に何の意味が?
大激戦のうちに時間も過ぎていたのだらうか。 空も少し赤くなってきていた。
指輪から、何かカチっとハマるような音がした。
俺は、俺の両親が銃殺されたことを思いだした。
目の前が暗くなり、意識が薄れる。
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