第2話 山
工具箱のフタは、残念ながら開かなかった。
中にメッセージでもあるかと期待したのだが。
手にとって振ってみると、中にいくつかモノが、入っているようで、ガラガラガチャガチャと音がする。
箱自体はそこまで重くはない。
中には間仕切りがあるのか、傾けても、あまり大きくは動かなかった。
あまり激しくして中のモノが壊れても嫌なので、このくらいにしておこう。
箱はいつか開けることが出来るかもしれないし、最悪、この箱であれば、壊して中を確認することも出来そうだ。
なるべくなら、壊さずに開きたいものだが。
裏面や下面を確認すると、下に製造年月日と製造関連情報が日本語で記載されていた。
日本語が通じる世界なのか、俺がそう認識している(何かの力で自動翻訳されている)だけなのかはわからないが、言葉の壁は無さそうだ。良かった。
少し旧字体が混ざっているが、ちゃんとした平仮名カタカナ漢字で構成される、日本語だった。
製造箇所には、羅馬とかいてある。
これは読めないな。
中国の地名だろうか。
多分、この工具箱と帽子は、俺の所有物なのだろうと判断し、俺は帽子をかぶり、工具箱を手に歩き出すことにした。
山に登る道と、山を降りる道に繋がっていそうだったので、山を降り、人を探すことにした。
まだ喉は乾いていないが、ずっと山にいる訳にもいかない。
モンスター……はいるかどうかわからないが、野犬や熊なんかは十分出てくる可能性がある。
「ガサッ」
少し離れた草むらが揺れた気がした。
風にゆれたのか、木の実でも落ちたのか、何かがいるのか。
草が深くしげっており、少し離れた場所に何が隠れていても、視認は出来ない。
空には小鳥が飛んでいたので、この世界に動物がいることは間違いない。
俺は、この山に大型肉食獣がいないことを祈りながら、なるべく音を立てないよう、早足で小道を降りていった。
2時間ほど山を降りたのだろうか。
時計がないからわからないが、涼しい気候でも汗だくになるくらいには既に山歩きをしている。
最初の道を、登るべきだったのだろうか。
子供の体ではそろそろ限界がきそうだ。
異世界にきてそのまま山で孤独死するパターンもあるのだろうか。
有名な異世界成功ストーリーは、みんな生存者バイアス(すぐに死んだ転生者は、語り継ぐことも出来ない、認識すらされない)。
そんな可能性もなくはない。
語られない、転生後すぐに死んで、おしまいのパターンも実はあるんじゃないのかな。
今日は人里を諦めようか。
水もテントもないが、野宿の準備でもしてみようかな。
そう考え始めたとき、木の影に小さい村が見えるのを見つけた。
もう少し降りれば辿り着きそうだ。
土を焼いたレンガ造りの家らしきものが何軒か見える。
日本文化圏の家ではないな。
見知らぬ家の造形に、少し緊張する。
本当に言葉は通じるのだろうか。
家の周りには、恐らく畑らしきものが確認出来る。
稲作ではない。野菜を作っているのか?
転生即遭難死は避けられたのだが、この後どうしたものか。
冒険者でもなさそうなので、ギルドや酒場が行き先ではないんだろう。それに金もない。
子供の姿だし、遭難したので助けてくれないか。と、正直に言ってみるか。
あるいは仕事を探してる、と言えばいいのか?
そもそも村に入る前に怪しいヨソ者として追い出されるリスクもある。
頭も体も疲れてきた。
近くに岩を見つけたので、岩の上に座り、休憩をしながら村を観察することにした。
村の家には煙突らしきものが見えるので、火は使っているようだ。
村人の姿は見えない。
畑の植物が緑なので、捨てられた村ではない……はずだ。
疲れからか、岩に座ると、少し眠くなってきた。
ここなら、人里も近いので、危険な獣も少ないのではないだろうか。
今日はこの岩で寝るのも悪くないかもしれない。
少し日も暮れている。
突然、後ろから声がした。
「マスター、不審者ヲ発見、排除シマス」
銃の撃鉄を起こす音が聞こえた。
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