第3話 不審者

「排除シマス」


その不穏なセリフに一気に脳が覚醒した。


飛び起き、後ろを見る一瞬の間に、


「自分は隣町から来た遭難者であり、怪しい者ではない」


と、即座に弁明する準備をしていた。


が、振り向くと、言葉は止まってしまった。




そこには、4本の足の炊飯器が立っていた。


正面には銃口がついており、確かに、俺に対して向けられているのだが、本体は足の生えた炊飯器にしか見えない。


俺は、炊飯器に銃口を向けられ、両手を上げている。


少しお腹が空きすぎているのだろうか。

ご飯が食べたいと思った。



「ゴメちゃんダメって言ったでしょ!! すぐに乱暴しちゃ!」


飼い主のようなセリフを言いながら、女性が走っておいついてきた。


古臭い花柄のスカートに白シャツ。

東欧の伝統衣装、そんな感じの服を着ている。


顔はアジアとの混血だろうか、はっきりした顔立ちだが、白人ともアジア人とも断定できなかった。


小麦粉とバターのいい匂いがした。

ご飯ではなくて、パンが食べたくなってきた。



俺は両手を上げたまま、彼女に事情を説明することしにした。


「驚かせてしまいすみませんでした。自分はこの山で遭難してしまったようです。 どこから来たかもわからず困っています。 危害を加える気はないですので、撃たないでください。」


なるべく笑顔を絶やさず、でも、早口に伝えた。


彼女の雰囲気からあまり危険を感じなかったので、あまり取り繕わず、嘘のない説明になった。



高校生くらいの年齢だろうか。 今の自分より力は強いかもしれない。

説明をしながらそんなことを考えていた。


我ながらまずまずの対応はできたと思う。 子供の姿なので、少し上手にやりすぎかもしれない。


炊飯器の雰囲気も、コメディにしか見えず、あまり危険には思えなかった。




直後、強烈な爆発音と、金属を強くぶつけたような音が耳をつんざいた。




あまりの音と衝撃に、俺は耳を塞ぎ、倒れた。


銃口から煙が出ているのが見えた。


俺は、炊飯器に撃たれた。

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