炊飯器SF 〜異世界転生した俺は、ハーレムも魔法もざまぁもないので、見た目が炊飯器(黒)なヒロインとこの世界を生き抜く〜

ロボ太郎

第1話 異世界の始まり

俺の名前は星場作(ほしばつくる)、ゆとり世代のしなびたおっさんだ。


小さい頃は、友達とミニ四駆作ったり、ロボゲーしたりして熱くなるものもあったが、最近は全然ダメだ。


前職を辞めてからは、熱くなれる仕事も見つけられず、ダラダラと慣れない仕事を続けている。


仕事もあり、別に不幸な生活ではないはずなんだ。とても幸せ、とは言えないだけで。


ある日俺はトラックにはねられた。


薄れゆく意識の中でも、強い後悔や恐怖はなかった。


もっと熱く、思いっきり生きられれば良かったのにな。

でも、生まれ変わってもまたダラダラ過ごすんだろう、多分俺は、そういうやつだ。


思い出は沢山あった筈なんだが、走馬灯は流れなかった。




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土の匂いがする。


目を開けると地面と草が見えた。

どうやら俺は森の中の小道に倒れていたようだ。


木々の葉が風にゆれる音も聞こえる。


少し心地よかったのだが、いつまでも寝ている訳にはいかない。


ゆっくりと立ち上がり、土と石を払う。



何だかとてもスッキリとしている。


持病の肩こりも、酒の残った感じもしない。

良く寝たからだろうか。

自然の中にいるからかな。


そんなことを思いながら携帯を探して腰のポケットを探すが、ポケットがない。


よく見るとズボンがいつものものではなく、まるで子供用のオーバーオールを着ている。


慌てて自分の手を見ると、子供の手に見えた。

見慣れない指輪もしている。



なんだこれは。


そういえばトラックにひかれたような記憶も戻ってきた。


異世界転生?異世界召喚?ってやつかこれは。


あまり詳しくはないが、なんとなくはわかる。


冴えない奴が死後にファンタジー世界に飛ばされるってやつだろう。


確かに俺も冴えなかったからな。

魔法でも使えるようになってるんだろうか。


あるいは勇者になってハーレムモノか。


ただ、いかに幸せな環境であっても、自分がそこに馴染めなければ、心から幸せになれないことは理解している。



異世界にきて、人生をやり直せるにも関わらず、俺はそこまでワクワク出来ずにいた。


今までの人生だって、自分で良くしようとすれば、出来たはずなのだ。



とりあえずあたりを見回すと、自分のすぐ後ろにハンチング帽と工具箱があった。


工具箱自体は無骨で作りが荒い。


箱の角には少し隙間があり、箱自体の質は低そうだ。


板は少し風化しており、歴史を感じる代物だ。


明らかに現代のものではない。



しかし、その無骨さとは不釣り合いな、何か繊細な装飾?がとりつけられている。


機械じかけの仕組みのように見える。


鍵か、箱の開閉サポート機構だろうか。


細い金属の管と歯車を組み合わせたデザインが、産業革命時代やスチームパンクを彷彿とさせた。



この姿といい、工具箱といい、俺は、スチームパンク世界でメカニック見習いにでもなるんだろうか。


トラックにひかれても揺れなかった俺の心が、今は少しだけ、興奮しているのを感じる。


俺はこの世界に興味があるようだ。



そうか、なるほどな。


もしかすると転生先っていのは、自分の望みか何かが多少は反映されるのかもしれない。


俺は人生を楽しむのが、下手なままだろう。


周りを勇気付けることもできない。


そうすると、この世界でも勇者みたいなヒーローをやるのは、きっとメンタル的に無理なんだろう。


でも、工作は(小学生以来だが)好きだし、ロボ的なものも好きなんだ。



そんな世界で生きていけるなら、転生も悪くないのかもしれない。そう思った。



道に置かれた古い工具箱が、知らない世界、知らない森の中で、唯一の仲間なように感じられた。

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