第1話 黄色の靴
「よぉ、今日の任務はどうだったよ?」
「まぁいつも通りです。」
「相変わらず上司にニコリともしないなお前は。」
「別に報告だけですし。」
「年下は愛嬌が1番良いんだよ。」
そうすればコーヒーのひとつでも奢ってやるのに、とぼそほぞ呟いている上司の言葉を軽く無視して、俺は目の前の報告書を見つめていた。
「今回は、公園か。子供達がいっぱい遊んでるところに危ないなぁ。」
「見つかった公園は、5年以上前に出来た古い公園です。きっと子供目当てに仕掛けた敵軍が居たんでしょうね。」
警察の中で特別に組織された集団、いわゆる爆弾処理をするグループに、俺は所属している。
そのグループの中でも、俺たちは地雷や不発弾などの処理をメインにしていて、知識も技術も能力も厳しいテストを乗り越えなくてはなれない。
とてもハードルの高い場所だからこそ、危険と隣り合わせの仕事だけれど、安全を守った後に「ありがとう」と感謝されればまた頑張ろうと思える。
俺はこの仕事に誇りを持っているし、良い上司にも恵まれて充実しているから。
「ちょっと昼食とってきますね。」
「ああ、時間までには戻ってこいよ。」
「大丈夫です。」
上司に一言断りを入れて、俺は建物から外へ出た。
今日の最高気温は30度超え。
ジリジリと地面を揺らすほどの暑さは、じっとしているだけでじわりと汗が滲んだ。
舗装されたアスファルトに、規則正しく車を従わせる信号機。
そして街の中で何十階建ての建物が立ち並ぶ。
今はこんなに発展しているこの国も、ほんの数年前には内戦が行われていた。
今では青い空も、昔の子供達は本当の空の色を知らなかったというのだから。
毎日爆弾のせいでどこかが燃えて、その炎が天高く登り空を赤色に染めていた。
それが日常であって、灰色の雲と赤い空が子供たちのイラストに描かれていたという。
そんなショッキングな出来事を聞いた時は、さすがに心が痛んだ。
戦争が終わって10年。
まだ風化する程度までにはいっていないものの、この出来事は忘れてはいけないと思う。
なにより、発展していた国の中で起きた内戦は、大砲を打ち合うなんて言うような幼稚な戦い方ではなかった。
相互の偉い人が数週間に1度変わるあの世界は、まだ幼かった俺にとっても深く印象が残っている。
変わる度に、あの人は亡くなったんだな、敵軍に殺されてしまったんだと、一つ一つを理解するほどの頭はなかったのだけれど。
ビルに爆弾を仕掛けられて爆発したり、電気を止めて生活することを困難にしたり。
結構激しい内戦ではあったはずなのに、10年もあればこれだけ復興できるのだから、技術というのは本当にすごい。
今じゃごく一般的な都会と化しているし、世界と比較しても決して負けはしないくらいだ。
けれど、このアスファルトのヒビの中に、まだ内戦の跡が沢山残っている。
公園で砂遊びをしていた子供が、純粋な笑顔で手に抱えていたものが不発弾。
家に持ち帰った瞬間に爆発し、家もろとも粉々になってしまった。
俺は、そんな子供を1人でも救いたい。
爆弾で命を落とす人を、無くしたい。
……暑くて頭がクラクラしてきてしまった。
そろそろどこかに入らなければ、溶けてしまいそう。
俺は、適当に目に入った食事屋に入った。
「それで、この書類を見て欲しいんだ。」
食事をとって帰ってくると、部長に呼ばれて書類を渡された。
大きな見出しには〝爆弾人間〟というなんとも言えないネーミングセンス。
「どういうことですか?」
さすがに意味がわからなくて、詳細を部長に聞けばその現実はあまりにも残酷だった。
内戦で使われるはずだった爆弾がある施設で発見された。
現在、爆弾を許可なく管理することは法律で禁止されているため、警察がその実験施設に捜査に入り、爆弾を見つけたのだが。
その爆弾は、人だったらしい。
いや、正式には人の心臓に爆弾を埋め込まれている少年が地下深くの部屋で見つけられたということだ。
爆弾のスイッチは博士が持っているらしいが、拘束されて取り調べを何時間も受けているのに全く真実を吐かないらしい。
その少年をどうするか、という問題が発生していて爆弾処理班と手を取り合っているようだ。
「……それで、それをどうして俺に?」
「お前と年が一番近いんだ。その少年はお前の2個年上。ちょうど内戦の時に程よい年齢で誘拐されたまま行方が分からなかった少年だということも分かっている。」
「ええ。」
「……爆発に耐えられる施設にその少年を移動させて、そこで一時期保護しようという動きに決まった。けれど体調管理やら爆弾の状態やらを分かる人がその爆弾を管理をする必要がある。」
「それに、僕が選ばれたと?」
「ああ、とても危険な任務だが何かあっても大丈夫なように施設は頑丈にしてある。先程も言ったように少年とコミュニケーションを取りやすいように歳が近い君を選んだんだが。」
その少年は、保護されてから一言も話していないらしい。
話しやすい人間が管理する、という面では確かに年齢が近いという条件は悪くない。
「どうしても嫌なら断っても大丈夫だ。ただでさえも大変な仕事が増えるのだから。遠慮はしなくてもいい。」
「……やります。」
俺は、案外仕事に熱心なのかもしれない。
こんな危険な任務を、しっかり引き受けてしまうのだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます