第3話 成長
朝食の後片付けが済むと、サリーは出かける用意をする為に自室へ向かう。
ミリアとクロノは、特に用意する物もない。
サリーの準備が整うまで、椅子へ腰掛け待機する事にした。
クロノは部屋の中をキョロキョロと見回している。
「何か探しているの?」
尋ねたが、クロノは首を横に振った。
そして視線をこちらに移すと、質問を一つ投げかけてきた。
「なんでここは、暗くないの?」
暗闇しか知らないクロノにとって、一番聞きたい事だった。
なぜ明るいのか疑問だったのだ。
あまり聞き慣れない質問に対して、どう答えたら良いか少し悩む。
ーーなんて答えたらいいかな。
考えを巡らしている内に、窓辺から差し込む朝日が目に入る。
「クロノ、こっちにおいで」
ミリアは席を立ち、クロノを窓辺に誘った。
窓から外を見る。
この家が高台に建てられているのが分かる。
なぜなら眼下に広がる大きな街が、ここからよく見えからだ。
先程サリーが言っていた街は、想像していたより大きい街だった。
ーー綺麗な街並み。
屋根が赤色に統一されている。
ミリアは本来の目的を忘れて見惚れてしまった。
「どうしたの?」
声をかけられ、ハッとする。
ーーいけない。私ったら。
傍らにいるクロノに視線を落とす。
クロノは急に動かなくなったミリアを見て、怪訝そうな顔をしている。
「ごめんね。ほら、上を見て。あんまりジッと見たらダメだよ」
そうやって太陽を指し示した。
クロノは指の先にある光を、目を細めながら見た。
「チカチカするね」
眩しさに、シバシバと瞬きを繰り返す。
「あの光があるから、明るいんだよ。それでね、夜になると、あの光は隠れちゃうの」
「隠れちゃうの?」
「そう。いっぱい輝いて頑張ったら疲れちゃうでしょう?だから、お休みさせてあげないとね」
「そうだね!」
クロノは楽しそうにする。
そんな姿に微笑みながら、ミリアは説明を続けた。
「太陽がお休みの間は、『夜』って言って暗くなっちゃうの」
「そうなんだ」
暗闇が怖いクロノは、残念そうに肩を落とす。
「でもね、お休みが終わったら、また明るくしてくれるの。ずっと暗いままって事は、もう無いんだよ?誰もクロノの事を閉じ込めたりしないから、ね?」
クロノのトラウマを和らげる為にも、そう言った。
クロノは考える。
そう簡単には払拭出来ることではない。
長年積もり積もった感情なのだから当然だろう。
だが、ミリアの言葉だ。
自分を暗闇から救い出してくれた事を理解しているクロノは、彼女を無条件で信頼している。
彼女が言うならそうなのだろう、と納得した。
「わかった!」
クロノは大きな声で返事をした。
クロノが元気良く返事をした所で、サリーが部屋から出てきた。
「あら?何のお話かしら〜?」
戯けるような仕草をしながら、クロノを捕まえようと近づく。
「キャァ!」
奇声を上げ楽しそうに逃げ回るクロノ。
実に子供らしい行動だ。
クロノは捕まると、そのままサリーの腕に抱かれた。
「それじゃあ、行きましょうか」
彼女に促されて、ミリアも外に出た。
高台に吹く風がミリアの髪を撫でる。
サリーの家は、小高い丘の上に建てられていた。
見下ろす大きな街も、さほど遠くない。
歩いて十分程だろうか。
高台ということもあり、街を一望することができる。
「いい眺めですねぇ」
「そうだろう?この家を購入した理由の一つが、この景色さ」
サリーは自慢げだ。
これだけの眺望が拝めるなら納得だ。
しかし、購入した理由が他にもありそうな言い分だ。
それが少し引っ掛かかるが、今は綺麗な街並みを堪能した。
クロノがサリーの顔を見て喋る。
「何で全部、同じ色なの?」
景観を作り出す赤い屋根の色。
それらが何故統一されているのか、クロノは疑問を持っていた。
「何でだろうねぇ?ずっと昔から、この色に決められているみたいだけど。分からないわ、ごめんね」
他所から引っ越してきたサリーにもわからなかった。
知っているのは、この街の歴史が何百年と古いこと。
そして、昔から赤色で統一されている事。
ーー今度、族長の誰かに会ったら聞いておいてあげよう。
サリーは、そう思った。
明確な答えが返って来ず、クロノはキョトンとする。
しかし、固執することはなかった。
視界に入る目新しい物が多かったからだ。
色々な物に興味を持ち、質問は途切れる事はない。
そのうち、自ら触れたくなったのか、サリーの元をスルスルと降りた。
空の色や雲の事、草花や木々、建物などに触れながら聞いてくる。
知りたいものが沢山あって、興奮しているのが良くわかった。
その姿にミリアは思う。
ーー何も知らないんだ。あの泉の中の記憶しかないのかな。あの場所で生まれたの?でもそれは考え難いかな。
彼に記憶がない為、確かめようのない事柄。
それでもなお、クロノの生い立ちが気になった。
クロノは無邪気に草花を触っている。
そして、思い出したかの様にミリアと手元に戻ってくる。
純真無垢なその子の手を握り、横並びで一緒に歩いた。
街に入ると、人の多さに圧倒される。
露店の立ち並ぶ通りは、買い物客でごった返している。
ミリアは人混みの凄さに気後れをしてしまう。
ーーこんなにたくさん密集しているのは見た事ないわ。
そんな彼女の後ろで、クロノはワンピースに掴まり密着する。
「す、すごい人ですね」
ミリアが街を見回しながら歩く様子を見て、サリーが説明する。
「この街は、獣人の国でも一番大きい街でね。『ナイタス』って名の街で、この国の中枢なのさ。人間の国と貿易をする為にも、重要な街として発展してきたんだよ。だからここには、いろんな物資と人が集まるのさ」
その言葉通り、辺りを見渡すと、見たことのない鉱石や、食料品、日用雑貨などがあちらこちらで売り買いされている。
それらに携わる商人達の熱気が、この街の活気を作り出しているように見えた。
「ほら、見えてきた。あの大きな建物が運び屋の仕事場なのさ」
賑やかな街を歩く中、サリーが指差した。
一際大きな木造の建物が見える。
辺りは二階建ての建物が多い中、その建物は四階建てになっており、良く目立つ。
近づくとその大きさがよくわかり、見上げる程だ。
その建物についた木彫の大きなドアを開けて、サリーは二人を促し建物に入った。
とても広い空間に、木枠の箱や、何かが目一杯詰められた麻袋などが、あちらこちらに山積みされている。
広い空間の奥には、荷車を通すための大きな出入り口があった。
その手前で男達が、荷車に積み込みを行い忙しそうに動いている。
サリーは二人を連れて、積み込み作業をしている一人の男性に近づいて行く。
「カリム。ディーバは、いるかい?」
その声に反応して男性が振り向く。
「あ、サリーさんどうも。アニキなら護送で出てますよ。今日は戻ってこないかもしれませんね。そちらの二人は?」
ミリアの顔を見て思い出したのか、驚きの表情を見せる。
「良かった、歩けるくらい元気になったんですね」
「え?えぇ」
自分の事を知っているみたいだが、会ったことがない。
ーー誰だろう?知らない人だけど。
困惑の表情をしていると、サリーが話し出す。
「ミリアちゃんが魔獣に襲われた時に、この子も手助けしたんだよ」
「そ、そうだったんですね!助けていただきありがとうございました。私ミリアと申します。この子はクロノです」
紹介されたクロノは、ミリアの後ろに隠れながら小さくお辞儀する。
「私はカリムと言います。この子も無事でよかった。あれだけ冷たかったから、助からないと思ってましたよ。本当に良かったですね」
二人の無事を、彼は素直に喜んでいた。
丁寧な話ぶりに、彼の礼儀正しさが見てとれる。
彼はサリーに視線を移す。
「それで?どうしてここに?サリーさんがここに来るの珍しいですね。というかアニキが来て欲しくないだけか」
カリムは含み笑いしながら、そう言った。
サリーはここで、ミリアを連れてきた理由を、初めて明らかにする。
「ミリアちゃんなんだけど、ここで雇って欲しいの。ほら、ここ誰も掃除しないでしょう?男ばっかりだし。だから掃除係で、お仕事を紹介しようと思ってね」
雇って貰うとはどういう事なんだろう、とミリアが思っている時、痛い所を突かれたとばかりに、頭を掻きながらカリムは苦笑いをした。
「はは、確かに誰も掃除しないですからね。そうゆうことなら、二階にいる、『キシム』様にお話したらいいですよ。サリーさんの言うことなら、断ることもないでしょうし」
「そう?なら、ちょっと二階上がるわね」
「どうぞ」
そうして、サリーは階段を目指してスタスタと歩いて行く。
とりあえず付いていくしかなく、思考を巡らしながら後を追う。
ーーお手伝いと話していたが、雇うとはどうゆうことなんだろう。
そんな疑問を他所に、サリーは階段を上り始める。
何も言わないサリー。
ミリアも黙って階段を上った。
慣れた様子で、一つの部屋を目指すサリー。
軽くノックをすると、部屋に入って行く。
部屋の中には、仕立ての良いスーツを纏い、落ち着いた雰囲気を持つ獣人の男性が、机に向かい書類作業をしていた。
サリーと同じ狼族のようだが、人間に近い容姿をする半獣人だ。
獣人のディーバに比べると、体の線が細くてスーツが似合っている。
彼は部屋に入って来た人物を一瞥すると、驚いた様子で口を開いた。
「これはサリーさん、ここに来るのは珍しいですね」
珍しい訪問者に、仕事をする手を止めて三人を見る。
「ディーバなら今日は護送に出てもらってますのでいませんが、そちらの方は?」
サリーに問いかけ、ミリアとクロノに視線を移した。
「キシムちゃん、紹介するわ。この子はミリアちゃん。それでこっちがクロノちゃん」
それぞれに手の平を向けて、サリーが二人を紹介するのに合わせて、ミリアはお辞儀をした。
それを受けて、彼は自己紹介をする。
「初めまして。キシムと申します。この運び屋で、代表を務めています。お見知りおきを」
とても丁寧な口調だ。
代表を務めているだけ慣れているのだろう。
彼は緑色の瞳を輝かせて、二人をじっくり眺める。
「人間のお嬢さんとは珍しいですね。それで?どういったご用件ですか、サリーさん?」
彼は視線をサリーに戻すと、用件を伺った。
「ミリアちゃん達を雇って欲しいのさ。ほら、今クレスタとの国境周辺は、魔獣が沢山いて通れないんだろう?国に帰ることが出来ないし、帰るにも路銀がいるからね」
突如訪ねて来て、急にそんなことを言っても、彼が困るだけじゃないかとミリアは心配した。
だが、それは杞憂に終わる。
キシムは了承の意味を込めて軽く頷く。
「なるほど、わかりました。サリーさんの頼みなら、喜んでお受けします。しかし、力仕事は向いてなさそうですね?」
ミリアが女性なのを見てとると、彼は疑問符を付けた。
それにサリーの眉は吊り上がる。
「女の子に、そんな事させる気かい?力仕事じゃなくて、お掃除係で雇ってちょうだい。ここの男連中は、片付けをしないから散らかって汚いんだ。少しは掃除しな!」
サリーは右手の人差し指を向け、彼に説教をする様に言った。
それを受け、キシムはバツが悪そうに頭を掻いて苦笑いをする。
「それを言われたら言い返せませんね。わかりました、掃除係として雇いましょう。そうですね。お給金は、一日銀貨五枚でどうでしょう」
「ん、まぁそんなもんだろう。それでいいかい?ミリアちゃん」
急に話題を振られ、ミリアは戸惑う。
この短時間で、よくわからない間に雇用契約が決まったようだ。
有無を挟む余地もなく、ミリアは頷く事しか出来ない。
冷静に考えると、サリーの言う通りだ。
クレスタへ帰るにしても、お金が要る。
そのお金を稼ぐには働くしかないが、伝手など何もない。
彼女がそこまで考えていてくれたことに、ミリアは驚きと共に、感謝の念を抱いた。
「じゃあ、決まりね!明日から働けると思うから、よろしく頼むね。あ、あとクロノちゃんも、たぶん一緒について来るから大目に見てやってね」
「その子もついて来るんですか?まぁ掃除だからいいですが、ケガのないように注意してくださいね」
サリーの圧力に、キシムは言いなりだった。
小さい男の子が付いてくることに関しては、少し呆れ顔する。
だが、あっさりと了承していた。
「では、明日またここに来てください。色々準備しておきますので」
ミリアは呆気に取られていた。
突然こちらで働く事になったからだ。
そんな立場なのに、挨拶をしていないことに気付く。
ミリアは慌てて挨拶を口にした。
「私、ミリア・グランデールと申します。雇って頂き、ありがとうございます。お掃除頑張ります」
「ええ、明日からよろしくお願いしますね」
ミリアの自己紹介を、にこやかな笑顔で受けると、彼は再び書類に視線を落とした。
良く見ると、机の上には書類が何十枚も重なっている。
代表というだけあって忙しそうだ。
「では、また明日。失礼します」
別れの挨拶をして、ミリアはお辞儀をした。
ミリアの後ろに隠れていたクロノも、彼女の真似をして、小さくお辞儀をする。
視界の端でそれを捉えたキシムは、クロノに軽く手を振って応えた。
三人が出ていき部屋の扉が閉まると、彼は仕事の手を休めた。
椅子に深く腰掛け、口元に手を当て、物思いにふける。
記憶を辿っているのか、視線を俯き加減にする。
そして、溜息を一つ溢した。
「グランデール、か」
意味深げに言葉を漏らすと、窓から空を見上げた。
階段を降りながら、ミリアはお礼を言う。
「サリーさん、ありがとうございました」
「いいのよ、これからお金も必要になるだろうし。それにここの連中は、ホントに掃除なんかしないから、丁度いいのさ」
サリーは手をヒラヒラ振りながら、朗らかに答える。
しかしながら、この運び屋と言う組織において、サリーの発言権は強い。
代表のキシムとなぜ対等に話せるのか、ミリアは疑問に思っていた。
「キシムさんとは、どういった関係なんですか?」
サリーは手振りを交えて応える。
「あの子が、こんな小さい頃から知っててね。ディーバの幼なじみなのさ。この運び屋も、あの子と息子が始めた事業だからね。おばさんでも、多少の融通は効くのさ」
含み笑いをしながら、少し悪い顔をする。
なるほどと思うや、サリーの顔が可笑しくて笑いそうになる。
しかし笑いを堪え、真面目にお礼を述べる。
「ありがとうございました。明日から頑張って働きます」
それを見ていたクロノも、サリーに宣言する。
「クロノもがんばる」
内容など分かっていないが、ミリアの真似をしたかった。
その姿にサリーは恍惚の表情を見せる。
「もぅ、クロノちゃんは可愛いわねぇ」
そんな和やかな雰囲気のまま、運び屋を後にした。
建物を出ると、サリーが問いかける。
「ついでに、買い物をしてもいいかしら?」
「もちろんです。何を買いに行くんですか?」
ミリアは食材の買い足しだろうと思った。
クロノがまだ幼いとはいえ、二人分増えたのだから、その分買い足さなければ足りない。
「魚とか野菜との食材と」
予想通りの答えに、ミリアは申し訳なく思っていると、その後の言葉に引っかかる。
「あと、服も買わないといけないね」
「服、ですか?」
ミリアが疑問に思っていると、サリーは理由を述べた。
「そう。ミリアちゃんの着てたローブは、背中を引き裂かれてて直しようがなくてね。新しいの買わないと」
サリーが服の話題に触れた事で、今着ているワンピースが借り物だと思い出す。
「この服、勝手に着てすみません!それに、この服を貸してくださるなら、新しい服を買っていただかなくても大丈夫ですから」
早口で捲し立てるミリア。
落ち着けるように、笑いながらサリーは口を開く。
「それ私のサイズだからブカブカでしょ?ほら、胸元なんて緩々じゃない。急に脱げちゃっても困っちゃうわよ。良い年頃なんだから、小綺麗にしとかなきゃね」
そう言われるが、自分のためにお金を使わせるのが申し訳ない。
見栄えなど気にしなくてもいい。
ミリアは食い下がった。
「この服で大丈夫ですから。サリーさんにこれ以上負担をかけたくないんです。これだけ良くして下さってるだけでも、すごく感謝してるんです。だから」
そう言いながら、涙がこみ上げてくる。
自分に優しくしてくれるサリーの温かみに、言葉が詰まってしまう。
ーーなんだろうね。この子は他人に良くして貰う事に慣れていないんだろうか。
そう思ったサリーは、ミリアにそっと近づき頭を撫でる。
「泣かないの。私がそうしたいんだから、ミリアちゃんは甘えたらいいのよ。みんな一人で生きてはいけないからね。『困った時は助け合い』だよ?」
「でも」
ミリアは他人に優しくされた記憶が極端に少ない。
物心が付いて、すぐに軟禁状態に置かれたからだ。
人の好意に触れる経験が乏しかったからこそ、自分には他人に良くしてもらうほどの価値がないと、思い込んでいた。
だからこそ今回も過敏に反応をし、取り乱してしまう。
彼女の頭を優しく撫でながら、サリーは諭す様にゆっくりと話す。
「いつか私が困っていたら、その時助けてくれたらいい。私じゃなくて他の人でもいい。私が貴方にした様に、いつかできるようになってくれたら、私は嬉しいわ」
自分の娘に生き方を教える様な言葉だった。
ミリアは教会へ追いやられた時に、ずっと一人で生きて行かなければならないと思っていた。
誰にも頼れず、頼られることもない孤独な生活。
そんな人生を覚悟していたミリアにとって、サリーの言葉は救いの言葉になる。
ーーそんな風に思っていいんだ。
心の中で何かが弾けたように感じ、ポロポロと涙が頬をつたう。
サリーは彼女をギュと抱きしめる。
背中を摩ってあげると、彼女は肩を上下しながら大泣きする。
彼女の泣き声に、クロノは心配そうに見つめる。
「いたいの?」
悲しそうな泣き声に、もらい泣きしてしまいそうだ。
ミリアの服を小さい手で掴み、サリーに返答を求めている。
「大丈夫だよ。ミリアちゃんは、痛くて泣いてるわけじゃないから。元気元気!」
「そっか!」
戯けるように喋ると、クロノの表情は晴れやかになり笑顔を見せた。
その言葉を聞いてミリアも涙を拭った。
これ以上心配させないように、クロノへと笑顔を見せる。
「痛くないよ。大丈夫。心配かけちゃったね。ごめんごめん」
瞳は涙で濡れていたが、クロノの頭を優しく撫でた。
そして、今のやり取りは、露店が立ち並ぶ通りで行われていた。
人の往来が激しいにしても、皆の注目を集めていた。
ましてや見かけることの少ない人間の女性。
その関心度は高かった。
「何かしらねぇけどよ。これ食って元気出せ」
「俺もよくわかんねぇけど、これ持っていきな」
「あたしんとこの果物も美味しいよ。ホレ」
露店主達が売り物を手に近づいてくる。
あどけなさが残る少女が、悲しそうにポロポロと涙を流す姿に絆されていた。
何とか元気付けたい。
そんな気持ちで野菜や魚、果物などを手渡して来たのだ。
「え?あ、あの。そんな」
ミリアが戸惑うのも当然だろう。
アタフタしていると、貰い物で両手が塞がる様になる。
そうこうしている内に、いくつかの服を携えた女性が近づいてくる。
「このサイズが合うだろうね。似合うと思うよ?ホラ!」
話を聞いていた洋服を取り扱う露店主だった。
彼女からは緑の葉っぱの刺繍が特徴的なワンピースなど、数点が贈られる始末。
「え?い、いいのですか?」
「サリーが居るって事は、ディーバの知り合いなんだろう?あの子には、お世話になってるからね。持って行き」
「ありがとうございます」
お礼を言いながら、ミリアは思った。
ーーディーバさんのお陰なのね。
ミリアが感じた事は間違いではない。
サリーの姿を見て、ディーバの為にと行動した人は多かった。
たがどちらにせよ、ミリアが感動していたのに変わりはない。
あまりの混雑ぶりに、クロノは縮こまっていた。
人が波の様に押し寄せてくるのが怖かったのだが、ミリアが嬉しそうに笑う姿に、怖がる必要がないと知る。
そしてお祭りのような騒ぎに誘われ、次第に明るく楽しそうに笑った。
両手で抱え切れないほどの量になると、お祭り騒ぎはひと段落を迎える。
「こ、こんなにいいんですか?みなさん」
そんなミリアに店主達は口々に言う。
「困った時は助け合い、だろ?」
ミリアは満面の笑みで応えた。
ーー私も誰かが困っていたら、手を差し伸べよう。
彼らのような素敵な人になりたい、そう思う瞬間だった。
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