第3話 懐中時計
その夜、イエス・キリストに祈りを捧げ二人だけの小さなパーティーを開いた。俺は、感謝の気持ちに、マーブル模様で翡翠色のループタイをプレゼントすると、とても喜んで受け取ってくれた。そして、ヘンリーはお返しにと、金色の縁で彩られている懐中時計をくれた。
リョウは、目玉が溢れ落ちるほど見開き驚いた。
これは、アンティークショップで一番のお気に入りだったもの…そう、眺めているだけで幸せだと思うくらいに。
まさか、ガラスに閉じ込められていた宝石がこんな所に。俺より価値が有りそうなのに…触れて良いのだろうか。
思わず、興奮で手が震えた。もう一度じっくりそれを見詰める。貴族の紋章である苺の葉が時計を囲み、少しくすんだ色が実にアンティークらしい。加えて中心にある小さなアレキサンドライト。普段は青緑だか人工照明に照すと赤くなる神秘的な宝石が施されている。
「何故此れを…」
「直感だよ。これは、君に与えなくてはと言う使命感に駆られて…買ってしまったよ」
「も、貰えない。だって、これ高かった…」
「それは、大丈夫だよ。実は、買おうとして一度断られたんだ。これはある人にあげるつもりのものだから譲れないとお爺さんに言われて。それで詳しく教えて貰ったら君だと言う事が分かって、値下げしてくれたよ。まさか、いらないなんて言わないだろうね?」
そう押しきられ、受け取ってしまった。何度もお礼を言ってテーブルに着き、ご馳走を平らげた。
その後、やっとこの子が嫁に行けて良かったとアンティークショップの主人が嬉しいそうに話してくれたと笑いながら言っていた。
(じぃさん知ってたんだ…)
明日、お礼を言わないと…な。
この幸福な一時から、不吉な事が起きないか心配になるほどに。
神の祝福であって欲しいと願った。
※※※※※※
溜息を吐く。
12月25日、午前七時半着信履歴二件。
どうやら、幸せな日々は案外続かないらしい。
朝っぱらから最悪な気分だ。あの女は、諦めていなかったようだ。憂鬱の一言に限る。
もし、これがサンタクロースのプレゼントならば、来年はファックと書いて送ろうか。
「はぁ…」
携帯を放り投げ、取り敢えず懐中時計を見て癒されることにした。
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