そうして始まりもせずに終わるのだ

結絆希

そうして始まりもせずに終わるのだ


瞬きの間に夢を見た。

短く、小さな夢を見た。



中学最後の冬、親に連れられて見に行った高校の文化祭でとある生徒に目を惹かれた。


第一印象は「別世界の人」。

「はい。わかりました」と澄んだ聞き心地の良い声に思わず振り返った先に彼はいた。

教師に「家族に君が所属しているサークルを紹介してほしい」と言われた彼は、そんな無茶振りにも微笑みを浮かべたまま対応していた。

自分だったら嫌な顔をして今すぐにでも逃げ出したいと思うような状況だというのに、彼は笑みを崩さず丁寧に対応していて「ああ、遠い人だ」「自分が高校生になって3年経ったとしてもたどり着けない姿だ」と思ったのはよく覚えている。

……そこまでで終わっていれば、こんなことにはならなかったのかもしれない。


第二の印象は「忙しい人」。

彼の学年を知らなかった俺は同じ学校に進学したところで会えない可能性だってあったのにも関わらずその高校に進学し、文化祭では見ることのできなかった彼の本来の姿を知ることになる。

クリエイターを目指す彼は常に忙しく、仲の良いクリエイター以外とは滅多に会話しないという噂を聞くほどだった。

せっかく同じ高校を選んだのにと肩を落としたが、彼を知ったのと同じ冬の日に幸運は訪れた。


第三の印象は……。

彼が所属している十数人のディスコードグループのメンバーに目をかけられ、自分もそのグループに所属することになった。

一部話したことのある人も何人か居たが、彼を筆頭にクリエイターや雲の上の人が揃っていた。

クリエイターでもないただの生徒の俺は肩身が狭かったが、それを察してか声をかけてくれた彼の好意に甘えて通話に誘われるがまま話しかけるがままに何度も言葉をかわした。

「ああ、この人は俺なんかにも平等なんだ」「俺も、優秀なクリエイターたちも、あの無茶ぶりをする教師も彼にとっては同じなんだ」と、彼から唯一特別扱いを受けている人に嫉妬するくらいには彼に好意を向けていた。


冬休みが明けて更に彼と関わる機会が増えた。

彼と休みがちの俺でも比較的関わりのある人たちでディスコードグループが作られ、共にゲームをするようになったのだ。

共にゲームをするうちに春休みになる頃には彼にいたずらをしたり無茶振りをしたりするくらいには親しくなったが、それと同時に本人に感づかれるほど彼に依存していた。

白状したときの呆れと同情を孕んだ苦笑交じりの「そっか」は今でも鮮明に思い出すことができるかもしれない。

拒まれるのが怖くて自分を正当化するように何度も何度も大丈夫と言い聞かせて、彼から逃げ場を奪ってようやく得た恋人の席に最初から未来はなかった。

それでも少しでも彼の人生セカイに居座りたくて、覚えていてほしくて、そうして押し付けた誕生日プレゼントに勝手に満足して距離をとりそれでもまだ彼の人生セカイに残れる自信がなくて彼の居場所を奪った。


押し付けて奪って独り満足していないのに満足したことにして、彼との未来を、彼からの好意を求めて泣き叫ぶ強欲な心を押し殺して幻想に身を投げる。

わがままで、こどもで、一生彼の隣に立つ資格のない自分は、


そうして始まりもせずに終わるのだ



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そうして始まりもせずに終わるのだ 結絆希 @Myosotis-yuzuki

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