第11話、マヨネーズ男爵?

「ああ、第二王女に渡してやるんだ」



「その、ハサミというのがこれですか?」


「はい、これで布か革を切ってみてください」


「こ、これは!」


サラさんは驚きの声をあげた。


「貴族からの注文は、すべて第二王女を通すよう、全鍛冶職に言ってあります。

これで少しは風当たりもよくなるのでは?」


「信じられません。

このハサミは、女性なら誰でも持ちたがります。

貴族女性の嗜みとして、お裁縫は必須なんですから」


「髪の毛の毛先を整えるときも重宝しますよ」


これも効果があった。

毛先を揃えただけで、第二王女の付き人は印象がアップしたのだ。


「できましたら、第一王女様へはジュリエッタ様からの贈り物として先に用意できませんか?」


「簡単なことですよ」



この騒ぎで、僕とシェラさんの知名度もアップしてしまった。

仕立て屋さんからは、服を作らせてほしいと懇願され、理髪店からは髪を切らせろと矢の催促。

第二王女の側近は増員されて、ハサミの受注専用の担当者までできてしまった。

貴族御用達となったおっちゃんは悲鳴をあげているし、化粧箱を作る職人や宝石商も飛び回っている。

一過性だろうが、街に活気が溢れているのはいいことだ。


頃合いを見計らって、第二弾のマヨネーズを投下する。

一発目は第二王女主催のパーティーだ。

ハサミパーティーと銘打って、第一王女も連名にしたパーティーだ。

まだ幼い第二王女を後見する名目の連名であるが、こちらの目論見に乗っかってくれた。


同時に、市場へも投下する。

最初はおしゃれなお店でサラダ用に使ってもらい、食堂に広げた後で販売だ。

これにより、養鶏場、酒蔵、農家が潤うことになる。


騒ぎが大きくなるほどに、面会の申し込みが増えてくる。

経営コンサルタントとして囲おうとする貴族すら現れてくる。

というか、財務大臣本人からの面会申し込みを第一王女が受けてきた。


「困りますよアネリサさん」


「すみません、どうしても断れなくって・・・」


第一王女のアネリサさんは17才。シェラさんと同い年だった。

本人にあってみたら、引っ込み思案でおしとやか。美人さんだった。


「エイジさん、そんな事を言ってアネリサを困らせないで!」


いつの間にか、お互いに呼び捨てにするほど仲良くなっていた。


「そうだ、これ試してみて」


クレープを作ってみた。

生乳を分離させて砂糖を加えて角だてる。

フルーツを角切りにして組み合わせれば完成だ。


三人とも放心状態の状況を見れば成功だろう。


「シェラ、エイジさんを譲ってください。

王女の地位と交換しましょう!」


「お・こ・と・わ・り」


「サラさん、みなさんもどうぞ」


「「「いただきまーす」」」


王女二人の前では、側近も遠慮しなくていい。

それが不文律になっていた。

二人を中心に、周囲が活性化していく。いい傾向だった。


しかし、時々困ることが起きる。

王様がのぞきにくるのだ。

そんな時、僕たちは気づかないふりをしてあげるのだが、側近たちはそうはいかない。

食べ物を出した時は、自分たちの分をあげているらしい。

自分の食べる分を失った側近たちの様子は一目でわかってしまう。



財務大臣との面談はプライベートなものとして第一王女の私室で行われた。


「無理を聞いてもらって申し訳ない」と低姿勢で切り出され、税収の増加に対して礼を言われた。

増税もせずにこれだけ税収があがり、なおかつ住民が明るくなったのは、国として感謝のしようもないと。


「次のステップとして、ご馳走になっている甘い菓子を流通できないかと、これは王の個人的な要望ですが、一応伝えておきます。

ここからが本題なのですが、各地で倒した合成モンスターから出てきたという武具を拝見したいのです。

というのも、各ギルドからの報告を見るに、王家の宝物庫から持ち出された可能性があるらしいのです。

これは、決して返せとかいうことでなく、もし真実ならば・・・」


「何者かが宝物庫から持ち出して、モンスターの合成に使ったということですか」


「そういうことになります。

元々倉庫で眠っていたものに興味はありませんが、もし本当ならば犯人を捕らえ再発しないように手を打たなければなりません」


「協力させてください」



照合の結果、宝物庫から持ち出されたものと結論された。


「宝物庫からこれだけのものを持ち出すことのできる者というのは限られてきます。

中でも、国に混乱を起こしてメリットのある者となると・・・」


「もう、目星はついておられる・・・

というか、僕にそんな情報を漏らしていいんですか?」


「サラから聞き及んでいます」


「げっ、口は堅いとか言っていたのに・・・」


「サラは私の娘になります。無理に聞き出しましたのでお許し願いたい。

そして、マフユという女性の所在も突き止めてあります」


「マフユが!」


「はい、王の弟君ハルバード様と一緒におられます。

ハルバード様は自室にこもったままで、滅多に人前に出てきませんが」


「それと、気になるんですが、宝物庫から持ち出されて行方の分からない武具は他にありますか?」


「はい。魔王を討伐したと伝えられる聖剣・聖鎧・聖盾が見つかっていません」


なんかフラグ的な響きが・・・


「万一を考えて王国認定のマスタークラス5名を招集してありますが、お二人にも参加をお願いしたいと存じます」


「もちろんです!」


「では、1時間後、17時にお迎えにあがります」


「承知いたしました。

僕達はここ第二王女の部屋にいますから」



兵士以外の王族・貴族は、全員貴族街の私邸に避難している。

人気のない城を案内人とともに移動する。


「エイジさん、もう一体合成モンスターが出てくるのでしょうか」


「その可能性は高いですね。

単なる合成モンスターなら良いのですが・・・」


すでにロボ形態に変身してある。


「それと、ヌエって神様がどう関与しているのか気になりますけど、エイジさんはマフユさんの事を第一に考えて行動してくださいね。

私もできる限りのフォローをいたしますので」


「頼りにしていますよ。

あのー、少し伺ってもよろしいですか?」


案内の人に声をかける。


「はい、私でお答えできることであれば」


「ハルバード様とは、どのような方ですか?」


「はい、王位継承権第三位で、相談役の職位にあられます。

ヌエ神を深く信仰され、ヌエ教会の顧問を兼任されています。

2年前に大病を患い、第一王子が成人されたこともあってそれまで王位継承権1位でありましたが、3位に見直しとなりました。

それ以降は表舞台から退かれ、ほぼ隠居生活をされています」


「悪い噂などは?」


「特にありませんよ。

今でも、宰相などは面会してご指導いただいているそうです」


ハルバード様の私室は中庭に面しており、すでに多くの兵士が集合していた。


「あっ、マヨネーズ男爵だ」とか「シザーズ夫妻がお見えだ」とか聞こえてくる・・・誰がマヨネーズなんだよ。

爵位なんか受け取ってねーよ!


「ハルバード殿、査察です。出てきてください」


ドアをノックし声をかけるが反応はない。


「では、こちらから参らせていただく」


「鍵がかかっております」


「構わん、ドアを破れ!」


その瞬間、ドアが内側からはじけ飛んだ。


「煩いですね。人の部屋の前で何を騒いでおられるのですか?」


漆黒のマント・マスク・衣装。目と口の部分だけがそれとわかる怪人が出現した。

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