第9話、三重合体

「賢者ってのは、国に二人しかいねえ上級職だぞ。その先を目指せってか・・・」


「はい」


「ふう。

マスタークラスにはしたが、正式に認められるのは国王に目通りした後だ。

どうする、このまま王都へ向かうのか?」


「そのつもりだったんですが、この様子だと残りの町にも合成モンスターが現れているかもしれません。

各町の様子を見てから王都に向かうつもりです」


「ああ、そうしてくれると助かる。

南の町ジャガルのギルマスあてに手紙を書いておくから持って行ってくれ。

全部の町のギルマスが承認してあれば、王都のギルマスも無下にはできんだろう」



南町ジャガルでは、3重合体のモンスターが出現していた。

バジリスクをメインにゾウとライオンの特徴を持っていたが、火魔法の重ね掛けであっけなく退治できた。

ちなみに、石化魔法は金属の身体には通用しなかった。


次の山岳集落フジではついにドラゴンが出現した。

ワイバーンとオオトカゲとイエティの合体モンスターは局所的な豪雨により溺れ死んだ。

山を崩して人造湖を作るのに手間取った程度である。

普段は険しい山道が行く手を阻むらしいが、飛んでしまえばほかの町と同じだった。




「いよいよ王都だね」


「はい」


「お金もいっぱいあるし、買い物したり食事したりして楽しもうね」


「はい」


思えば、モンスター退治ばかりで、人並みのデートもしていない。

二人とも、街歩き用の服を買うところから始めよう。

いや、宝石を換金するのが先かな。


だけど、王都の正門で待ったをかけられる。


「恐れ入りますが、冒険者ギルドのマスターがお待ちになっております。

ご同行いただけないでしょうか」


「大丈夫ですよ。

町の様子もわからないので、確かにギルドへ行った方がよさそうですから」


「では、ついてきてくださいませ」


「はい。

あの、宝石類の換金はどこでできますか?」


「宝石商がありますが、ギルドの買い取りコーナーでもできますよ。

宝石商は買い叩いたりするところもありますから、ギルドが一番安定していますね」


「食事のおいしいお店とかご存じですか?」


「我々の行く店よりも、ギルドの受付嬢に女性の行くお店を聞いた方がいいでしょう。

ほら、真ん中の席にいる眼鏡をかけたマーガレット女子が情報通らしいですよ」


「へえ、助かります」


部屋の前にたどり着き、ノックをして入室する。


「失礼いたします。マスタークラスのエイジ様とシェラ様をご案内いたしました」


「おお、ありがとう。

お二人ともお掛けください。今、飲み物を用意させます」


応接に腰を下ろし、ギルマスと対面する。


「申し遅れました。

王都ギルドのマスターを仰せつかっております。ギルバートでございます」


「あっ、エイジです」「シェラです」


「お二人のことは各ギルドから報告が届いています。

特にエイジ様はいきなりゴールドクラスで、一か月少しでマスタークラスに認定されたとの事。

お二人とも、まことにおめでとうございます」


「「ありがとうございます」」


「時間があれば災害級モンスターの討伐についてお伺いしたいところですが、王都におけるマスタークラスの現状を知っておいていただきたいと思いお越しいただいた次第です」


「マスタークラスの現状ですか?」


「はい。

王都には5人のマスタークラスがおりますが、全員が王国認定のマスタークラスになっております」


「王国認定ですか?」


「はい。

それに対して、国に囲われることを嫌がった4人は、各町でギルドマスターに就いています」


「囲われる?」


「衣食住すべてを国から保証される代わりに、王城に滞在することになります。

しかも、特権がありまして、多少のわがままが許されており、余程でなければ犯罪者として拘束されることはありません。

これは後見として指定された貴族の庇護下に入るからです」


「貴族の後見人ですか」


「ですから、お二人は貴族からの誘致合戦に巻き込まれることになるでしょう。

年齢もお若く、いっぺんにお二人抱えられるとなれば、宰相やひょっとしたら王子・王女からもお声がかかると思います」


「断ってもいいんですよね」


「ええ、ですが決まらない限り・・・期限がないものですから、王都にいる間は誘いがまいります」


「国王の謁見があると聞きましたが・・・」


「謁見はすべてのマスタークラスに行われますが、王国認定とは別です。

王国認定は貴族から申請され、審査を通ったものが認定される仕組みですが、国王は関与いたしません。

財務大臣と国防大臣の管轄になります」


「国防大臣というと、庇護した貴族の私設部隊ってことですか・・・」


「その通りです」


その時、ドアが乱暴に開けられた。


「「チェンジ・ロボ」」


「ああーん、マスタークラスの二人がいるって聞いたんだが、まさか、その見すぼらしいのがそうか?」


チェンジ・ロボは装備品のないモードである。

様子を見るときにはこっちの方が勝手がいい。


「いきなり入ってきて、見すぼらしいとか、失礼な方ですね」


「グダグダ言わずについてくりゃあいいんだよ。

余計な手間を取らせんじゃねえ」


身体に鉄の糸が巻き付いてきた。

避けようと思えば避けられたが、ここで暴れるのはやめておいたほうがいいと判断した。


「どこへ連れていくつもりなんだ?」


「いきゃあ分かるところさ」


「ギルマス、こんなのが王国のマスタークラスなんですか?」


「いや、こいつは宰相の手飼いだ・・・」


「余計なおしゃべりは身を亡ぼすぜ」


「じゃあ、早く出ましょう」


そう、建物から出さえすればいい。被害の出ない場所へ。


「おっ、いい女じゃねえか」


カウンターの前を通った時、男が鉄糸を受付嬢に飛ばすのが見えた。

ほぼ反射的にその糸を掴む。

シェラさんは男にタックルをかまして一緒に扉を破って外に転がり出る。

もちろん二人とも自分に絡みついた糸は切ってある。


外に飛び出すとシェラさんが男を組み伏せていた。


「どうしようもない2級品ですね。

動作が大きくて動きも遅いです。

粗野で下品で飼い主の恪が知れてしまいます」


「いやいや、そんなのでも僕の弟なんでね。

離してほしいのだが・・・」


声の主から放たれた糸はシェラさんの全身に絡みついたように見えた。


「あら、あっけなく燃えてしまいましたわね」


「いえ、本命はもう首に・・・」


「首になにか巻き付いてきたので、高温で溶かしておきましたけど、何か?」


ドガッ!死角をついて男の腹に一撃を入れる。


「シェラさんに何をするつもりだ」


「グフッ」


「この手がいけないんだなきっと」


両手を掴みバキバキと握りつぶすと、第二の男は悲鳴をあげた。


「き・さ・ま・・・」


膝と肘の関節を砕くとあっけなく意識をうしなった。

収納から出したワイヤーで縛り上げるとダダダッと数名が駆け寄ってくる。


「どっち側の警備ですか?」


「町の警備兵です。引き渡していただいても大丈夫ですよ」とギルマスが声をかけてきた。


「いえいえ、城の大切な戦力ですから、連れて行かせるわけにはまいりませんわ」


「ああ、本命のマスタークラスさん・・・ではなさそうですね」


「宰相の長女でクララと申します。

粗相がありましたようでお詫び申し上げますわ。

お二人をお招きするよう指示したのはわたくしでございます。

どうかご容赦いただけませんか?」


「お断りいたします」


「それって、宰相への宣戦布告と受け取ってもよろしいので?」

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