第7話、ならば私が目を覚ましてやる

「まて・・・ひょっとして、幻影の魔法でもかかっているのか?

私にはガラクタにしか見えないのだが・・・」


「確かにヒュドラにやられて、すべての装備を失いました。

見た目はガラクタかもしれませんが、これが今の僕で間違いありません」


「シェラ、まさか魅了にかかってこんなのがイケメンに見えているとか・・・

それに、あのノエラがこんなのをお前の相手として認めるなど、あり得んだろう」


「いい加減にしてください!いくらバーバラさんでも怒りますよ!」


「ならば、私が目を覚ましてやる。こいガラクタ!」


「どこへ?」


「こういう場合、ギルドの訓練場と相場は決まっている。

私に一撃でも入れられれば人として認めてやろう。だが、それが出来なければシェラの前から消えろ」


「でも僕、一応G1ですよ」


「私はM2だ。本気で来なければ殺すぞ」


ああ、本気だよこの人。


「獲物は好きなものを選べ。刃は潰してあるから遠慮はいらんぞ。

私は・・・この鉄棒にするか」


「僕は武器は使いません」


「では行くぞ!」


瞬間、バーバラさんは体を低くして突進してきた。初手は突きだ。

身体を捻ってカウンターを入れようとしたが、突きから横薙ぎに変化してきた。

突きからの変化では威力はないだろうと判断し、右手で受けたが3メートルほど弾き飛ばされた。

実際には右手で勢いを殺し自分で飛んだのだが、なるほど、これがマスタークラスか。


「どうした、仕掛けてこなければ終わらないぞ」


「じゃあ遠慮なく・・・」


加速を使って一気に間合いを詰める。ショルダータックルだ。


「ほう、その体にしては素早いがまだ遅いな」


鉄棒の持ち手の側を腹に入れてくる。ガキッツと金属同士がぶつかる音がしたが、勢いはこちらにある。

間違いなく捉えたと思ったが、バーバラさんはふわりと身をかわした。そして僕の勢いを吸収した金属棒の先端が後頭部にあたる。

耐物理障壁はそれを吸収したはずだが、それでもバランスを崩し頭から地面に突っ込む。咄嗟に身体を丸めていなければ危なかった。

そのまま前転の要領でゴロゴロと転がるが、そこへガンガンと追撃を受けた。手を使って方向転換し起き上がってバーバラさんの顔に肘打ちを仕掛けるが懐に入られてしまう。

再度鉄棒の持ち手の部分を掌底のようにして腹への一撃をもらってしまう・・・が、バーバラさんの肩を掴み身体を密着させることで威力を殺す。


「なんの真似だ?鎧越しで私の体を抱くつもりか?」


そう、僕はバーバラさんを抱きしめるかたちで止まっている。


「一撃で終わりですよね」


掌に弱い電流を流す。ピリッとくる程度だ。


「あうっ・・・くそう、卑怯だぞ!攻撃の意図があれば逃れられたものを・・・何をするのか興味が湧いたから捕まってやっただけだ!」



「まあ、合格点はくれてやろう。

ルソンからヒュドラ討伐の情報は入っていたからな。

お前がヒュドラを引きずり出し、シェラがイフリートでとどめをさしたとな」


三人でギルド長の部屋に移動し、応接でお茶をごちそうになっているところだ。


「なら、なんでこんな事を・・・」


「馬鹿野郎!

私の可愛いシェラが、こんなガラクタに持っていかれるのを黙ってみていられるか。

くそう、一撃なんて条件が甘すぎた。死ぬまでやるべきだった・・・」


「いや、僕死にませんから」


「ふん。シェラよ、本当にこいつに添い遂げるのか?」


「はい」


「私がとっておきのイケメンを世話してやろう」


「バーバラ様、気持ち的にも変わりませんが、私は普通の結婚なんてできない体になってしまいました」


「なに!

ガラクタ、お前まさか・・・」


「はい、イフリートを使った後遺症。そのリハビリでパラメーターがこんなことに・・・」


ギルドカードには氏名・出身地のほかにランクとHP・MPが表示されている。


「シェラ・・・マジかよ・・・。私ですらHP4000のMP2000だぞ。

たしかに、これが知れたら王都で飼い殺しだな」


「でしょ。エイジさんの治療を受けたいって希望者も殺到してしまいますから、どうかご内密に」


「おい、ガラクタ。誰でもこんなふうにできるのか?」


「理屈としては可能だと思いますが、多分、無理ですね。

星の数ほどあるうちの一つがたまたまヒットしただけなんです。

治療以外でやったら、どんな結果になるか想像できませんし、それこそ即死する危険性もありますから」


「そっ、そうか。安心した。

だが、MP8000超えだと、使い道はあるのか?」


「今研究中なんです」


「そうですね。

例えば火の上級魔法を重ね掛けして地獄を出現させるとか、星を落とすとかできそうですね。

その前に、自分の安全を確保しないといけませんからやらせませんけど」


「そういうことか。

おいガラクタ、シェラの身に何かあったら許さんからな」


「はい。この身に変えても守ります」


「確かに、ガラクタ以外にシェラは任せられんな・・・」



ドンドンドンドン!激しくドアがノックされ、事務官が入ってきた。


「どうした」


「サンドワームの亜種が現れたとの情報が入りました」


「そんなに珍しいことでもあるまい」


「それが、炎をはき、50mほどのサイズであったと・・・」


「なんだそりゃあ」


「でも、砂漠で火を吐いてもあまり意味がありませんよね。

なんか不自然な感じですね・・・」


「ヒュドラと同類だというのか」


「ヒュドラは、まだ湿地に順応できるイメージですが、悪戯に生み出されたような感じがします」


「だが、50mというのは脅威だな」


「じゃあ、砂漠に水でも撒いてその火を消しちゃいましょうか」


「そんなバカなことを・・・できるのか?」


「砂漠に植物が育たない理由の一つは塩分を含んでいることです。

ですから海の水を蒸発させて雲を作り、雨を降らせることで塩を洗い流せると思うんですよね」


「でも、エイジ様、雲は流れて行ってしまいますけど」


「砂漠をすっぽりと包む、空気のドームを作ればいいだろ。

大丈夫、シェラさんならできるさ」



魔力量にものを言わせた大掛かりな仕掛けだったが、あっけなく終わった。

水を嫌って姿を現したサンドワームを僕が殴り倒しただけだ。

サンドワームの亡骸からは、またしても神器級の武器・防具と宝石類がザクザクだった。

宝石類の一部を町に寄贈するとお祭りになった。


「この町に雨が降ったのは久しぶりのことだ。

そこに亜種サンドワームの討伐とくれば浮かれるのも仕方あるまい」


町長との晩さん会に出てくれと請われたが固辞した。

飲食はできないのだから許してほしい。


「ですが、やはり合成モンスターでしたね。

合成モンスターサンドウォーム。

こんなことをして喜んでいるのは、どこの変態でしょうか」


「噂では、魔族の動きが活発になってきたとか聞く。

魔王の仕業と考えるのが一般的だが、どうもしっくりこないんだな。

なぜ、単独でこんなところに現れるんだ」


「ですね。

ルソンの時も、直接町を襲ってきたわけではありません。

どういうことなんでしょうか」


「私に分かるはずがない。それよりもガラクタよ」


「はい」


「直接王都に行かず、港町オタルヘいけ。

マスタークラスになればギルドカードにステータスは表示されなくなる。

私の承認は入れておいたから、小樽のタワワに承認させればすぐにマスタークラスだ。

手紙も書いておこう。

シェラはタワワとも面識があったよな」


「はい。

タワワ様のパーティーに入れていただいたことがあります」


「くう、美少女で、顔も広くて素直でとんでもない魔法剣士・・・いや、今のジョブは賢者になっていたな。

それに引き換え、お前はなんでただの格闘家なんだ?

あの化け物を一人で退治する格闘家なんておかしいだろ。

お前、サンドウォームの吐いた炎も気にしていなかったよな。

あれに締め付けられても、のしかかられても平然としてたよな。

飲み込まれても、腹を破って出てきたよな。

シェラにしたって、それを平然と見てたよな。

普通、大丈夫だと思ってても、少しは驚いたり動揺するよな。

少なくとも私は動揺した。私が普通の反応だと思うんだが・・・」


「信じていますから」

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