第5話、責任とってくれますよね
「それとも、こんな女はお嫌いですか・・・」
「いえ、シェラさんは素晴らしい方だと思います。
でも僕は幼馴染を探しに来たんです。
見つけたら、自分の国に帰らないといけません・・・」
「その、幼馴染の方というのは恋仲とか婚約者とか・・・」
「いえ、そういうんじゃないです」
「でしたら問題ありません。私もエイジ様の国にまいります」
「はぁ・・・、まあ先のことは考えても仕方ないですね。
最後に確認しますが、本当に僕でいいんですね?」
「はい」
「僕の呪いは、この国を離れるときに解除されます。
それまでは婚約ということで、解除されたときに最終的に決めてください」
「はい」
中三にして婚約者が出来てしまった・・・
こんな出来損ないの金属のボディーなのに、それでもこんな美少女が僕を選んでくれるなんて。
収納にあった薄手の毛布をトーガのように纏ってもらい、シェラさんを抱きかかえてギルドに戻る。
極限まで魔力を使い切った彼女には、まだ歩くだけの体力がなかった。
ギルド内は騒然としていた。
遠見に見ていた冒険者が先に情報を入れてあったらしい。
「エイジ、シェラ、本当にヒュドラを討伐できたのか?」
「はい、お爺様。もうヒュドラは現れません」
ウオーとかヒャッハーとかギルド内に歓声が沸き起こる。
まてまてと皆をなだめギルマスが聞いてくる。
「お前たち二人だけで倒したというのか?」
「僕はヒュドラを引きずり出しただけです。
実際に倒したのは彼女ですよ」
「シェラ・・・その姿は・・・お前、まさかイフリートを召喚したのか?」
「はい、お爺様」
「過去、イフリートを呼び出して無事に帰った者はおらん・・・
反動で全身が焼けこげ、魔力・生命力を根こそぎ持っていかれる筈じゃ・・・
他の召喚術と違い、最高位の精霊は召喚者自身の身体に宿るはず」
「はい。確かにイフリート様をこの身に纏いました。
ですが、イフリート様の炎で焼かれるわけではありません。
ヒュドラの残骸で焼かれた火傷は、エイジ様が直してくださいました。まだ体力は戻りませんが、こうして戻ることができました」
彼女の目からは涙が零れ落ちていた。
本当に自らの命を賭したのだろう。
そういう僕も、ここまでが限界であった。
「シェラさん、ごめんなさい。僕も限界です。
二・三日眠りますが、必ず起きますので・・・」
シェラさんを床に降ろし、僕は崩れ落ちた。
だが・・・お爺様?
目を覚ました時、見慣れない女性の顔が目の前にあった。
「・・・あの・・・」
「あら、お目覚めなのね」
「まる三日ですか、えっと、初対面ですよね」
「シェラの母親ですわ。ノエラといいます。
よろしくね、エイジさん」
「あっ、こちらこそよろしくお願いします」
「お父さん、起きたわよ」
「どれどれ、おおエイジ、目覚めはどうだ?」
「はあ、万全です」
「ふむ、まずは礼を言っておこう。
おかげで湿地は従来の様子を取り戻しつつある。
すべてお主のおかげだ」
「お役に立てて何よりです」
「それから、シェラのことなんだが・・・
回復の兆しが見えん・・・娶ってくれるとのことだが、断ってくれていいんだぞ」
「えっ?」
「お主は、捜し人があると聞いておる。
シェラがあんな状態では、旅をすることもできんだろう。
恩人であるお主を、この街に縛っておくつもりはない」
「一度決めたことです。
シェラさんが拒否するのならともかく、僕から離れるのはあり得ません」
「エイジさん、これはシェラと話し合った結果です。
あの娘も、エイジさんの足枷にはなりたくないそうです」
「彼女に会わせてください。
僕たちは戦いの中でお互いを知りました。
僕はこんな姿ですが、彼女はそれでもいいと言ってくれたんです。
それを・・・傷ついたからと言って置き去りにするつもりはありません」
「日に数度起きて、食事と排泄をさせていますが、それ以外は寝たきりです。
歩くこともできません。
それでも会いたいとおっしゃるなら・・・」
「もちろんです」
ノエラさんの案内で彼女の家に移動し、ベッドで眠るシェラさんと対面する。
寝息は浅く、顔色も悪い。
「シェラさん・・・
お義母さん、すみませんが僕なりのやり方で検査したいのですがよろしいですか?」
「もちろんですよ。シェラはあなたのお嫁さんなんですから遠慮しないでいいわよ」
シェラさんの身体の上に手をかざしロボの基本性能であるショートスキャンを発動する。
手を少しずつずらして全身をくまなくスキャンしていく。
どうだ?
【気管支に火傷の痕跡あり。他に異常は見られません】
そうか。気管支は治療が必要か?
【自己修復により治癒しているため、治療の必要なし】
【MP値が0/255.HP値が50/255です。これらの回復機能が作動していないものと推測されます】
【MPは前頭葉の前頭前皮質部分。HPは中脳。もしくは、ニューロンの異常やシナプスの断裂も考えられます】
「ふう。体に異常は見られません。
ということは、脳・・・頭の障害が考えられます」
頭部全体をスキャンしていくと、前頭葉と中脳に異常がみられた。
【前頭前皮質部分のニューロン複数損傷とシナプスの断裂が観測されました。発熱による焼損と思われます】
【ニューロンの損傷は治癒で修復可能ですが、シナプスの再接続には刺激性の治療が必要です】
【ブドウ糖の不足が計測されました。即効性のあるブドウやイチジク。時間をかけて分解される米やパンを補給してください】
「イフリートを召喚した影響で、脳の一部が焼けてしまったようです。
僕の治療だけでなく、脳のエネルギーとなる栄養補給が必要です」
「脳の栄養補給って、具体的に何を食べさせればいいんでしょう?」
「即効性のある果物類と、時間をかけて分解されるお米やパン。両方を与えたいのですが・・・」
「果物は何でもいいのですか?それと、お米とは何でしょう?」
「果物はブドウや柿・イチジクがいいです・・・が、僕の国とは呼び名が違うかもしれません。
お米は、麦よりもコロコロした穀物なんですが・・・国によっては流通してないかもしれませんね」
「ブドウは時期じゃありませんが、干したものでも大丈夫ですか?」
「干しブドウでも大丈夫ですので、起きたら食べさせてください。
僕は治療の準備をしてきます。
それと、魔力の続く限り治療を行いますが、魔力を使い切ったらそのままここで寝ることをお許しください」
「あらあら、結婚前に同衾ですか」
「そんなんじゃありません。
この体では、口づけすることもできません。
まったく不甲斐ない・・・」
「うふふっ、シェラは幸せ者ですね」
一旦家を出て、街を歩きながら脳内で問答する。
脳の活性化に必要なことや、活性化を促すアイテム。
断裂したシナプスを復元するための魔法構築。
例えば柑橘系の香りは脳を刺激して活発にする。
瞑想や料理、魔法発動の手順を復習したり、ストレスを減らすことなど、できることは全部やるつもりだ。
できればチョコレートや納豆を用意したいが・・・
チョコレートの製造は難易度が高いな・・・
納豆は、大豆と稲わらがあれば作れるが、コメが流通していないのでは稲わらなど話にもならない。
ブドウ糖にせよチョコや納豆にせよ、日本ならば簡単に手に入るものがあまりに遠い。
彼女がこうなったのは僕の責任だ。
彼女が望んだにせよ、同行を許可したのは僕なんだから・・・
いや、心を偽るのは無しだ。
たった数時間一緒にいただけなのに、こんなにも彼女が愛しい・・・
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