第3話、シェラ
「いいか、単独では行動するな!
必ず二人から三人で行動するんだ!
ヒドラらしい奴を見つけても、自分たちだけで倒そうと思うな。大声で応援を呼ぶんだぞ」
ギルマスが全員に伝える。
「エイジ、お前は俺と一緒に来い。
その体ではまともにうごけまい。比較的足場のいいところをまわるぞ」
ギルマスの後ろについて湿地の周辺部を回るが、一歩踏み出すたびに数十センチ足が沈む。
体重は一トンを超えるのだから当然ともいえるが、足手まといなことこの上ない。
仕方なく重力制御を使おうと考えた矢先に、何かに足をひかれ泥の中に引きずり込まれた。
続いて体中を軟体質の何かが這いずる感じ・・・
ビーッ!ビーッ!ビーッ!
【強アルカリ溶液により外装が腐食!】
【外装損傷部より異物侵入!】
【警告!ジェット推進装置脱落!】
【警告!装飾用アンテナ脱落!】
【警告!ビームソード脱落・・・】
【バッテリー1短絡!回路遮断します!】
【緊急脱出モードに移行します。非常用バッテリーに切り替え完了!】
【重力制御起動!離脱します!】
ガチャガチャと音を立てて装備品が剥がれ落ちていく。
そのまま泥を飛び出し、近くの川に突入して僕は行動不能に陥った。
【エイジ、君は特殊装備の全てを失った・・・】
唐突にメッセージが表示された。
要約すると、外装にはスキルで覚える筈の機能が装備されており、外装を失った事で用意されていたスキルが使えなくなったようだ。
これまで覚えたビームソードやジェットパンチはもちろん、これから覚える筈だったビームや飛行系も覚えることが出来なくなったわけだ。
重力系はボディーに内蔵されているから使えるが、外装バッテリーを失った事で規模は小さくなる。
逆に、この世界で普通に覚える筈のスキルを覚えられるようになった。
体重も1トンから300kgに減った事で、動きが早くなり常駐型の重力制御が使えるようになった。
本体は元々イリジウム系の特殊合金で、アルカリや酸にも強く、魔法障壁と物理障壁の付与に加えて自動修復機能もある事から、ほぼ無敵と言える。
行動不能さえ気を付けていれば、まぁ問題はないだろう。
翌朝、エネルギーチャージを追えてギルドに出向くと、大勢の怪我人がフロアに溢れていた。
「えっと・・・」受付のお姉さんが戸惑っている。
ムリもない。外装が無くなった事で身長も15cmほど縮み、体格はフタ周りほど小さくなっている。
「エイジです。ギルマスはご無事ですか?」
ギルドカードを提示すると彼女も納得したようだ。
「はぁ、残念ながら・・・かすり傷で戻ってきています・・・」
「そうですか・・・それは残念な・・・」
「おい!何が残念なんだ!
まあいい、エイジ・・・なんだよな。随分と貧弱になっちまったな・・・まあ、死んじまったヤツもいるんだ、許せ」
「ええ、僕の事はいいんですが、ヒドラは?」
「ああ、触手の何本かは切り落としたが、ほぼ無傷だ・・・くそっ!」
「僕の鑑定には、ヒドラとオオイトミミズの合成モンスター・ヒュドラと表示されました。
金属を腐らせるアルカリ粘液とモノを溶かす強酸液が武器で、弱点は火みたいです」
「ああ、うちの鑑定士も同じ事を言ってるが、本体は湿地の下だ。近づけば武器や防具をボロボロにされて、酸で焼かれる。
手の打ちようがねえんだ」
「もし、引きずり出せたら倒せますか?」
「ああ、魔法系のメンバーは全部残っている。本体さえ見えリャあ絶対に逃がさねえ・・・本体さえ引きずり出せればな」
「試してみないと何とも言えませんが、うまくやれば引きずり出せると思うんですよね」
「そりゃあ・・・ありがたいことなんだが、お前にそこまでさせる理由が・・・次は命を落とすことになるかもしれんのに・・・
ギルド長としてお前にそれをやらせる理由がない・・・」
「困っている人を助けるのに、理由が必要なんですか?
僕には邪神の呪いがありますから、この体はこれ以上壊れません。
もう、失うものはないんですよ」
「いや・・・しかし・・・」
「僕が勝手にやる事ですから、ギルドが余計なことを考える必要はありませんよ。
では、行ってきます」
「まっ、待ってくれ。
武器も持たずに行くつもりなのか」
「あっ・・・そう言えば・・・まあ、片手剣でも買っていきますよ。
どっちみち、切ればボロボロなんですけどね」
「剣は私が用意しよう。
明日の朝、8時に現地へ持っていかせるから、それまで待ってくれ」
翌朝、時間をあわせて湿地に行くと革鎧姿の剣士が待っていた。
「エイジ殿ですね。
私の名はシェラといいます。今日はよろしくお願いします」
肩までかかる黒髪を後ろで束ね、腰には刀を差している。
青い瞳がなければ日本人かと思うような顔立ちをしている。
肌は陶磁器のように白く、身長は165cmくらいか、僕と同じような背格好だ。
間違いなく美人の類といえる。
「はあ、エイジです。
よろしく・・・というか、刀を頂くだけですよね?」
「はぁ?なんで私が刀を差し上げなければならないのでしょう?」
「いや、ギルドマスターが刀を届けるからと・・・」
「何か話が食い違っているようですが、ギルドマスターからは、今日一日あなたのフォローをするように言い使っております」
「いやいや、魔法職ならともかく、あなた剣士ですよね?
刀は一発でボロボロになっちゃうし、酸で攻撃されたら焼けただれちゃいますよ。
もう、剣は要りませんからお帰りください。
せっかくの綺麗なお顔に傷でもついたら、親御さんに申し訳ないですから」
そういうと、シェラさんは袖をまくりあげた。
「顔の傷は治癒魔法で消しているだけです。
この体には、このように無数の傷が残っていますから、お気遣いは無用に願います」
あらわになったなった腕には、無数の切り傷や抉られた痕、焼かれたような痕もあった。
「これで足りなければ全身をお見せしましょうか?
ひょっとしたら今日で見納めになるかもしれませんから、どうぞご覧ください」
シェラさんはそう言って革鎧の紐をほどきはじめた。
「女だからと侮らないでくださいませ・・・」
「まっ、、まってください」
「ふっ、女の裸ごときでうろたえるとは・・・随分とウブなんですね」
「なに言ってんですか!シェラさんこそ真っ赤じゃないですか!」
「これくらいの恥じらいをみせた方が、殿方は喜ぶものだと聞きました」
「プッ!恥じらいっていうのは、ほんのり頬を染める程度のものであって・・・
いえ、今はそんな議論をしている場合じゃないですから、ともかくお帰りください!」
「あなたも他のくだらない男と一緒なんですね。
女は役に立たない、足手まといだと・・・わかりました・・・このまま何もせずに帰って・・・生き恥を晒すくらいなら・・・」
シェラさんはそう言って革鎧の紐をほどきはじめた。先ほどの続きである。
「ですから、僕に色仕掛けは通用しませんって・・・」
「こんな傷だらけの肌で、色仕掛けなんて・・・いたしませんよ」
革鎧の下は、前合わせの剣道着のような服で前をはだけると真っ白なさらしが目に入る。
それ以外の肌の部分は腕と同じように無数の傷や痣があった。
シェラさんは正坐をし、刀を抜くと刀身の中ほどに布をあてがい刃を内側に向けて握った。
「もし、ご慈悲がおありでしたら・・・介錯をお願いいたします・・・」
「ちょ・・・ちょっと待ってください。何を・・・」
「御免!」
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