ザ カノン オブ ザット シップ
「これが……俺の船なのか」
「おう。武装の組み付けが必要だが、原型はこれになる」
造船所に着いてすぐにカナズチさんから渡されたタブレットには完成した場合の大きさなんかが表示されている。どうやら完成予想図とかが出来上がったらしい。
まず全長が620m。重巡級になることはわかっていたからこれにあまり驚きはない。ただこの全長のうち50m分はとあるものが占めている。それの説明の前に船の大まかな形状を説明しておこう。と言っても普通の船の形状だ。ただ、船首部分は第二次世界大戦時の伊号400型潜水艦に似ている。予定では魚雷発射管が装着される予定らしいから見た目は似ることだろう。
ここでようやく先の説明に戻れる。この船にはそこからさらにバルバスバウと呼ばれる部分が伸びている。本来なら波の抵抗を打ち消したりするものだが宇宙空間では意味無いこと。つける意味は無いのだけど……
「なあ、これは
「ああ。対障害物用50m衝角。フレームに直接溶接してあるからボロっと取れることは無い。そしてこれは硬さに関しちゃ保証する。なんなら宇宙船を貫いても壊れないぞ」
そう、宇宙世界で船に付けられたバルバスバウは衝角へと生まれ変わった。正直これだけでも驚きだが……
「次は元々の通り武装だ。あいつからどんなのが望みかは聞いてるからその辺は在庫があるからな。リストを揃えた」
あいつってオッサンのことかな。
タブレットの画面が変わり、船に組み付ける武装の候補が並ぶ。
一般的な連装砲から単装砲、よく分からない球体が浮かんでいる物なんかある。これは武装なのか?
「へえー、色々あるもんだな」
「ああ、知っていると思うが主砲の口径は普通は55cmが限界だ」
「そうなのか?初めて知ったが」
「そうか。なら簡単に説明すると、陽電子砲の砲弾である粒子体の収束を砲身と電磁石で行う訳だがその大きさを超えると並の砲身の長さじゃ足りなくなる。戦艦級とかの化け物がある以上実現はできる。が、それ相応のエネルギー量と長大な砲身が必要なんだ。それこそ船一つを丸ごと砲身にするくらいのな。ま、55cmを超えたら主砲としては実用性皆無ってこった」
なるほど。まあそこまでデカい砲を積むつもりは無い。それにどんな砲積みたいかは決めてある。
「お、あった。これを積んで欲しい。積めるだけな」
「これは……46cm三連装砲?また珍しいもんを。まあ構わねえが……船の横幅に合わせると一列しか積めんぞ。その場合相当左右が余る」
「え、そうなのか?」
タブレットが操作され、船と選んだ砲の図が重ねられる。するとなるほど。めちゃくちゃ左右が余る。そこに単装砲かなり置けるくらいには。
「これなら同じ46cm連装砲を横に並べて設置した方が良くないか?」
ふむ……確かに。艦橋に当たる部分まで主砲を試しに並べてみる。かなりデカいからそれなりに数は並べられるが……
「仮に限界まで並べてみたら八基。かなり積めるな」
この船の主砲の配置は雛壇式と呼ばれるもので、砲塔を露出せず、雛壇のようになっているところに直接載せるのだ。砲塔こそ存在しているが、外側じゃ目視は不可能。防御性能高めな方式なのだ。砲塔が露出していないだけで透過すれば第二次世界大戦時の戦艦のように見えることだろうが。
「そりゃあ重巡級だからな。あと八基は間違いだ。要望されてた格納庫、ミサイルポッド、レーザー砲、電磁投射砲なんかを設置する場所を除いても同じ砲なら合計十五基設置可能だ」
タブレットに主砲を設置可能な場所が表示される。前甲板に八基、後甲板に四基、前方艦底部に一基、後方艦底部に二基の計十五基。
大きさを考えてもこの砲台の数はどこぞの宇宙戦艦もビックリだ。
「……なあ、この一番艦橋側に近い七から十番砲台なら三連装砲に変えられないか?幅も十分だろう?」
「ああ。そこなら変えられるな。あとは艦底部の砲は全て可能だ。にしても三連装砲にこだわるな。なんでだ?」
ふむ。なんでか、か。ならばこう答えよう。ロマンと!デカい船ならデカい砲、そう言いたいが、俺はデカい砲というのならば実在したこちらを推したいのだ。
その名も大日本帝国海軍大和型戦艦に搭載された46サンチ三連装砲。今となってはロストテクノロジーであり、さらに史上最大の艦砲である。まさにロマンの塊なのである!
「お、おう。わかった。ならば連装砲十基、三連装砲を五基の編成で搭載するってことでいいか?」
「それで頼む。あ、そうだ。上甲板の三連装だけでいいから実弾発射できるようにしてくれ。できるか?」
「おうよ、それくらいなら簡単だ。任しときな」
よっしゃ。万一の大気圏内戦闘だと陽電子砲はあまり使えないからな。レーザーも屈折しちゃって使い物にならない。そういう時のために実弾武装はいくつか欲しいのだ。
え?ミサイルに魚雷に電磁投射砲があるじゃないかって?
ちっちっちっ、ロマンは銀河をも越えるのだよ。
「なら次は単装砲。まあこれに関しちゃ特に言うこともねえ。艦橋の乗る雛壇部分の直上なんかに対応するための武装だ。レーザー砲だけじゃ対応出来ねえ攻撃なんかに使用するもんだが、ここまで武装積んで対応出来ねえ攻撃あるのかって聞きたいな」
「備えあれば憂いなしだ。しかもまだエネルギー量は余ってるんだろ?」
「余裕だよ。そもそも戦艦級のエンジンなんて戦艦級以上専用の砲を使うためにあるようなもんだ。重巡級までの砲なんていくら積んでも余裕になっちまう」
「そりゃあいい。殲滅力はピカイチだな」
満足気な俺を見てカナズチさんは呆れ気味だ。
「はぁ……よし次はレーザー砲だ。といってもこれは前にオーダーされたようにしてあるぜ。今はレーザー砲を組み込んだ装甲板を貼り付けてる最中だな。まあ内側の装甲板は貼り終わってるからこっちは数日もあれば終わっちまう。そうすりゃようやく外側の艤装と内装を同時進行でやってくぜ」
この前見たような装甲板を貼る機械がフル稼働でどんどん貼り付けていっている。あの装甲板の中には副砲として150mm径レーザー砲があって、船全体だと艦底部も含めれば五十基も装備される。主砲の補助で300mm径重レーザー砲も八基装備される。
あ、径ってのはレーザーを発射するために使われるレンズの大きさな。口径ってのが無いからそういう言い方になるそうだ。
他にも30mm径レーザー速射砲が多数。数は指定していないけど、かなりの数なはず。どうしても側面や艦底部はガラ空きになりやすい。だからそれを補うためのレーザー砲なのだけど発射したらハリネズミみたいになりそうだな。上にも発射出来るみたいだし、防空も安心だ。まあ何かあったら船をロールさせるって手も使えるんだけどな。
「ったく、こんな馬鹿みたいに砲乗っけるのは久しぶりだぞ。エンジン出力あってなんぼのものだ。調整の結果予定通り戦艦級の出力に片足突っ込んでるぜ。それに補助エンジンも搭載するからな。普通じゃ考えられない数の砲が乗る」
呆れたようだが、どこか嬉しそうに話している。まだ全貌は見えないが、あと数ヵ月後には全てが俺の前に現れるんだ。
……待ち遠しいよ。
俺は溶接の光が散る作業を見上げつつ、自らの船に口には出さずにそっと想いを伝えるのだった。
1ヶ月後。
俺は久しぶりに造船所を訪れていた。この一ヶ月は三人で色んな観光名所を回ったり絶景を見たり、必要なものを買い揃えたりとのんびりしつつ船の完成を見据えて動いていた。俺が教習所で着た耐負荷装備も自分のものを揃えた。二人の分も簡易宇宙服として購入したぞ。メーデンのは眼福、アンジュは平原だったな。うん。
さて、用があったから来たのだけど……
「さあ、要望を言いなさい。でないさっき言ったように私はこの建造から降りるわよ」
「え、ええーそれは困るぞ。はぁ、わかった。ならまず中量級の機体で……」
「なるほどね。あの子から言われた通りね」
なんでこんなことになったのだろうか。話すと長いので簡潔に説明しよう。
まず俺はこの造船所に予定通り到着したのだがそこで紹介されたのがシュナという女性。
この一ヶ月の間にこの建造に合流した人物でカナズチさんの友人。金髪ビキニでホットパンツとアンジュと気が合いそうな見た目しているが、話しているとすごく真面目な人だとわかった。
元々戦闘機畑の方で、アルス・ファイター社の社員。建造にあたって装甲板関係で呼び寄せたそうだ。
そして少し話す機会があったのだけどそこで俺が戦闘機の免許を持っていると言ってしまったのだ。そしたら目の色が変わって仮に作るのならどんな機体がお望みかと聞かれてしまったのだ。
そしてそこからまた話していくとどうやらこの人ミヤさんの友人でもあるみたいで、俺のことを聞いていたらしい。というわけで俺はいつの間にか彼女の設計で戦闘機を作ることになっていたのだった。
「武装は突撃砲にレーザー砲、戦闘機用陽電子砲、そして物理長剣だね。ふむふむ、ミヤの弟子って感じだね」
既に初めて一時間。彼女のタブレットには俺の要望のほとんどが書かれ、彼女は構成を考えている段階だ。
「よし、君の機体は量産機をベースにしよう。構わないよね?」
「いいぞ。ワンオフ機を求めてるわけじゃないし」
「安心して。私が作る以上、量産機でもワンオフ機にしたげる」
二ーっと笑う彼女に俺は頷くしかできなかった。
そして彼女が提示した予想構成はこうである。
機体ベース:アルス・ファイター製STF-M10
全高:19.5m
主機:アークチェンジャー・ジェネレータ
ベースフレーム:マイクロマテリアル合金
機体装甲:フロークロス樹脂
内部装甲:耐熱性炭素系複合装甲
推進機:可変性加速粒子スラスター&加速粒子ブースター
動力系:繊維系電圧伸縮複合アクチュエータ
OS:SIXA=Ⅱ
だそうだ。
……うん、わからん。フロークロス樹脂ってなんだよ。マイクロマテリアルはまだ文字は見たことあるけど、樹脂はマジでわからん。
はい、勉強します。とりあえず今はシュナさんに任せます。
さて、今日の本題だ。とうとう艤装が終わり、残すは内装と塗装のみだそうだ。
鋼色の船体にはいくつもレーザー砲のレンズや巨大な砲、格納庫の出入口である艦底部のハッチなど。様々な物が付けられている。一ヶ月前とは大違いだ。というか、艦底部の主砲、かなりの重量のはずなのによくフレームとか歪まないな。固定されてる今も下にジャッキ噛ませてはいるけど。
「今は船に艤装を乗っけただけだ。動かすことも出来ねえ。甲板の主砲も、側面のレーザー砲も、衝角の根元に格納された主錨も。何も動かせねえ。単なる錘だ。だから今やってるのはエンジンから各武装へエネルギーの伝達を行う回路の設置と、砲塔ジャッキの設置だ」
「砲塔ジャッキ?」
字面だと砲塔を持ち上げたりするジャッキのことか?
「この船は主砲を二列に並べて設置している。その配置関係上全ての方を一方向に向けることが出来ない。例えば右だが、右舷側は当然向けても左舷側は何も出来ないってことになっちまう。それを解消するためにあるのがこの砲塔ジャッキ。砲塔ごと一段持ち上げて全ての砲を同じ方向に向けられるようにする装置だな。また、砲塔を船に固定する意味合いもある。気密性は高くしてあるが今のままじゃすっぽ抜けちまう。それを防ぐんだ。これからちゃんとした固定もやっていくがな」
す、すげえ……そんなこと考えもしなかった。でもそうだ、確かに干渉しちゃう。一方向に向けて攻撃するならそのジャッキは必要だ。まさか砲塔ごと持ち上げて一斉射というのは予想がつかないけどな。
「ありがとう。正直思いつかなかった。助かったよ」
「いいのよ。言っちまえば在庫なんだ。新しく入荷しちまったから残り物をここで使えてよかった。ま、品は同じだから安心してくれ」
ま、まあ消費できたんなら悪い気はしない……のか?
俺は変に深く考えることをやめて作業を見守る。
溶接をするような音が様々な所から聞こえて、フォークリフトの様な機械がジャッキと思われる電柱くらいの太さのパーツを運んでいく。その先を見るとどうやら船の腹の部分ガルウィングみたいに開いている。そこが内部に通じる入口の様だ。
「それが終わったら内側の配管だ。エネルギー回路を船中に張り巡らせる。そしたらようやく居住環境に取り掛れる」
「先は長い……な」
「ああ、エンジンの調整も終わっているからあとは載せるだけだ。補助エンジンも発注済みだからそれが来たらすぐに載せられる。一番キツイとこは終わって、峠は超えた。それが終わればあとは早い。船の装甲貼るよりかは家建てる方が早いもんよ。それに、大半が倉庫だろう?」
「そうだな。少人数での運用で長期間の無補給を想定しているから部屋数もそこまで多くなくて良いからな。弾薬や飲料水と食料の倉庫の方が大事だ」
食事関係だとアイアンくんが居るから美味いもんは簡単に出来るが、それでも食料カートリッジの他にちゃんとした栄養補給の出来る食材は欲しい。非効率の極みだが、どうせ俺の船だ。好きにやらせてもらうのだ。
「それにしても格納庫って戦闘機でも積み込むのか?さっき話してたが」
「ああ、脱出艇代わりに購入する。他にも色々機材積み込んで作業場とかにするなら格納庫はちょうどいいだろ?」
カナズチさんが頷いてそうだと言っている。みんな考えること同じだな。
さてと、色々話聞いてたらもう昼過ぎか。そろそろお暇して飯でも行くかな。次来る頃には内装が始まっているだろう。
また今度な、俺の船よ。
と、言うわけであれから二ヶ月が経った。アンジュが始めていた株でいくらか稼げたので俺たちは二ヶ月掛けて星一周のクルーズツアーに参加していた。
絶景も色々見たぞ。900m級の滝が10kmも続く大瀑布にカルスト地形のように立ち並ぶ巨大結晶の谷、縦に地下4000メートルもあって底は赤く輝いている巨大な洞窟、プテラノドン並にでかい鷲っぽい鳥の群れなど。
特に洞窟なんてこの辺りの星系じゃ見れないものだそうでこのツアーで見れたのはラッキーだった。
よくあるストーリーならそのことを描くのだろうが、俺は日記とか残さないタイプだ。皆さんのご想像にお任せしよう。ただ、メーデンとアンジュは大喜びしていたし、何度かナンパもされて上機嫌だった。
まあどれもメーデンに大してだかな。男としてあの胸を見て話しかけたいのは同意するが……あれは俺の相棒なんだ。残念だったな。
メーデンは初めてのことでよく分かっておらずアンジュの言葉での勘違いで喜んでいた。俺としては複雑だけど本人が嬉しそうだから何も言うまい。
「リュウ、船は今どんな感じなの?」
「ほぼ完成だそうだ。機器の細かな調整が必要だから完成はまだ少し先だそうだ」
「もう中には入れるんだね?」
「ああ。エンジンも中に入れて、試運転をするそうだぞ。今日はその見学だな」
船の名前は未定。船としての登録もまだ。オッサンによるとエンジンの試運転が終わった段階で申請して、その認可までの間に調整を終わらせるというのが船の建造の常識なんだとか。
「よし、着いたな」
もう行きなれた道を通って車ごと建造しているドックに付ける。
そしてそのままエレベーターを降りて秘匿ドックに入る。あれ、そういやメーデンとアンジュは初めてか?
「これが私たちの船か。すごい大きさだね。どれくらいあるんだい?」
そこには巨大な衝角を有したまだ鋼色の巨大戦艦が鎮座していた。
アンジュもメーデンも初めて見るから口をまん丸に開けている。正直かわいい。
「620mだ。フレームもそうだが衝角がすごい」
「620mだから重巡級?」
「メーデン当たり。駆逐級のグウィバーから一気にランクアップして重巡級だ」
二人とも首が痛くなりそうなほど見上げて、船の大きさに驚いたようであまり話さない。
まあそうだよな。戦艦大和よりデカい駆逐級だったけど今度はそれの二倍以上だ。しかもそれを今はたった三人とアステールだけで運用しようってんだ。俺もビックリしてるよ。
「お、来たか。なら早速始めるか」
アンジュとメーデンがしばらく固まっていると奥から油まみれのツナギを来たオッサンが歩いてきた。なんかすごい久々に見た気がする。元気そうで何よりだな。
「わかった。ほら二人とも。首痛めるから行くぞ」
少し首を摩っている二人を連れてオッサンの運転するドック内を移動する小さな車に乗って後方へと向かう。エンジンは後ろだからな。
全長500m以上の巨体は横を移動するだけでも時間がかかる。また、それだけの巨体だと船を構成する装甲板も大きい。まだ塗装がされていないから継ぎ目が見えているからその大きさがよく分かる。一枚だけでも十m四方はあると思う。レーザー砲のレンズがキラキラと天井のライトを反射しているが、それも塗装でどうにかするのかな。
そんな風に眺めながら移動しているとエンジンのメインノズル部分に大勢集まっている。この前俺の戦闘機に関して半ば一方的に色々言ってきた女性もいる。
「よし、主役も揃ったことだし始めようか。おーい!回せ!」
『こちら機関室、了解』
『こちら中央制御室、了解』
ニコニコしている若い技術者が無線で指示を出す。操作するのは中みたいだけど、ここに集まってるのは外側に測定機械があるからかな。向こうにタブレットみたいのが何台か見える。
中央制御室と繋いでいるのだろうか。中央制御室ってのはこの船に新しく作る部屋で、馬鹿でかいコンピュータを置いている。これもかなり値が張ったが、航路を決めたりするためには必要なものだし、何よりもアステールのために必要なのだ。
しばらく待つと、戦闘機の吸気音みたいな甲高い音が微かに聞こえ始めた。
「中で動き始めたな。これはメインじゃなくて補助エンジンの回転が始まった音だ。メインエンジンのノズルの周りに✕のように補助エンジンが配置されてるだろ?これを起動してある程度エネルギーを生み出してからメインエンジンを起動するわけだ」
なるほど。確かにメインエンジンのノズルよりも小さい円筒状の物がX字に配置されている。これが補助エンジンか。この配置……どこぞの宇宙戦艦で見たぞ?アンドロ……なんだっけな。
「宇宙船のエンジンは宇宙から降り注ぐ微粒子を取り込んで高電圧を掛けると特殊な反応を引き起こして高エネルギー体へと変化する。その量は莫大だ。推進力としてそのエネルギー体を利用し、放出する時の反作用で進むわけだ。で、その高エネルギー体は電力そのものに戻すことが出来る。今はメインエンジン起動用の電力をコンデンサーに溜めつつ補助エンジンを動かすための電力を生み出しているわけだ」
「つまり補助エンジンは発電機ってことか?エネルギーを生み出して変化させて溜めるまたはそのまま利用してエネルギーを生む。まさにメインエンジンの補助のため」
「まあそういうこった。補助エンジンは補助エンジンとして作らなきゃならねえ。大きさだけ見て駆逐級のエンジンとかが流用出来ねえのはそれが理由だ。実際のとこメインエンジンだけでも起動は出来るが恐ろしく時間がかかる。そんなのやってらんねえからな」
もしかしてグウィバーの起動時にアホみたいに時間が掛かったのはそれが原因か?補助エンジンはあったが、そのように機能させるためではなかったはず。
「……見てな、メインエンジンのノズルの中が一瞬だけ光る。それがメインエンジンの起動の瞬間だ。こういう時じゃねえと見れねえからな」
オッサンが期待したように指さして教えてくれる。そう言われちゃ、俺も期待しちゃおっかな。
だんだん音が大きくなって補助エンジンのノズルの奥が赤くなる。あれ、赤熱してんじゃねえの?それにドックの中が心無しか暑くなってきたんだけど。
汗を拭きながら待つことさらに数分。補助エンジンの音はもはや騒音レベルでみんないつの間にか耳栓見たいのをしていた。あ、俺達には耳あてが渡された。音は防げているから大丈夫。
そうして、耳あて越しでも音が聞こえるようになった瞬間。
カッ!!
メインエンジンノズルから目を焼き、荒れ狂う暴力的な閃光が吹き出した。ドラマとかでしか見たことないようなフラッシュバンの閃光が目の前にあった。
真っ白な世界しか無く、絶対に目に悪影響と思えるものだった。
咄嗟に左手で目を覆い、右手でメーデンの目を塞ぐ。アンジュは頑張って貰うしかない。一番近くにいたのがメーデンだったんだ。
どのくらい経ったのか。1秒か、10秒か、それとも1分か?覆った手の隙間から入ってくる閃光が収まった時に俺は手を離した。
話は逸れるが俺が生まれる数十年前に閃光による事件があったそうだ。
テレビの画面で起きた閃光の明滅によってそれを見ていた子供たちが不調を訴えることが続出し、それを機にテレビを見る時は〜の注釈が入るようになったそうだ。
このことから強い光をモロに浴びたら人はヤバいのだ。
ポリ○ンショックのように閃光の明滅じゃないがあれほどの閃光だ。
この状況で俺たちのように咄嗟に目を塞げたのは少人数。50人くらいいたはずだが、半分は倒れていたのだ。
そんな時だ。どこからともなく笑い声が聞こえた。
「くくく……喜べリュウ、この船は大物になるぜ」
何を言っているんだこのオッサンはと思った。が、見れば倒れている人まで同じように笑っている。とても、笑っている。
「エンジンは快調のようだな。あんな閃光だ、縁起がいいこって」
「まるで朝一番のうんこの如く快調だな!」
その例えは勘弁して欲しいがな。
縁起に関しては周りの人も似たようなことを言っている。
つまりエンジンからの閃光が強ければ強いほど縁起がいいってことなのかな。だけどあれだけの閃光が来る可能性あったのならサングラスくらいは欲しかったな。
ほら、笑ってるけど吐いてる人いるじゃん。きらきらモザイクかけないとアウトになっちゃう。
「エンジンも快調だ。これで色んなところにエネルギーが回り始めるから調整が始められる。塗装もそろそろ始めるが、希望は前の通りでいいか?」
「ああ、あれで頼む」
船の塗装に関しては数ヶ月前からメーデンたちと話し合って決めていた。こればかりは俺の一存じゃ無理だからな。でもなかなかいいデザインになっていると思う。
「あのデザインをこの船に使うの?」
「そうだぞ。メーデンの描いたやつがこの船のデザインになる。ま、三人で決めたやつだ。実際の船になっても満足だろ?」
「私は絵のセンスは無いからなんとも言えないけどね。でも私は気に入っているよ」
二人とも良さそうだ。俺はオッサンに改めて頷く。
「よっしゃ、ならあとは船首像作るだけだな。中の砲も含めて調整に入るぞ」
うん?
船首像?中の砲?知らん単語が出てきたぞ。
「ちょっと待てオッサン、船首像はともかく中の砲ってなんの事だ?」
「あ……」
みんなシンとしてしまった。オッサンも固まっている。なんだなんだ、みんな隠してたのか。
そしてオッサンは流れるように土下座の体勢に移行。額を床に擦り付ける見事な土下座で謝ってきた。
「すまん!遊び心で余り物の100cm超高出力陽電子砲を艦首に乗っけちまった!」
「それ遊び心の範疇か!?」
思わず大声で突っ込んでしまったが、本当に何だそりゃ!?
そんな砲が余り物になってることも気になるがなぜ乗せた!?
「これは話すと長くなるから簡潔に説明しよう。これだけのエンジン出力をただ無為に放出するのはもったいない。何か出来ないかと考えたわけだ。そしたら倉庫の奥に戦艦級用の砲があったの思い出してな。型落ちだが、この船にも乗るサイズだったから皆でこっそり乗せてみたんだ。フレームごと改造して衝角に沿うように砲がある。その関係で艦首が開くようになった。船首像は特に意味は無い」
ふむ?つまり俺の船には波○砲が積まれたってことか?でも陽電子砲って言ってるしつまり馬鹿でかい主砲が増えたってことか。
はぁー……いやまああんま船に関して口出しはしなかったよ?ロマンは好きだから許容範囲内であれば色々手を加えてもいいとは伝えてあった。にしてもだ。艦首が開くってなんだよ。ロマンの塊なのは認めるけど、一言欲しかった。
「どうする?まだ外せはするが」
「いや、良い。むしろ外さないでくれ」
そう、俺はロマンが好きである。無駄に洗練された無駄のない無駄な技術とかそういうの大好物なのだ。たとえ使い道なくともあったら嬉しいのがロマンだ。この砲はそれだ。もちろん、艦首の開閉機能もだ。
「了解だ。じゃあこのまま行くぞ。それでだ、船首像はどうするんだ?」
「それに質問だ。宇宙船に船首像とは?」
船首像とはそもそも船の航海安全を祈って付けるもの。女性の物が多いが、当時の信仰として船は女性であるためそれを造船所だけでも擬人化した結果だろう。
神話的に有名なのはギリシア神話のアルゴ号だな。女神ヘラの船首像。実際の軍艦なら威圧的な見た目をしたものを船首に付けることでオカルト的だが魔除の意味合いを持たせたり、馬などを模したものを付けることで船に魔術的な加護を与えようとしたとされている。
が、近代に入り軍艦は変化して船首像はむしろ邪魔になった。そのため船首像という文化はほとんど消えて今では船首像が残っている船もかなり少なかった。
「ああ、それはだな。かつて大昔。まだ俺らが海の上を船で行っていた頃まで遡るが……」
「いや、船首像が何かはわかるから」
あのままだと船首像とは何かについて話しそうだったから思わず止める。
オッサンは何故か残念そうに止めて、少し考えた後に続けた。
「そうか……とりあえず宇宙船にも船首像は付けることがある。理由は航海の安全を祈って。昔と違ってモチーフは女神とかじゃなくてなんでもありになってるがな。ま、昔への回帰じゃないが、宇宙という馬鹿みたいに広い海を旅する上ではそういうオカルト的なものにも頼ることが多いのさ。船の形状的に船首像を付けることが難しい場合はそれに近いペイントになったりもするが、基本軍民問わずで船にはそういったものを付ける」
なるほどね……
俺はチラリと後ろを見て二人の様子を窺う。……うん、向こうで休憩がてらお茶してるみたいだな。なら大丈夫か。
「オッサン、船首像の作成も任せたい。ただモデルはこれにして欲しい」
俺は胸のポケットから一枚の写真を取り出す。
「これは?女のようだが……」
オッサンは写真を見ながら何か怪しいものを見る目で俺を見つめてくる。
「女だよ。俺のな。婚約者だった」
「だった?」
「死んだよ。随分前にな」
「そうか……すまねえ」
訝しげだったオッサンは納得したように頭を下げてきた。そこまでしなくてもいいのに。
「それでだ。調整はどんくらいで終わる?」
「塗装と調整を含めて一月弱ってとこだな。まあそこまで掛からねえ。終わったら連絡するさ。この船の名前も付けてもらわなきゃいけないからな」
そうだ、忘れていた。この船の名前……どうしようか。グウィバーの時は既にあったから気にしなかったけどこの船は一から作ったからそんなのは無い。そしてその命名権は艦長である俺にある。
「わかった、考えておく」
俺はオッサンに写真を預け、二人を呼び造船所から出る。エレベーターに乗らなきゃいけないからすぐに出れるわけじゃないけどな。
歩いている間も二人はさっき貰ったのだろう、お菓子を頬張っている。造船所の人と仲良くなったみたいでかなり楽しそうだ。
守りたいこの笑顔とはこの事だろう。そのためには絶対やらなきゃいけない事が一つある。
……俺もだけど、彼女も向き合わせないとな。この不安を残して旅を続けるのは俺が持たない。
無理やり引き出すのは心苦しいが、長期間暇な今じゃないと出来ないかもしれない。
「最後に残ったカード……切るなら今だな」
俺は楽しそうなメーデンを横目に手元の紙にこう書いた。
『リーズリンデ』
と。
★★★★★★★★★★★★★★
次は18:00の投稿!4話やるよ!!
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