第6話 もしも原田むつがカップ焼きそばの作り方を書いたら

 自宅 午後三時二十二分 日曜日


 名前:不明

 年齢:十八歳

 性別:男

 種族:人間


 以上が彼のプロフィールである。名前が判明していないため、ここからは少年と呼称する。


 人一人通るのがやっとな廊下を少年は歩いていた。

 その足取りは若干重く、腹の音のオーケストラも響かせている。

 居間に入り、家族はどこへ行っただろうかと見回したがいない。外を見ると、車が無いことに気づいた。夕飯の買い物だろう。


「せめてなんか摘まむものは……お?」


 居間の隅の方にある非常食置き場。生憎、お菓子はなかったが代わりにカップ焼きそばを一つ手に取った。

 もうすぐで夕飯だというのにカップ焼きそばというのも変な話だが、背に腹は変えられないと焼きそばの包装をビリビリに破いて、半分だけ蓋を開けた。中に入っていたソースとかやくを取り出すのも忘れてはならない。


 かやくを麺の上に広げたあとにまずすることは、ポットのお湯の用意である。しかしこの家のポットは若干古く、沸くまでに五分ほどかかる。

 家族が帰ってくるのが先か沸くのが先か、はたまた餓死が先か。


「いいや、水道のお湯を使おう」


 待つことすらたいぎだった。

 そういえば東京の人は水道水を飲まないと聞いたことがある。本当かどうかは知らないが、少年にとっては信じられないことだった。


「さて、何分待てば良いのか……三分?結構早いなぁ」


 ――三分後。午後三時二十五分。


「お、出来たか。次は湯切りだったな」


 台所のシンクに少年はお湯を捨て始めた。

 昔はこのお湯を捨てるだけでも難しかったらしいが、時代の進化とは恐ろしい。


 そして仕上げの作業、ソースだ。

 一部にだけ掛けてしまえば、一部だけ味が濃くなる。全体に満遍なく掛けなくてはならない。これがまた難しかった。


「おぉ……結構美味しそうじゃないか!!」

 失敗はない。ソースも完璧と言える位置に掛けることが出来たようだ。

 だまになる前に素早くかき混ぜなくてはと箸を麺の中に突っ込んだその時――。


 妙な違和感。


「あっ……ふりかけ」


 気づけば少年は、カップ焼きそば君との『かくれんぼ』をしていたようだった。


 慢心は、失敗を生む。

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