無名駅
天道くう
第1話 無名駅
キサラギ駅って知ってる? かなり前にネットで噂になった、あの世とこの世の狭間にある存在しない駅の話。まぁ、この話には関係ないから知らなくても良いんだけど。
え? なんで話したかって? そりゃあ、これから話す話が駅に関係するからだよ。
ああ、駅の怪談なんてあり触れた話だろ? だからそんなに怖がるなって。
バイトや塾の帰りに友だちと遊んで、気が付いたら終電間際になることってあるだろ?
え、ない? 嘘言うなよ。今乗ってるの終電だって言ってただろ? へぇ、今日が初めて?
まぁ、そんな感じで終電に乗ってたんだよ。終電って普通、酔っ払いや変な人が乗ってて、そこそこ混んでいるらしいのね。
ん? あぁ、田舎の終電? それはかなり乗客がいないんじゃないの。って、話遮るなよ。
で、話を戻すけど、いつも通り終電に乗って思ったんだ。あれ、今日はいつもより人が少ないぞ、って。まぁ、そんな日もあるか、と思って全然気にしてなかったんだけど、疲れからかいつの間にか寝ちゃってたの。
で、目を覚ましたら知らない場所を走ってて、こりゃまずいぞ、次の駅で降りないと、って思って、次の駅で急いで降りたんだ。
でも、降りた駅には名前が無くて、そこがどこかわからなかったんだ。
時刻表を確認すると、さっき乗ってた電車が最終だったみたいでさ。もう絶望だよね。駅から見える範囲では、家も人影もなくて、山とか木とかしか見えなかったって。電気も薄暗くて不気味だったなぁ。
すっごい田舎。ど田舎に着いちゃったんだって思ったけど、駅があるってことは人がいるってことでしょ? まぁ、いるんだろうけど、こんな夜中に出会えることはないだろうって結論付けて、友だちに車で迎えに来てもらうことにしたんだ。
え、タクシー? え、深夜のど田舎にタクシーなんて走ってると思うの? ないない。絶対にない。
ってことで、スマホで連絡を取ろうとしたんだけど、圏外だったんだよねこれが。
あぁ、始発待つためにホームで寝るしかないかって思って、ベンチで寝っ転がったんだけど、そこで友だちからメールが来てね。
家帰ってないらしいけど、どうしたんだ、って。
いやぁ、特別仲良いって子じゃなかったから不思議に思ったんだけど、その時は切羽詰まってたから、この際迎えに来てくれるなら誰でもいいや、って思って、事情を話して迎えに来てもらうことにしたんだよ。優しい子だったなぁ。すぐに迎えに行くって言ってくれたんだ。
え、酔狂な友だちだって? あはは、難しい言葉知ってんな。
で、駅名聞かれたんだけど、わかんないって言ったら全部の駅周るって言ってくれて。ホームから出て待っててって言われたから、言う通りにしてたんだ。そして、しばらく待ってたら本当に来てくれたんだ。
え? あはは、そうだろ? 友だち最強だろ?
あぁ、でもな。その友だちの顔、全然覚えてなかったんだ。一応連絡先があったから知り合いなのは間違いないと思うけど、本当に全然覚えてなくて、申し訳ないなぁって思ってたんだ。
え、なんでそんな奴を友だちって呼んでるかだって? そりゃあもう、相手が友だちだって言ったからだよ。やけになれなれしくてなぁ。あっという間に本当の友だちになっちまった。
で、友だちの車に乗せてもらったんだけど、なかなか家に着かないんだよ。
どんだけ乗り過ごしたんだ、遠過ぎだろ、って笑いながら話してたんだけど、数時間経ったらそれもなんかおかしいなって思い始めたんだ。
友だちも急に無口になるし、長いトンネルはくぐるし、山道に入るし、家も人影も全然無いしで。
でも、せっかく迎えに来てくれた友だちを誘拐犯扱いするわけにはいかないだろ? だから、友だちも疲れてるんだなって思って、お互いに何も話さなくなったんだ。
で、変に目が冴えてたから、スマホで時間でも潰そうと思って、画面見たんだけど、それがまだ圏外だったんだよな。何にも出来ねーじゃん、って思ったけど、その時、ふと思ったんだ。
あれ、圏外でメールって届いたっけ? って。
あはは、そんなに怖い話じゃないって。
で、友だちから送られてきたメールをもう一度見たら、変に文字化けしててな。読めないんだよ。これは流石におかしいぞ、って思って、友だちに聞いたんだ。お前、誰だっけ、って。
で、そしたら友だち、何て言ったと思う?
ぶぶー、ハズレ。
それがさ、なーんも言わないんだよ。いくら話しかけても、何も返さなくてさ。不気味だけどさ、さすがにスマホが使えない中、ひと気のない山道で降りるのも嫌だろ? だから、じっと座ってたんだ。
そしたら、友だちが、ボソボソと何か言ってるんだよ。
え、何? 聞こえない、って言って、耳を近づけたんだ。
そしたらさ、友だち、ずっと笑ってたんだよな。ケタケタケタケタ笑っててさ。何が面白いのかわかんなかったけど、合わせとけって思って、一緒になって笑ったの。
そしたらさ、急に友だちがぐるんって首をこっちに回してきたんだ。あれは確実に百八十度回ってたね。
で、夢を見ているのか。って聞いてきたんだ。
そうだろう? 意味わかんないよな。
まぁ、その時は頭回ってなかったから、適当にはいとか言って流したんだ。
あぁ、そうだよな。そこ適当に流しちゃ駄目だよな。でも、もう過ぎたことだしいいだろ。
で、いつの間にか寝ちゃって、気が付いたらどこかの駅のホームにいてさ。ちょうど始発の時間だったから何も考えずにやって来た電車に乗ったんだけど、それからだんだん頭が冴えてきてさ。
怖くなってスマホのメールを確認したんだけど、誰からも何も来てないの。
おかしいだろ? でも、よくよく考えたら昨日の出来事は夢だったって気付いたんだよ。
どこの駅に降りたのかは覚えてないけど、疲れてベンチで寝ちゃったんだろうな。寝心地が悪くて不気味な夢でも見たんだろうって思う。
え? 何て? もしかして乗り過ごしちゃったの? あはは、どんまい。次の駅で降りて家まで歩きなよ。
疲れてたんだよって? へぇ、それはちょっと可哀想だな。なんなら迎えに行こうか?
え? ここまで話に付き合ったけど、お前、誰だって? あはは、冗談キツいなぁ。友だちだろ?
無名駅 天道くう @tendokuu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます