閑話3 新城胡々乃と藤堂桜の怪奇譚1 人食い廃墟の怪 後編
家に帰ると珍しく母さんが帰ってきていた。
「ただいま」
「おかえり!胡々乃!!ん?アンタ他の妖魔の縄張りにでも行った?」
母さんは眉根を寄せて訊いてくる。
「行った。桜ちゃんに誘われて人助け。四天鬼って言う最強のボディーガード連れて」
「どういう経緯でそうなったの?」
不思議そうな顔をする母さんに事の経緯を説明すると、母さんは苦笑しながら口を開いた。
「四天鬼って言ってもまだまだ若いわね。敵が出てこなかった理由がよく解るわ」
「え!?何で?」
「考えても見なさいな。普通上級怪。それも大妖クラスである四天鬼を襲うなんて馬鹿な真似、するわけ無いでしょ?」
「でも、透子さんは気配消してたよ?」
「隠れるなら良いけど姿は見えてたんでしょ?姿は見えてるのに気配完全に消したら消してるって解るわよ!人間には人間の気配があるもの」
「え!?そうなの!!」
「もっと言えば、強い妖魔とか何度も見た経験がアレば、妖気消してても大体感で相手の強さは解るわよ。私も解るもの。100超えた妖魔は下級怪でも中々死なないのは相手の力量を解る様に成るからよ」
やっぱり100年以上生きてる老獪な妖魔は戦闘以外も色々技術があるんだな。
「相手を誘い出したいなら沢山人間を連れて行ってその中に紛れるか、微弱な妖気だけだして餌だと思わせるか。まあでも『首かじり』ならどんなに相手が弱くても妖気を持ってたら出てこないわね」
そう言って母さんは笑う。
「じゃあどうすれば行方不明の人を助けられるの?」
言ってすぐに母さんの思考が読めて私はげんなりする。
「性格悪いんだね」
「妖魔の世界は弱肉強食。コレくらいじゃないと100年以上生きるなんて無理よ。特に私達下級怪はね」
翌日の放課後。私と桜ちゃん。そして透子さんは再び例の廃ビルを訪れる。
「結界に囚われた人が生きてるかどうか。結構ギリギリですね」
「でも、胡々乃ちゃんがお母さんから訊いてくれた作戦があるしね!!」
事前に打ち合わせをして、今度は透子さんだけが廃ビルに入る。
「じゃあ。大人しく待ってて下さいね」
「はい」
「はぁ〜い!!」
透子さんが建物に入って姿が見えなくなる。
「これで上手く行くかな?」
「多分。母さんの話だと」
ココから後は首かじり次第である。私達は待つしか無い。
「じゃあお話でもしてよっか!そう言えば胡々乃ちゃんのお母さんは狐の妖魔だよね?普段どんな感じなの?」
桜ちゃんが好奇心に満ちた目で訊いてくる。
「普段かぁ〜。割と普通かな?スナックを経営してるし、男の人が来たくなるような能力だから結構繁盛してるらしいけど、家に居ることは少ないかな?夕方とかに結構一旦帰ってきてたりもするけど」
「へ〜!!」
「桜ちゃんはどうなの?藤堂先輩とは連絡は頻繁に取ってるの?」
聞かれたので此方も尋ねてみる。
「おにぃか〜。最近忙しいみたいなんだよね。『呪怨会』だっけ?変な連中と戦ってるみたいでさ」
「その割には四天鬼ボディーガードで寄越してくれたりするのね」
「そこまで切羽詰まってもいないみたい。それにおにぃの仲間は四天鬼だけじゃないしね」
「他にも居るの?」
コレは初耳だったな。
「元々経立の犠牲者でダンピュール化してた人たちが結構居たらしいし、他にも『呪怨会』と本格的に争うように成ってからは、事故現場とかに積極的に行って死にかけた人をスカウトしてるらしいし、『呪怨会』の犠牲者や倒した呪怨会のメンバーも仲間に加えてるらしいから」
どうやら藤堂先輩は結構大量に仲間を得ているみたいである。
「だから四天鬼が必ず居なくちゃいけないって状況でも無いみたい。あ!!来たね!」
「うん」
会話をする私達の周囲を粘りつく様な妖気が覆う。
『ひぃ!ひぃ!ひぃ!愚かな小娘共じゃ!!あの恐ろしい鬼から離れるとはな!!おかげでこうして儂の結界に取り込めた。その中で朽ち果てるがよい!!ひぃ!ひぃ!ひぃ!』
辺りに嗄れた老人の様な声が響いて消える。
「予想通りだったね」
「まあ、解ってた事だけど」
「と言うわけで透子ちゃん!!後よろしく!!」
「ええ!解ってます!」
何処からとも無く透子さんの声が響き、私と桜ちゃんの服の中から大量の蜘蛛が這い出してくる。
蜘蛛達は透明な結界の壁に貼り付き、辺りを覆っていく。
「こっちの方がグロテスク!!」
「桜ちゃん!!」
それはちょっと透子さんに失礼だろう。まあ、私も内心思ったが。
蜘蛛達が結界に牙を突き立て、そこから妖気を吸っていく。
『ひっ!!何じゃコレは!!』
戸惑った様な声が辺りに響く。
さあ、此処からだ。首かじりが諦めて結界を解けば、透子さんには中で妖気の流れの変化から首かじりを見つけてもらうしか無い。でも、もし首かじりがムキになって結界を強めたら一気に妖気が首かじりから結界に流れることで位置を特定できる。
『これは!!罠じゃな!』
「え!?」
『実に惜しい!!実に悔しい!!そこな狐は美味そうじゃと言うのに』
一気に周囲の妖気が霧散していく。
「まさか!!」
桜ちゃんが嫌そうに顔を歪める。
「百年以上生きるのはコレくらいの用心深さが必要って事か」
結界が消え、辺りの空気が元に戻る。
「えっと?透子ちゃん?」
結界が解けると、既に透子さんが廃墟から出てきていた。
「建物内部に有った結界も破りました。行方不明者達も桜ちゃんが探していた人たちは衰弱して怯えているけど命に別状はありません。安心して下さい」
笑顔でそう伝えてくれる透子さん。
「そっか!!よか…」
桜ちゃんは笑顔で答えようとして途中で言葉を止める。
あ!何か余計なこと考えてる。
「そうか。しかし、お前は何か思い違いをしているようだ透子!」
いきなり変なスイッチ入った!!桜ちゃんがわざとらしい低い声で続ける。
「たかが結界。それが何だ?下級怪風情の結界を上級怪が破れるのは当然だろう?
お前は得意げに行方不明者を助けたと言うが、肝心の首かじりを倒せていない。
何故息の根を止めなかった?わざわざ四天鬼であるお前を呼んだと言うのにだ!!
『虫天鬼』も地に落ちたものだ!!」
「いや、桜ちゃん!!そう言うのいいから」
桜ちゃんの変な悪役が乗り移った様な豹変に対して、透子さんは冷静に返す。
「え〜!!亜夢ちゃんなら大喜びなのに!!」
「あの娘と一緒にしないで!!」
透子さんはげんなりした様子で言う。
「まあ、でも行方不明者が無事で良かったよ」
「桜ちゃんの探してた人たちはね。死体も結構有ったよ。首の肉を齧られてた!」
透子さんの言葉に桜ちゃんは嫌そうな顔をする。
「やっぱりか〜。そうなると、透子ちゃんには悪いけど倒せなかったのが痛いね。
他所でまた被害が出るよ」
難しげな表情で桜ちゃんが首を捻る。
「まあ、あの引き際の良さが長生きできてる理由だろうけど」
他の妖魔に陰陽師にと、下級怪には命の危険が多い。それでも100年以上生きるには用心してもしすぎると言うことは無いようだ。私も見習わないといけない。
こうして私達は、首かじりは逃したものの、行方不明になってる人たちを助けることには成功した。
しかし、この話にはまだ続きが有ったりする。
それは首かじり事件が終わった日の夜。
家でお醤油が切れている事に気づいた私は近くのコンビニに買いに行ったのだが、その帰り道、とんでもない光景を見ることに成る。
「ひぃ!ひぃぃぃぃ!!!」
「逃げれないよ。首かじり」
「な、何故!?何故此処が?」
「私は8分の1以下の確率なら改変できるんだよ。眼の力でね。あの場からお前が逃げる方向を8方向中で北西に改変しておいたの。北西方向で隠れれそうな場所は此処だけだったからね」
正対する小柄の老人の様な妖魔と透子さん。話を聞く限りあの老人が首かじりだろうか?
そして何より気になったのが透子さんの眼だ。右目は瞳の中にキラキラと星屑の様な物が浮かんでおり、左目にはクリームイエローの正八面体が浮かび上がって、クルクルと回っている。
「死者の眼!『導きの瞳』と『破壊の魔眼』そんな伝説級の眼を何故!?」
「忍君に貰ったんだよ。四天鬼の証としてね。この眼が有れば敵を逃さない!!」
「ひぃぃ!!た、助けてくれ!!見逃してくれ!!」
「さよなら」
透子さんの背中から飛び出て巨大化した3匹の蜘蛛が首かじりに飛びかかり、その身を引きちぎり、捕食していく。
「さて!終わった!終わった!!」
軽く伸びをして、透子さんは暗がりに消えていく。
「あれが、本当の四天鬼の力!!」
桜ちゃんにはグロテスクなシーンを見せないようにしていたんだろう。それにあの妖気!
私は暫く、恐怖で震えが止まらなかった。
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