閑話2 新城胡々乃と藤堂桜の怪奇譚1 人食い廃墟の怪 前編
「お兄さんが帰ってこない?」
私、新城胡々乃がその相談を受けたのは放課後の事。正確には向こうから相談してきた訳じゃない。暗い顔をしているクラスの女子に桜ちゃんが声を掛けたのだ。
「3年前に経営破綻して潰れた会社のビルが有るでしょ。兄さんが友達と一緒にそこに肝試しに行くって出かけてそれから帰ってこなく成ったの。父さんと母さんも警察に捜索をお願いしてるけど全然進んでないみたいで」
言ってることに嘘はない。でもちょっと気になるのが…
「ご両親止めなかったの?いくら廃墟とは言え不法侵入だよね?」
「兄さんは最近小山先輩と一緒に居ることが多くて、小山先輩達と仲良くなりだしてから父さんと母さんの言う事聴かなくなってきてたから」
小山?ああ!確か金髪赤メッシュでピアス付けた奴だ。同じ様なファッションの連中とつるんでた。
そう言えば最近アイツラも見てない。目立つから居れば嫌でも解るけどな。
「そっか〜。それは心配だね!」
「いえ。あの、すいません。桜ちゃんにこんな事相談して」
桜ちゃんの兄である忍さんが記録上事故死に成ってることをその娘は思い出したようだ。一般人のこの娘は本当に死んだと思ってるもんな。
「別に良いよ!!それよりお兄さん!私がちょっと探してみるね!!」
「え!ちょっと待って下さい桜ちゃん何を?」
「どこまで力に成れるか解らないけど待ってて」
「いえ。ちょっと!まさか廃墟に行く気ですか!!駄目ですよ!!」
「大丈夫!大丈夫!行こう!!胡々乃ちゃん!!」
その娘の静止も聞かずに桜ちゃんは教室を出る。何故か私の手を引いて…
「いや、え!?桜ちゃん!!まさか本当に廃墟に行くの?私も?」
「そうだよ!!まあ、その前による所もあるけど!!」
事もなげに言う桜ちゃん。
「いや!無理!!何か居たら死ぬよ!!」
下級怪の半妖と唯の人間なんてかっこうの餌だ。
「大丈夫!!2人で行くわけじゃ無いから」
そう言って桜ちゃんが私を強引に連れてきたのは件の廃墟ではなく。今にも崩れそうな古民家。
「此処は?」
「お邪魔しまーす!!」
「ちょっ!!」
慣れた感じでズカズカと入る桜ちゃん。その行動に私は慌てる。
だって此処妖気が充満してるから!!
「薄暗い古民家の中で変化はすぐに現れる」
バタンッ!!
扉が勝手に閉まり、周囲の温度が下がっていく。
「(餌だ!!久しぶりの餌だ!!)」
思考を読める私の耳に不吉な思考が聞こえる。
「ちょ!!桜ちゃん!!此処って!!」
私は慌てるが、桜ちゃんは動じない。そして天井からそれが振ってくる。
ドサリッ!
音を立てて落ちてきたそれは巨大な蝙蝠だ。
「餌だ!!」
蝙蝠は私達に襲いかかろうと上体を起こし、私は身を固くする。
一方桜ちゃんは平然として呟く。
「野衾!お前私に何かしたらどうなるか解ってる?」
私達に振るわれる寸前だった蝙蝠の爪が止まる。
蝙蝠はジッと桜ちゃんの顔を見た後、「あっ!」と叫んで仰け反る。
「さ、桜の嬢ちゃん!!」
「私を殺そうとしたの?野衾?おにぃに勝てる自信があるならやってみる?」
「め、滅相も無いっす!!あの方に逆らうなんてとんでもない!!」
巨大な蝙蝠は震えながら首を振る。
「と言うかいきなり入って来ないで下さいよ!!桜の嬢ちゃん!!不幸な事故が起こる所でしたよ!!」
「ゴメン!ゴメン!まあアンタが人殺し止めれば良いだけの話なんだけど」
桜ちゃんのチクリとした一言に野衾は首を振る。
「最近は殺してませんよ」
「え!?そうなの?」
「はい。俺は人間の血を糧にする妖魔です。今までは滅多に人が来なかったんで、来た人間の血は吸い尽くして吸い貯めしてましたが、最近はなんです?肝試しとやらがブームなんですかい?沢山人間が来るもんで、そいつらを気絶させてちょっとづつ血を貰ってます。その方が陰陽師にも目つけられないんで」
そう言って野衾は頭の後ろを翼手の前足で掻く。なんと言うか、人を襲う妖魔ってもっと不気味で恐ろしいイメージだったけど、実際は結構世知辛いんだな。
「そうなんだ!それは良いことだね!貴方もメリットあるし、人間も死者が減るなら良かったよ」
「それで、桜の嬢ちゃん。今日はどういったご要件で?」
野衾が首を傾げて桜ちゃんに尋ねる。
「そうそれ!!ねぇ!3丁目にある廃墟のビル知ってる?そこに肝試しに行った知り合いの家族が帰って来てないらしいの」
「3丁目の廃ビル?ああ!あそこですかい。確かあそこには結構老獪な『首かじり』が住んでましたね」
「首かじり?」
聴いた事が無い名称に桜ちゃんが首を傾げる。私は多少知っているがそれって…
「ちょっと良い?」
「なんですかい?お嬢ちゃんは桜の嬢ちゃんのお友達で?妖魔みたいですが?でも弱いし人間の匂いも?半妖ですかい?」
野衾は訝しみながら私に視線を向ける。
「そう。それよりちょっと気になったんだけど、『首かじり』って餓死した老人の幽霊が生前自分に食べ物をくれなかった人が死んだ後で、墓からその人の遺体を掘り起こして首を食べるって話じゃなかったの?今回は生きてる人が行方不明に成ってるよ?」
私の質問に野衾は首を振る。
「半妖のお嬢ちゃんの知識はちょっと人間の創作が入ってます。
確かにアイツラ、昔は墓から人の死体を掘り起こして食ってたが喰う死体が生前食い物をくれたくれなかったは関係ありませんぜ。それどころかアイツラが死んだ人間の魂からできてる保証もない。
単純にアイツラは人肉を喰うんです。首を齧るのはそこが美味いから。
後、近年は火葬が一般的なんで、墓を掘り起こすような『首かじり』は居ませんね」
なるほど。確かに地方によって伝承が異なる妖魔も居るもんな。伝えられてることが全て正しい保証はないか。
「それじゃあ行方不明に成った人はもう喰い殺されてる?」
「そいつは微妙ですね!いつ居なくなったかに依りますぜ!なんせ『首かじり』の奴らは土を掘るのは得意で土中に潜んだりもするが、たいして強くない。
いくら唯の人間でも若い男数人に襲いかかるのはリスクがある。最悪逃げられる。
基本『首かじり』は死体を喰う。それは伝承の通り。おそらくその行方不明に成った人間たちは方向感覚を狂わせる結界にでも囚われてあの廃ビルに居ますぜ。
乾きと飢えで倒れ、絶命した後で『首かじり』が姿を見せてゆっくり喰うでしょうから」
「なるほど!!つまりまだ助けられると?」
桜ちゃんがニィと笑う。
「時間との勝負っすね」
野衾の答えを聞くなり、桜ちゃんはすぐにスマフォを取り出して電話をかける。
「もしもしおにぃ!!そうそうあたし!!桜!!悪いんだけど四天鬼1人護衛に貸してくれない?え!?
誰に何を電話したのか心を読まなくても解る会話だ。とんでもない味方が来そうである。一方で会話を聴いていた野衾は嫌そうだ。嫌がる心情が伝わってくる。
「え!?此処に四天鬼来るんっすか?」
声も露骨に嫌そうである。
「どうやら、そこの野衾は私に会いたくなみたいね」
「え!?」
いきなり室内に記憶にある声が響く。
「げっ!!何っすか!?これ!!」
気づけば壁一面が蜘蛛に覆われている。ちょっと鳥肌が立つ光景だ。
蜘蛛は蠢いて移動すると部屋の中心で塊になり、徐々に人形を作っていく。
「久しぶり!!桜ちゃん!!」
蜘蛛達が再び周囲に散らばり、塊の中から女性が現れる。
美しい女性だ。以前より美しくなっている。森沢透子。おそらく彼女は進化したのだろう。しかし、それにしては妖気を全く感じない。以前有った宮下亜夢さんは凄い妖気で背筋が寒くなったが、彼女にはそれがない。一瞬一般人と居るような感覚に成る。でも、彼女の思考は一切読めない。その事実が彼女が人間でないと確信させる。
「し、四天鬼!!」
彼女を見て尻もちをつくように倒れ込んだのは野衾だ。
「ゴメンナサイ!ゴメンナサイ!ゴメンナサイ!」
頭を抱えてガタガタと震えている。
「で?ご要件は?」
そんの野衾を無視して透子さんは桜ちゃんに尋ねる。
「うん!知り合いの家族がある廃ビルに入って行方しれずなの。そこに調べに行く予定だから一緒に来て欲しくて。野衾に聴いたけど、巣食ってるのは首かじりって妖魔。行方不明な人は結界に囚われてる可能性が高いって!」
「解った。行きながら詳しい話を聞かせて」
こうして透子さんも加えた3人で廃ビルに向かう。いや、透子さん妖魔だし私は半妖だから妖魔1.5体と人間1.5人かな?まあとにかく廃ビルに向かう。
道中で野衾から聴いた話を全て透子さんにも伝え、そして目的の廃ビルにたどり着く。
「此処か!確かに若干の妖気は感じるけど?」
「行こっ!!!」
「ちょ!!」
桜ちゃんは何の躊躇いもなく廃ビルに足を踏み入れる。私は慌てながら、透子さんは苦笑しながら後に続く。
「何もないね?胡々乃ちゃん!透子ちゃん!どう?」
「妖気は感じるんだけど…」
でも場所を特定できない。
「私も。と言うか妖気の出処を探ってみたけど複数、どれも柱とか壁とか、そんな物ばかり」
「その柱とか壁に何か細工が?」
「いえ、特に。多分妖気を隠してる本体を見つけづらくする小細工だと思う。予め適当な物複数に妖気を大量に吸わせておいた自分は妖気を隠す。探ってもダミーの気配のせいで見つけ難い」
結構考えられてるな。『老獪な首かじり』あの野衾はそう言ってたっけ?
「でも、普通人を襲うタイプなら私達も入った瞬間その方向感覚を狂わせる結界の囚われてない?私は人間だし、胡々乃ちゃんや透子ちゃんも人間と変わらないよね?」
「私のせいかな?私は半妖で種族的にも弱いおさん狐だからあまり妖気を隠すのにも慣れてないし、気をつけててもちょっとは漏れてるから」
少なくとも私は透子さんの様に綺麗に妖気を消すことは出来ない。
「そっか〜。とりあえず今日は一旦帰って明日また透子ちゃんと来ようかな?」
「そうね」
とりあえずその日は廃ビルを後にして解散する。この時、私はなんとなく視線を感じるが、振り返っても廃ビルには何も居なかった。
ー○●○ー
「恐ろしや!恐ろしや!!アレが四天鬼か!!何という存在!!まさに暴力の化身!!だがまだ若い。とは言うてもそれでどうにか成るわけでもない。いくら老獪でも鼠は獅子に勝てん!!しかし、あの子狐!よいのう!実に良いのう!!美味そうじゃし、楽しめそうじゃ。しかしあんなのが側に居っては、どう引き離すか?どう取り込むか?」
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