第21話 真祖の力
「あ〜。ヤバそう?」
前川君に向かって地面から伸びたダンピュールの爪が迫っていく。
「よっと!!」
「え!?」
俺の掛け声と共に西沢夏恋は、腕を何かに引っ張り上げられているの様に空中に引き上げられ、素っ頓狂な声を上げる。そんなに驚く事かな?
「何が!?あ!!」
その事態に前川君達は一瞬目を丸くするが、すぐに土倉さんが近づいてくる俺に気づく。
「アイツは!?」
「まさか…遭遇するとは…」
糸を使っている美少女が苦みばしった表情を浮かべる。と言うかあの娘前に新幹線で在ったよね?
皆がそれぞれ異なった反応をする中、一際極端な反応をした一団が居た。
「「「っっっ!!!」」」
ダッ!ダッ!ダッ!ダッ!
「え!?」
地面を叩きつける様な音が響く。驚いてそちらを見ると大島さんが西沢夏恋に差し向けたグール達が一斉に土下座していた。ナニコレ?
「………」
「………」
「………」
一言も喋らず、若干震えながら土下座しているグール達。
え?どうするのこの状況?「頭を垂れて這いつくばれ!」とか言った方が良いの?いや、もう這いつくばってるけど。
しかも一言も喋らないし。いや、何か言ってよ!!コッチも会話切り出しづらいじゃん!!
「この!!離せ!!」
全員が静まり返る中、西沢夏恋だけが俺の『念動』によって空中に釣るされたまま必死に藻掻いている。
でも、それじゃ何ともできないと思うけどなぁ〜。
とりあえずこの状況どうしよう?
俺は困ったと内心ため息を吐いた。
ー○●○ー
「前川!!下だ!!」
「あ!!」
土倉さんの声に下を見ると、既にダンピュールの爪が目前まで迫っていた。
駄目だ!間に合わない!!殺られる!!
僕は身を固くし、思わず目を瞑る。こんな事をしても意味はない。次に襲ってくるのは引き裂かれる痛みのはずだった。
「よっと!!」
「え!?」
戦場に似つかわしくない軽い調子の声。そして西沢夏恋の驚愕する声。
「何が!?あ!!」
目を開けると、ソレが視界の中に飛び込んできた。
恐ろしいほど美しく神々しい。下手をすると神様かとも思ってしまうが、そうではないと主張するような背筋が寒くなる不吉な気配を纏っている。
以前直接在った時とは大分姿が変わっている。だが、すぐに解った。アレは忍さんだ!!
さて!難を逃れたところで状況を整理しよう。
西沢夏恋は、何か見えない力で空中に釣り上げられている。藻掻いているが、逃れることは出来ないらしい。
呪術師達も動こうとしない。忍さんを警戒しているのだろう。
そしてグール達。こっちの反応が極端で、一斉に土下座し、そのまま硬直している。
さてこの状況!どうするのが最善だろうか?とりあえず、忍さんが来た以上西沢夏恋も生存確率低そうだし、適当に忍さんに挨拶して帰るのが最善の気もするけどな。
ー○●○ー
その存在を目にするのは初めてだった。その存在が何なのか目にしてすぐに解った。
「「「っっっ!!!」」」
ダッ!ダッ!ダッ!ダッ!
大きな音が出るくらいの勢いでボク達はその場に土下座した。
「(忍様!!忍様だ!!)」
「(間違いない!!この方がそうだ!!)」
神にも匹敵する圧倒的な力を持った存在を前に、背中は冷や汗でぐっしょりと濡れる。
声すら出せずに只々跪いていると、その存在は一度、呆れたようにため息を吐いて口を開く。
「お前たちではこのダンピュールには勝てなかったか」
一言。その一言でボク達は体が凍るような錯覚に襲われる。
「も、申し訳ございません!!後少し!!後少しだけお時間をいただければ、必ずやそこのダンピュールを始末してご覧に入れます!!」
「いや、時間が有れば勝てるとかそんな戦況では無かったでしょ?」
「いえ!その様な事は!!もう少しお時間をいただければ必ずや我らは貴方様のお役に立てます!!」
約立たずだと思われたら消される。それはボク達がこの存在を見て思った率直な感想だ。
だからこそ大木さんは必死に自分たちが使えるとアピールしている。
「いや、そこまで言うなら待つけど、具体的にどれくらい待てばいいの?」
「血を!!貴方様の血を分けて頂ければ、必ずやより強力な妖魔となり、あのダンピュールに勝利してみせます!!」
ちょ!!大木さん!!それ質問の答えになってない!!今のままじゃ勝てませんって言ってるようなもんだし!!
「クプッ!!必死すぎるし、答えになってないけど、まあ良いよ。そもそも『同族強化』と『鬼族強化』、『死霊強化』でお前らは強くなるけど、俺に従ってないあの娘はその影響から外してるからさっきとは力関係が違ってるしね。まあ、更に血が欲しいならあげるよ」
「あがぁっ!!!」
忍様の指先から流れ出た血液が、赤い槍の様に成って大木さんに突き刺さり、そのままその体内に吸収されていく。
「お!おぉぉぉ!!」
血の槍が体内に吸収され、大木さんが絶叫を上げる。
「体が崩壊しないようにある程度血の量は絞ったけど、まあ、それだけ有れば十分でしょ!!」
全身に血管が浮かび上がり、大木さんが悶え苦しむ。
「がぁ!ぁぁ!あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」
ボク達の鼓膜が敗れるかと思うほどの絶叫を上げた後、大木さんの体に変化が生じる。
プレッシャーが跳ね上がり、今までと違う雰囲気を纏う。
「凄い!!コレは!!この力は!!ダンピュールの物!!」
強大な力を持ったダンピュールと成って、大木さんが立ち上がった。
ー○●○ー
血を分けてくれれば強力に成って役に立つ。そう言うグールの言葉に俺は笑ってしまった。
確かにその通りだが、それをするのであればとっとと俺が始末した方が早い。
「(まあ、でも試してみるかな)」
真祖に成って四天鬼をヴァンパイアに進化させる時少し違和感が在った。それを試す良い機会だ。
「お!おぉぉぉ!!」
血の影響で絶叫を上げるグールの男。名前は大木だったかな?
彼の体内で今まさに作用している血を感じ取り、その動きを操作する。
「(進化に必要な分を先ずは優先。残った分は新能力を得る方を重視。今有る『硬化』を強化して新能力に、更に俺の『超速再生』を与える。あ!駄目だ!リソース不足。劣化版の普通の『再生』ならいけるか。後は、残りちょっと血がまだ余ってるな。もう1つ能力あげれるほどは無いし、血を追加すればこの人が耐えきれずに崩れるから、残りは妖気と身体能力の強化に回そう。身体能力を若干高くしよう)」
血を細かく操作し、俺の意図通りの強化が終わる。
真祖だとこんな事も出来るのか!!今度四天鬼の皆にも欲しがる能力あげよう!!
ダンピュールと成った大木さんは今までとは別人の如き動きで西沢夏恋に襲いかかる。ちょっと顔立ちが整ったとは言え、大の大人が少女に飛びかかる絵面は犯罪臭がするが、まあ相手も碌でもないからセーフだろう。
「はっ!!」
「きゃぁぁ!!」
大木さんの拳が西沢夏恋に直撃し、その胸を貫通する。
「あ、うがぁぁぁ!!!」
西沢夏恋は痛みから悲鳴を上げるが、すぐに目つきを鋭くし、妖気を放つ。
「むっ!!」
「態々自分から触れに来るなんておバカ!!」
大木さんの腕に西沢夏恋の体が同化していく。
「大木さん!!体内に侵入されたら!!」
「心配するな!!ふんっ!!」
仲間のグールが慌てるが、彼は仲間の心配を他所にニヤリと笑った後、腕に力を込める。
「なっ!!何?コレ?」
「俺の新しい能力。金剛化だ。金剛石の様な硬さに成るが動けなくなる。腕だけに使ったが、コレで腕と同化してたお前も動けまい。それに同化している今ならお前にこの能力を掛けることも出来るようだ」
「なっ!?この!!」
西沢夏恋は慌てて逃げようとするが、大木さんの腕と同化した部分は金剛石の強度に成っており、ピクリとも動かない。
「終わりだ!!」
「この!!巫山戯るなぁぁぁ!!!!」
絶叫を上げながら西沢夏恋は硬直していき、ついにピクリとも動かなくなる。
「ふんっ!!」
大木さんは手刀で自分の右腕を二の腕辺りで切り落とすが、断面から新しい腕が生える。『再生』上手く機能しているみたいだ。
大木さんの右腕と同化した状態で硬直してしまった西沢夏恋はそのまま地面に落ちる。
おお!本当に勝った!にしてもあの娘行いを改めさせれば良い戦力になりそうだよね。呪怨会との戦いもまだ続くし、戦力は多いほうが良いな。
「それ生きてるの?」
「はっ!」
声を掛けると大木さんはちょっと緊張した様子で跪く。
「生きております。我が能力で硬直させただけですので、能力を解除すればまた動くかと」
「そう。それじゃあ領域に持っていこうかな。ひょっとしたら説得して仲間に出来るかも知れないし」
亜空間を生成し、『亜空間移動』で西沢夏恋を一旦亜空間に送り、そのまま山の領域に放り出す。
「こ、コレは!?」
「亜空間を通して山の領域に送っといた。ひとまず一見落着かな」
人殺しのダンピュールは捕まえたし、一見落着だ。そう思って俺は肩の力を抜くが、そうは問屋が降ろさならしい。
「待てよ!!」
「ん?」
弛緩した空気を壊すように土倉さんが鋭い声を上げた。
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