第20話 前川 祐介の実力

「はぁぁぁ!!!」


 夏恋が声をはりあげ、そのままアスファルトに潜る。


「え!?」


「アホか!!下だ!ぐはぁぁ!!」


「土倉さん!!」


 何が起きたか解らず動揺する前川祐介を庇い、地中から襲い来る爪を土倉が代わりに受ける。


「アスファルトに潜られれば重力操作も意味をなしませんね」


 唯の糸が一瞬現れた夏恋の腕を捕らえようとするが、虚しく空を切る。


「ちっ!!でもお前らには効くだろ!!」


 立ち上がった土倉が放った無数の岩石弾が唯に迫る。


「そんな物!!」


 しかし、唯の糸は難なく岩石を切り裂いてしまう。


「終われ!!」


「貴女がね!ちっ!!」


 唯の真下から飛び出る夏恋の右腕。アスファルトから生えるように跳び出してきたそれは唯を貫こうとする。一方、唯はそんな夏恋の腕を糸で捕縛しようとするが、危険を察知した夏恋はすぐに腕を引っ込める。


 先程からこんな三つ巴の様な攻防がずっと続いている。


「いい加減終わらせないと!」


 このまま消耗戦を続けると、生身の人間である陰陽師が1番最初に限界が来る。呪怨会の呪術師も一応生身では有るが、彼らは色々な術で体を強化している。


「曲がれ!!」


 祐介は声を張り上げて右腕は振るう。


「なっ!!」


 彼のその動作に合わせ、強烈な衝撃波は発生し、周囲の物を生物、無生物問わず薙ぎ払う。


「「「うわぁぁぁ!!」」」


「ちいぃ!!」


「ふんっ!!」


 唯以外の呪術師達と12体のグール達がその威力に抗えず吹き飛ばされる。


 一方で、唯は糸を天に伸ばして上空に逃れ、夏恋はアスファルトに潜って難を逃れる。そして栄心を含めた3体のグールは、両手を前に突き出し、妖気の盾を作って衝撃波に耐えきった。


「嘘でしょ!!」


 祐介は目を見開いて呟いた。


ー○●○ー


 事態は思った以上に最悪である。僕の異能は強力な部類だと聴いていたが、陰陽師のバイトを始めた直後から通じない相手である藤堂さんに遭遇した。

 だから無敵じゃないのは十分承知していたつもりだったけど、まさか此処まで通じない相手が多いとは。


「前川!?お前今のどうやって?」


 能力の射程外に居た土倉さんが後ろから声を掛けてくる。


「単純に僕の腕を起点に重力を直角に曲げただけです」


「曲げただけって!?」


 土倉さんは驚きているが、そこまで難しい事じゃない。


 能力の制御技術も適当で良いし、元々有る重力の方向を変えるだけだから、神威の消費も少ない。


「こんな事出来たのかよ?」


 知らなかったと土倉さんが苦笑する。


「藤堂さんと初めて戦った時に思ったんです。重力を異能で強化するだけじゃ効かない相手が居るって」


 実際藤堂さんとの戦いは、彼が悪い妖魔なら死んでいた。


「この方式の攻撃なら、相手に実際に影響を及ぼしてるのは重力だけだから藤堂さんにも効くかなって」


「お!アイツと再戦する気に成ったか!?」


「そんな訳無いでしょ!!と言うかあの人絶対メチャクチャ強くなってますよ!!死にますから!!」


 何で好き好んであんなヤバイ人と戦わないといけないんだか?


「そうじゃなくて、神威を無効化するのがあの人だけとは限らないって事です」


 実際、こないだ偶然遭遇した四天鬼は藤堂さんの能力の劣化版の様な力を使っていた。藤堂さんの部下だからと言われればそうかもしれないが、藤堂さんと無関係の妖魔でも使える奴が居る可能性は有る。


「まあ、とは言っても、その技は雑魚殲滅用だろ」


「ええ」


 さっきの攻撃で実力のない相手は吹っ飛ばされた。あの糸を使うかわいい女の子以外の呪術師は壁や街路樹等にぶつかって圧死し、グール達も吹っ飛ばされた個体は各々何かにぶつかって手足や胴体が折れ曲がり、ひしゃげている。


 一方で、避けたり防いだりした者達は一切ダメージを受けていない。


 実力者相手には通用しないと言うことだ。


「風の噂では藤堂忍はもう神妖クラス。通じねえだろうな。出会った時にお前がそれ出来れば勝敗は解らなかったかも知れねえが」


「いや、多分変わらなかったと思いますよ」


 僕は吹っ飛んだグール達に視線を移す。


「う、ああぁぁぁ」


「うごぉ!おぉぉぉ」


「あ゛、あ゛あ゛ぁぁぁぁ」


 ひしゃげた体が盛り上がり、折れ曲がった手足が元に戻っていく。


 千切れた手足や指、飛び出た眼球なども手でひっつければ元に戻っていく。


 元々西沢夏恋に戦闘不能にされていた個体を除いて、吹っ飛ばされたグール達がゆらりと立ち上がる。


「ちっ!腐ってもグールってか!」


「アレくらいの超回復はどんなグールでも出来るって事でしょうね」


 切断された部位が生えてくる「再生」は1段レベルが上で早々出来ないみたいだが、切り傷が瞬時に塞がったり、潰れたり折れ曲がった部位が元に戻ったり、切断された部位も手でくっつければつながったりと、その程度の超回復は全てのグールが持っているみたいだ。


「アハハハ!!陰陽師!呪術師!変なグールの集団!アンタ達!!全員殺してあげる!!」


 僕達がグールの回復力に驚いていると、戦場に西沢夏恋の声が響き渡る。


「何かやる気か!?」


「ありがとう!人間の死体を作ってくれて」


「あ!?」


 突然のお礼に土倉さんは首を傾げるが、僕はすぐに何を言っているのか理解する。


「しまった!!」


「あ!?どうした前川?」


「あの子は…」


「きえぇぇぇぇ!!!」


 土倉さんに伝えようと口を開くが、夏恋の奇声に僕の声はかき消される。


「なっ!!」


「あ゛!あ゛あ゛あぁぁぁぁ!!」


 死んだ呪術師達の死体が起き上がり、僕達に向かって襲いかかってきた。


「くそっ!!」


「そう言えば、死体操ってましたもんね」


 重力で死体を押しつぶして動きを止めるが、死んでいるだけあって、恐怖も痛みもない。どれだけ抑え込んでも這い寄ってくる。


「くぅぅぅぅ!!」


 全力で押さえつけ、地面が陥没するが、死体は藻掻き続ける。


「今だ!!行け!!」


「おう!!」


「ウザい!」


 そんな状況をグール達は好機と捕らえたのか、一斉に夏恋に襲いかかるが、夏恋は素早く地面に潜って回避する。


「先ずは邪魔なアンタから!!」


「え!?」


 西沢夏恋の声がすぐ側で聞こえる。


「前川!!下だ!!」


「あ!!」


 土倉さんの声に下を見ると、既にダンピュールの爪が目前まで迫っていた。


 


 

 


 


 

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