第14話 天座の決闘
室内は重苦しい雰囲気に包まれている。亜夢ちゃんが怒りの形相で立ち上がり、啓生さんを睨みつけている。
「冗談ですよね?啓生さん?」
「いや。申し訳ないが、本気だ」
啓生さんの返答に、亜夢ちゃんがギリリと歯ぎしりする。
どうしてこうなったんだったか?
人身御供の呪い対策は簡単に決まった。『反神威領域』や『対神威領域』を使えば割と楽に対処可能だ。
ではなぜこんな雰囲気に成ったのかと言うと、それは啓生さんの一言が原因だった。
「四天鬼を辞めたい。冗談で言っている訳では無いんだ。今回の件、死に際に妻の顔が脳裏をよぎった。経立に殺された後、折角生き返って妻と暮らせるように成ったんだ。これからも彼女と生きていきたい。
今回死にかけて解った。もう危険な事はしたくない」
怒りで歯を食いしばる亜夢ちゃんから視線をそらし、啓生さんは俺をまっすぐ見つめて言う。
「巫山戯るな!!主から他のダンピュールやグール以上に、怨霊や妖気を貰い、大量に血も貰ったのは呪怨会との戦いに協力すると同意したからだ!!
私達は吸血鬼!!人間など餌も同じ!餌相手に何を怯える!!臆病者!!」
亜夢ちゃん。怒ってるところ悪いけど凄い厨二臭のする怒り方しないで。と言うか、俺達人間を食い物にしたこと無いよね?え?いつから人間が餌に成ったの?
「確かに、力だけ貰っておいて虫の良い話だと思うが、あれだけ危険な目に遭えば…」
「危険!?生きてたでしょうが!!ちょっと頭齧られたくらいで大袈裟な!!死ぬまで戦え!!」
亜夢ちゃん!感覚ズレてるから!!普通頭齧られたら即死だから。
因みにこの場に居る残りの2人。森沢さんと順一さんだけど、森沢さんはどうするべきか判断しかねてオロオロしている。順一さんはジッと黙って成り行きを見守っている。
「藤堂君はどう思ってるの?」
オロオロしていた森沢さんだが、自分が間に入っても解決は不可能と考えたのだろう。ボソッと俺に耳打ちしてくる。
「う〜ん」
ぶっちゃけた話別に良いと思うんだけどね。啓生さんが言うことも解かるしね。確かに巨大な虫の化物に食い殺されかけるなんてトラウマになって当然の出来事だし。
そもそも啓生さんがダンピュール化した理由がそろそろ奥さんと子ども作るつもりだったからって理由だったし。
と言うわけで俺としてはどうやって亜夢ちゃんを説得するかだけなんだよね。
そんな風に考えていると、領域の入り口の周囲に放っている式神が有る一行を見つける。
「あ!すっかり忘れてた」
「「へ?」」
いきなり大きな声を出した俺に皆が訝しげな視線を向けるが、それを気にせず。式神を使って例の家族を城まで案内する。
「お久しぶりです。随分雰囲気が変わりましたね。本体だからですか?」
「上位種に進化したんですよ」
城まで入ってきた人物が気さくに挨拶し、俺も笑顔で答える。
「えっと、主様?この方は?」
四天鬼を代表して亜夢ちゃんが訊いてくる。
「ああ。言ったでしょ。仙台で悪い妖魔に食い殺されてたからダンピュール化させて生き返らせて上げた人」
「始めまして。大島大輔です。此方は妻と息子です」
「は、始めまして…」
「まして」
大輔さんは自然体だが、奥さんとお子さんは青い顔で震えている。まあ、此処って人間には恐ろしい場所だからね。
「ああ!そんな話も聞きましたね。解りました。でも今は待っててください!大事な話の途中です!」
亜夢ちゃんはそれだけ言うと、再び啓生さんに向き直って責め立てる。啓生さんも立場を変えず、申し訳ないが四天鬼を抜けたいと繰り返す。
どんどん亜夢ちゃんの怒りのボルテージが上がっていく。その光景を見て大島さんが目を丸くしたが、すぐに成り行きを見守っていた順一さんに話しかける。
「四天鬼に成れば給金等は出るんですか?」
「特に決まっていないが、果物をネット販売しているから金は有るな。万果の宝樹の果物を好きに取採っていいからそれを妻が販売してる」
その話を訊いた大島さんが俺に向かって笑顔で話しかけてくる。
「藤堂さん。俺からも少しご相談がありまして」
「何ですか?」
亜夢ちゃんと啓生さんも口論を止めて大島さんの話を聴く。
「実はオレは元プロレスラーですが、ダンピュールに成ったので仕事が続けられなく成ったんです」
確かにそうだろう。ダンピュールの身体能力。それも格闘戦特化の能力を持つ大島さんが人間と殴り合えば簡単に殺してしまう。
「そこでどうでしょう?オレを四天鬼に加えてくれませんか?何でも万果の宝樹とかいう木から好きに果物を採れるとか。結構儲かるのでしょう?」
なるほど。確かに事実だろうけど、これは大島さん成りの助け舟だな。でも、これで即交代なら亜夢ちゃんが納得しない。あの厨二病を納得させるには…
「今は四天鬼の席が埋まってるんだよね」
「どうすれば空きますかね?」
お!大島さんも乗ってくれた。良し此処からだ。亜夢ちゃんのソウルを刺激するやり方で行かないと。
「四天鬼の誰かを指名して、俺と他の四天鬼2人以上が見てる前で一騎打ち。勝てればその四天鬼が降格して、空いた席に座れるよ」
言った瞬間訊いてた亜夢ちゃんの目が輝いた。やっぱりこういう展開好きなんだね。
「そうですか。では、その人に挑戦しますよ」
大島さんが指したのは当然啓生さん。
「じゃあ、此処じゃ何だし、場所を移動しようか」
移動する途中で啓生さんに近づいてそっと耳打ちする。
「それなりに戦うフリはして下さいね、じゃないと亜夢ちゃん納得しませんよ」
「ええ。解っています」
ぶっちゃけ話、集めた怨霊やら、妖気やら俺の血やらであれだけ強化した啓生さんに、ダンピュール化させた以外は特に強化しなかった大島さんが勝つのは無理だろう。
だから啓生さんがわざと負けられるルールにしないと。
「ではこれより『天座の決闘』を始める。一対一で戦い片方が「まいった」と言うか、戦闘不能になるまで勝負は続く。大島さんが『叡天鬼』に勝てば四天鬼交代です」
「おお!『天座の決闘』」
立会人の亜夢ちゃんが目をキラキラさせている。良かったこれなら結果に納得してくれそう。
「それじゃあ!始め!!」
「ふんっ!!」
俺の言葉と同時に動いたのは大島さんだった。物凄い音をさせながら床を蹴り、高速で啓生さんに接近して、その移動の勢いそのままに右フックを放つ。
「速い!?」
一方の啓生さんは速さに驚いたものの、即座に後ろに有る小石と自身の位置を入れ替え、背後に回って念動力で攻撃をかける。
「ぐっ!!ふん!」
大島さんは身体強化の異能で念動力を振り払おうとするが、啓生さんも負けていない。即座に『対神威領域』を展開し、大島さんの異能を弱める。
「コレがどうした!!」
大島さんは異能の発動を諦め、即座に元の身体能力だけで、念動力を振り払って、啓生さんに近づく。
「うそぉ!!」
「人間だった時の身体能力の差かな?」
まあ、弁護士とプロレスラーじゃ違うわな。
「くっ!」
啓生さんはもう一度『置換」で後ろに回り込むが、その事で大島さんが『対神威領域』から出る。
「芸がない!!」
振り返りながら勢いのままに空中を殴る大島さん。その拳打によって起こった衝撃波はそのまま転移したばかりの啓生さんに直撃する。
「ぐぅぅ!!」
重い一撃に啓生さんが怯んだスキを大島さんは見逃さない。そのまま高速で距離を詰め、ラッシュを浴びせて畳み掛ける。
「オラオラオラオラ!!!」
「がふぅ!ぐぅ!ぼほぉ!!」
大島さんからすれば軽いジャブかも知れないが、元々結構有名なプロレスラーだった大島さんがダンピュール化した事で底上げされた筋力から放たれるパンチは一発一発が大砲の様な衝撃と打撃音を立てる。
「あぁぁぁ」
あまりに早い連続攻撃に啓生さんは逃げることも出来ずにその場で倒れ込む。
「オラァァァ」
倒れる啓生さんに大島さんが最後に渾身の一撃を浴びせて吹っ飛ばす。
「げふぅぅぅ!!」
壁にぶつかって跳ね返った啓生さんは、うつ伏せに倒れたまま弱々しく片手を上げる。
「ま、まいった」
「「「おおおぉぉぉ!!!」」」
啓生さんの敗北宣言に皆が一斉に声を上げる。大島さんすげぇ〜。確かに啓生さん辞めたがってたから負けるだろうとは思ってたけど、え?アレ手抜いてた?本気でやって負けた様にしか見えなかった。
「人間だった時の身体能力が高いほど、ダンピュール化した時の身体能力の上昇率は大きいのだろう。ダンピュール化した後の追加強化無しでアレだ。
この後忍君の血を与えることを考えると四天鬼最強になるかも知れないな」
順一さんが横でそう解説してくれる。しかしそうか。人間だった頃の身体能力の差か!
「そこまで!勝者は大島大輔。これからお前が新しい四天鬼だ。亜夢ちゃん。何か称号考えて」
「え?私がですか!?」
驚きながらも嬉しそうな亜夢ちゃん。
「他のメンバーの称号も考えたの亜夢ちゃんでしょ」
「確かにそうでした!じゃあ『闘天鬼』で!」
「良し!『闘天鬼』大島大輔。よろしく頼むぞ」
「はっ!必ずやご期待に答えてみせましょう」
厨二的なノリにも合わせてくれる大島さん。案外亜夢ちゃんとも相性良さそう。
こうして四天鬼の入れ替わりが起こった。啓生さんは四天鬼から降格の上『叡天鬼』の称号剥奪と言うことで、戦線を離脱した。コレには亜夢ちゃんも納得した。と言うか目をキラキラさせながら同意してくれた。
後、今後四天鬼の特権として10本生えてる『万果の宝樹』の内4本を1本づつ四天鬼の専用にしてあげることにした。
マンゴーとかマスカットとかパインアップルとかをネット販売すれば大島さんが気にしてた収入の問題は解決だろうしね。
ああ!大島さん強化しないと。後、俺が進化したから他の四天鬼も更に強化出来るんだった。
何気に結構な戦力増強になりそうだ。
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