第10話 問題

 ボクは昔から運動が苦手で、外で遊ぶのも好きじゃ無かったから、よく家の中で本を読んで過ごしていた。お菓子も好きで良く甘いお菓子をおやつに食べたりもしていた。

 そんな生活をしていればどうなるかはご想像の通り。太って色が白いボクは白豚と呼ばれ、小学校の頃からずっといじめられていた。

 中学生に成ってからはどんどんいじめが酷くなり、ついに自殺しようとしたボクを救ってくれたのが『呪怨会』だった。

 組織の活動は、世間一般で見れば酷いことだろう。でも、ボクは気にならなかった。世の中の人間は他人を虐げておいて平気な顔をして日々楽しく過ごしているクズ共や、いじめを見てみぬふりをして、自分たちだけ楽しく過ごすゴミ共が大半だ。そんな奴ら、まとめて地獄に落ちれば良いと思う。

 それに、ボク達の活動のおかげで昔のボクと同じ様に虐げられている人の何人かが復讐の機会を得られるならボク達の活動は誰も認めてくれなくても胸を張って行える物だ。


 そう。ボクは『呪怨会』が大好きだったし、これからも『呪怨会』の皆と楽しくやっていけると信じていた。


「あ、ああぁぁぁぁぁ!!!!」


 死体!死体!死体の山!!アジトであった廃工場の中は何処を見ても死体の山だ。さっきまで楽しく話していた同僚や先輩が皆物言わぬ躯と成っている。


「びょ、病呪様」


 最高幹部である『六呪』の一人の遺体を見つけ、アレが悪夢で無く現実であったと悟る。


「何だよアレ!!何なんだよアレ!!」


 化物みたいな力を持った吸血鬼。皆からの呪術攻撃をものともせず、次々と仲間を惨殺していった。


「う、うぅぅ!」


「な、なぁぁ!!」


 死体の山から何人かが這い出してくる。ボクたち『呪怨会』のメンバーは中堅以上に成ると、全員が『人身御供の呪い』を使える。自身の体に瀕死以上の重傷を負った時に発動し、怪我や異常を予め呪っておいた相手に移すのだ。

 ボク自信が生きているのもその呪いのおかげだ。あの吸血鬼によって傷つけられた分は、昔ボクをいじめた連中の家族の誰かが肩代わりしているだろう。本人は既に呪殺しているからね。


「どうして?」


 死体の山から這い出してくる数名の仲間を見つめながらボクは衝撃を受けて立ち尽くす。此処に居たメンバーの半数以上は『人身御供の呪い』を使えた。それなのに生き返ったのはごく僅かだ。何よりこの中で最も呪術に長けているはずの『病呪』様の遺体が蘇生されない。


「呪いが打ち消されているな」


 死体を見ていた一番年長のメンバーがボソリと呟く。


「どういう事ですか?」


「『病呪』様の死体にも、他のメンバーの死体にも呪いが無くなってる。『人身御供の呪い』は発動してないんじゃなく、打ち消されたんだ」


 呪いを打ち消す!?そんな素振り、あの吸血鬼はしていなかった。一体どうやって?


「呪いを弱める事も出来るみたいだしな」


「え?」


「自分の体を見てみろ。大怪我してるだろ?」


 確かに戦闘が始まる時に自分で痛覚を遮断する呪いを掛けていた。その呪いも弱まっているが、消えてはいない為、ある程度痛みが和らいでいるが、確かに、見てみると腕が変な方向に曲がっている。さっきから腕がズキズキしてたのこれでか!


「あの吸血鬼は周囲の呪いを弱める力が有るんだろう。だが、おそらく呪いを消すまでの力ではない。呪いを消したのはおそらくあの妖刀の方だろうな」


 言われてみると確かに。『病呪』様を始め、蘇生しなかったメンバーは全員妖刀で斬り殺されている。


「ともかく、此処を離れて他のアジトに向かうしか無い」


 ボク達は、生き残ったメンバーで固まって別のアジトに向けて歩き始めた。


ー○●○ー


「うわぁ〜。なんですかこれ!?」


「死体の山だな」


 土倉さんは当然の様に言うが、僕からしたらグロいことこの上ないよ。


「変色してるな。毒か?おそらく妖魔の仕業と思うが…」


「土倉様!前川様!何か居ます」


 死体を確認しようと土倉さんはかがみ込むが、磯辺さんが何かに気づいて、警告の声を上げる。


「おやおや?生き残りが居ますね。帰る前に見つけて良かった。『虫天鬼』も詰めが甘いですね」


 現れたのは可愛らしい少女。でも、何だろう?この娘、見てるとなんだか寒気がしてくる。


「人間じゃねえな」


「ええ。人間などと一緒にされるのは心外です。私は『四天鬼』が一鬼。『幻天鬼』の宮下亜夢。上手く『虫天鬼』からは逃れた様ですが、私は彼女程甘くありませんので」


「ぐぁぁ!!」


「え!?」


 彼女の言葉が終わると同時に、僕の横に居た土倉さんが吹っ飛ぶ。彼女が僕の横に来ているが、全く動きが見えなかった。


「に、逃げろ!前川」


 口から血を流しながら土倉さんがヨロヨロと立ち上がる。


「おや?頑丈ですね」


 少女は爪と牙をむき出しにし、土倉さんに狙いを変える。拙い!!


「はっ!!」


「ん?」


 全力で重力を掛けると、少女は驚いた顔で固まる。


「これは!?重力操作?」


「嘘!?なんで潰れないの?」


 全力で重力掛けてるのに潰れないとか!?上級怪か?


「強い異能ですね。ですが、私には『対神威領域』があります。我らが主の『反神威領域』に比べれば児戯に等しい力ですが、私もある程度異能を減殺させることが出来ます」


 それだけ言って少女は土倉さんに襲いかかる。今度は動きが見える。遅くなっているから確かに訊いてはいるんだろう。


「くっ!!呪縛!!」


 磯辺さん!ナイスサポート!!でも、少女は軽く身震いするだけで、呪符による拘束はあっさり破られる。


「この程度で私を止められますか。愚かですね」


「十分だ!!」


 少女の動きを一瞬止めたのは事実。その一瞬を利用して土倉さんが渾身の力で殴り掛かる。


「ぐっ!!」


 土倉さんの拳は少女の腹部に綺麗に決まるが、少女は一瞬苦悶の表情を浮かべたものの、すぐに怒りの形相となり、土倉さんの腕を掴む。


「ぐぁぁ!!」


 じゅ〜と嫌な音が鳴り、土倉さんの腕が溶け出す。


「人間ごときがよくもこの私を!!しかし、瘴気闘法も能力も使わず、舐めきっていたのは事実です。

 獅子は兎を狩るにも全力を尽くすと言いますし、此処からは私も全力でお相手しましょう」


 少女からのプレッシャーが跳ね上がる。ヤバイ!!今でも苦戦してたのに全然本気じゃ無かったとか!!確実に殺される!!


 僕は背中が冷や汗でびっしょりになる。


「ちょっと!!何やってんの!!あんた!!」


 少女が瘴気を纏った爪で土倉さんを引き裂こうとした瞬間、大きな高い声が聞こえ、別の少女が乱入してくる。


「え?森沢さん?」


 突然乱入してきたもう1人の少女。森沢さんは少女と土倉さんをベリっと引き剥がすと、そのまま少女の肩をガシリと掴んで声を上げる。


「罪もない人間相手に何やってるの!!あんたは!!」


「罪もない?呪怨会は極悪非道ですよ?大体貴女が取りこぼした生き残りを始末していただけです。お礼を言われこそすれ、文句を言われる筋合いはありません」


「この人たちは陰陽師よ!!忍君とも知り合いだしね。大体私は敵を取りこぼしたりしてないよ!!生き返る敵も蘇生しなくなるまで毒に漬け込んで倒したもの」


 その後も森沢さんと会話を続けると、徐々に少女から殺気が消えていく。


「その〜」


 森沢さんとの会話が終わった後、少女は気まずそうな表情で僕達に近づいてくる。


「いきなり襲いかかってごめんなさい。勘違いしてたみたい。てっきり敵だと思って」


 頭を下げ、謝罪してくれる少女。森沢さんは異能で土倉さんの傷を治してくれる。


「で?お前ら何なんだ?」


 傷が治った土倉さんは若干不機嫌そうに尋ねる。


「私達は忍様配下で最強の「忍君の仲間よ。呪怨会を討伐してた」ちょ!!」


 少女、宮下さんの言葉に被せるように、森沢さんが教えてくれる。


「呪怨会を討伐?どういう事だ?」


 森沢さんが事の経緯を説明してくれ、土倉さんや磯辺さんの顔に理解の色が浮かぶ。


「そんな事態に成ってたのかよ」


「随分状況が変わってるんですね」


 陰陽師側は呪怨会について調査はしているけど、全然尻尾を掴めていないのに。


「だが、止めた方が良いぞ。呪怨会を討伐するの」


「?どうして?」


 土倉さんの言葉に森沢さんは首を傾げる。確かに、僕も疑問だ。陰陽師としても呪怨会は敵だし、一定以上の実力が有る違法術者はその場で命を奪う場合が多い。生け捕りにするのは危険が大きすぎるからだ。


「死んでも生き返ったって言っただろう?多分それは『人身御供の呪い』だ」


「『人身御供の呪い』?」


「ああ。古い呪いでな。そこそこ難しいが、中堅どころ以上の腕が有る呪術師なら使える。呪怨会が巫蠱の術を簡易化出来ていたことを考慮に入れると、難易度は下がってるかもな。とにかく、その呪いは自身が受けた瀕死以上の怪我や毒、異常等を全て予め呪った相手に肩代わりさせる。生き返った様に見えるのはそれでだ」


「ええ!!なんですかそれ!!」


 敵を倒したつもりが、罪もない一般人が死ぬってこと!?


「!!!」


 話を聴いた森沢さんと宮下さんの表情も変わる。


「『虫天鬼』!すぐに主様に知らせたほうが」


「その呼び方止めて!!まあ、知らせるのは賛成。今も大滝さんと本田さんは呪怨会討伐を続けてるだろうし」


 深刻な顔で2人は話し始める。というか、ちゅ、虫天鬼!!そう言えば宮下さんは幻天鬼とか名乗ってたっけ?そんな称号ついてるんだ。


 思わず笑ってしまいそうになるがそんな雰囲気ではない。2人は簡単な会話を更に2、3交わすと、その場を後にした。


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