第9話 四天鬼の力

 とある廃工場を前にして、大滝順一は気を引き締める。


「此処のはずだな」


 掌の上に生じさせた青白い鬼火を巨大な業火に変えて廃工場に投げつける。


 ジュゥゥゥ。と言う音と共に廃工場のシャッターや壁が融解し、内部にも鬼火の炎が広がる。


「ぎゃぁぁぁ!!」


「な!何が!!」


「あづぃ!!あづいよぉぉぉ!!!」


 無人のはずの廃工場内部から人の絶叫が聞こえ、ほうほうの体で、何十人もの人間が廃工場から外へ飛び出す。


「しゅ、襲撃!?」


「あ、アイツだ!!」


 彼らは順一の姿を認めると、順一に向かって術を放つ。


「なるほど!確かに呪術だ。『呪怨会』で有ることに疑いは無さそうだな」


 順一が軽く手で払うと、放たれた呪術は全て霧散してしまう。


「な!なんで!?」


「効かないのか!?」


 順一は何処かの中二病患者と違って一般人と変わらない思考をしている。罪もない一般人を殺めることへの忌避感は有るが、相手が人々に迷惑を掛ける『呪怨会』の呪術師なら別だ。


「さっさと終わらせようか!」


 順一は妖刀を抜き、体に瘴気と混ざった妖気を纏わせていく。


「はっ!!」


「「「ひぃぃぃ!!!」」」


 暗い夜空に呪術師達の悲鳴が響き渡った。


ー○●○ー


 俺は式神を介して順一さんが『呪怨会』のアジトを一つ潰す様子を見ていた。


「結構強くなったな!やっぱり正解だった」


 能力の数だけで言えば亜夢ちゃんが四天鬼で一番だけど、多分戦闘能力なら順一さんが一番強い。今も素晴らしい剣術で、流れるように呪術師達を全員斬り殺した。


「血と妖力、あげて正解だったな」


 それは今朝の事だ。分身体が集めた怨霊や悪霊、それに妖気等を本体にどうやって送るか悩んでいたが、何とただ念じれば、電波の様に離れた場所から本体に届くことが判明。

 分身体が仙台や新幹線の車内で集めた莫大な妖力が手元に届いたので、早速皆に配った。先ずはグール達がダンピュールに成れるまでは与え、残りを4等分して四天鬼に与えた。


「素晴らしいです!!これで更に強くなれました!!忍様!!前回ご家族を守った褒美もいただきたいです!!更に血を下さい!!」


 亜夢ちゃん相変わらずだね。もうこの娘の中二病は完治しないんじゃないかと思えてきたよ。


「まあ、血はあげるよ。亜夢ちゃんだけじゃなくて、四天鬼全員に限界ギリギリまで」


「はぁ?全員にですか?」


「何か事情がお有りで?」


 真面目な話と感じたのか、珍しく啓生さんが話に入ってくる。相変わらずメガネがキラリと光る。


「ちょっと『呪怨会』って連中に狙われてるみたいだし、アイツ等自体、蠱毒をばら撒いたりして一般人に犠牲者も出してるからこっちから仕掛けてみようかと思ってさ」


「普段では考えられない過激発言だね。藤堂くんも実家を襲撃されたのは効いたのかな?」


「森沢さんの言う通りだよ。流石に許せない」


 俺が怒りを滲ませて頷くと、それまで黙っていた順一さんが前に出る。


「解りました。忍君は命の恩人。協力しましょう」


「ありがとう!!」


「私も!!主の為に『呪怨会』の愚か者共を血祭りにあげてご覧に入れます!!」


 元気よく物騒なことを言う亜夢ちゃんにちょっと引きつつ森沢さんも頷く。


「まあ、私にとっても敵みたいなものだし」 


「………」 


 しかし皆が賛同する中、啓生さんだけは難しい表情を作る。


「啓生さん?どうしたの?」


「いえ。こちらから仕掛けるのは良いとしても、場所は解っているのですか?」


「ああ。それなら…」


 俺は手元に置いてある鏡に話しかける。


「水母。知ってるんでしょ?」


 鏡に映し出された美少女、水母はコクリと頷く。


「うむ。奴らは何やら隠れ家で呪術の実験を行っておるようでの。この近辺に有る隠れ家で、水の有る所ならだいたい解る」


「そういうことだから。協力してもらえる?」


「ええ。勿論です」


 場所を把握していた事に啓生さんも納得し、四天鬼全員が協力してくれると言うことなので、パワーアップの為に妖気と血を与える。


「ぐぅぅぅ!!これは…」


「ぅぅぅぅ」


「うぐぐぐぅぅぅ!!命に別状無いって解ってても血を限界まで貰った時の苦しさは慣れない」


「アハハハハ!!素敵!!私の体に更に主の血が流れ込んでくる!!」


 どれが誰の反応かはご想像におまかせする。


「はぁはぁ」


「アハハハハ!!」


「………ふぅ〜」


「ぜぇーぜぇーぜぇー」


 どうやら4鬼全員血に耐えて力が増したようである。


「じゃあ、頼めるかな?」


「おまかせを!主様!!」


 亜夢が代表して答え、全員が『呪怨会』のアジトを襲撃するために領域を出ていった。


 そして今、式神を通して俺のもとには4鬼がそれぞれの場所で呪術師を掃討していく様子が映し出されている。


「たしか『六呪』だっけ?亜夢ちゃんが倒した奴と、今仙台に居る娘以外に4人居るはずだが、それらしい強敵は居ないな」


 一箇所を潰し終わった4鬼はそれぞれ次の場所に向かう。


 結局最終的には近隣に有った15箇所のアジトを壊滅させることに成功した。


ー○●○ー


 呪怨会の本部となる建物の地下室で、円卓に4人の人物が集まっている。空席は3席。1席には遠距離通信用の呪術で映し出された糸井唯の立体映像が映っている。


 円卓の中央には、四天鬼によってアジトが次々と壊滅していく様子が映し出されている。


「以上が現状の被害だ。『音呪』が余計な事をしたせいで竜の逆鱗に触れた」


 一人の言葉に残りの3人と立体映像の糸井唯が頷く。


「私は轟木さんに余計な事はしないように伝えたんだけどねぇ〜」


 唯が呆れたような声を出す。


「問題はそこではない。『四天鬼』は『六呪』よりも遥かに強い。そして、その『四天鬼』よりも藤堂忍は強い。そんな藤堂忍に我らは敵対してしまった」


 記録映像の1つを再度確認しながら一人が暗い声を出す。


「この妖刀を持った『四天鬼』に『病呪』は手も足も出なかった」


 順一に斬り殺される男性の映像を見ながら彼はため息を吐く。


 忍は『四天鬼』の危なげない戦闘を見て、敵の中に『六呪』は居ないと判断したが、実は居たのである。『六呪』の一人であった『病呪』は、駐在していたアジトが順一に襲撃されたおり、配下の呪術師達と共に順一に立ち向かったが、簡単に呪術を消し飛ばされ、他の十把一絡げの呪術師達と同様に善戦すること無く斬り殺されてしまったのだ。


 この結果には残りの『六呪』4人と『呪怨会』の会長も衝撃を受けた。もし、本部の場所が特定されて『四天鬼』を引き連れた藤堂忍が攻めて来ようものなら、全員で束になったとしても全く歯が立たずに全滅する。


「とにかく戦力の回復が第1ですよね?空席の補充を優先します?」


「出来るならそうするがな。それが無理なことはお前も知っているだろう?」


 別に『六呪』は6人と決まっている訳ではない。偶々会長と同等の呪術師が6人しか居なかったから最高幹部にしたら『六呪』と呼ばれるように成ったのだ。

 つまり、席が空いたからと言って、そうそう代わりは見つからないのである。


「それに、仮に空席が埋まっても意味ないですよ。『四天鬼』は『六呪』を物の数とも思っていないようですから」


「別の方法を考えねばな」


「……………」


「……………」


「……………」


 暫し、場を沈黙が支配するが、一人の『六呪』が手を上げる。美しい女性で、儚げな印象を与える。


「あの、唯ちゃん。じゃ無かった!『操呪』さんの報告に有った人間を蠱毒に混ぜた『人蠱』の件が有りましたよね?『蛇蠱』『虱蠱』を上回ると」


「まあ、アレは蛇や虱も使われたけど、そうすれば上級怪クラスに成ってたことは確かだよ」


「でしたらそれしか無いのでは?上級怪クラスの蠱毒。便宜上『蛇虱人蠱』と呼びますが、それを大量に生み出して『四天鬼』に対抗するしか無いかと」


「『創呪』の意見は一理あるが、制御できなければ危険だぞ?未だに蠱毒を完全に制御する術は見つかっていない」


 会長の言葉に『創呪』と呼ばれた女性は、先程喋っていた男性を見る。


「『禁呪』さんの呪術で事前に材料全てを支配しておけば制御できるんじゃないですか?」


「やった事が無いから出来るとは言い切れんが、可能性は有る」


「では、それしか無いでしょう?成功すれば複数の『蛇虱人蠱』を用意して、そこに『四天鬼』をおびき寄せて倒す!どうです?」


「『四天鬼』はそれで良いとしても、藤堂忍はどうするのだ?記録映像を見る限り、『蛇虱人蠱』でも、藤堂忍には簡単に倒されたぞ?」


「一対一だったからでしょう?そこは物量で押すしか無いかと」


「まあ、そうなるか」


 会長は一度軽くため息を吐いた後、顔を上げる。


「解った!それでやってみるぞ!!」


 呪怨会を叩くと決めた忍達に対して、呪怨会も対策を取り始めた。




 

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