第8話 幻天鬼VS音呪

「そうか!件のヴァンパイアはそれほど強いか」


「ええ。そしてアレが全力ではありません。本気になればどれほどの力が有るのか想像もつかない」


 糸井唯からの報告を訊き、男は不敵に微笑む。


「轟木さん。妙なことはしないで下さいね」


「心配いらんさ」


 そう言って呪術による通信を切った後、男はニヤリと笑う。


「だが、どんな強者にも弱点は有るものだ。家族とかな」


 男は座っていた椅子から立ち上がると、立掛けてあった日本刀を手に持ち、部屋を出る。


「『音呪』様!お出かけで?」


「ああ!藤堂忍の家族を囚えに行く」


「『操呪』様の報告では余計なことをしないほうが良い相手だと」


「だから本人ではなく家族を人質に取るのだ。アレの協力は我らの研究に必要不可欠であろう?」


「それはそうですが」


「では良いな」


 『音呪』と呼ばれた男は不気味な音を起てて跳躍する。


「藤堂忍。生前の両親と妹は今も家に居るはずだ」


 男は不敵な笑みを浮かべ、忍の家に向かった。


―○●○―


「……さま!」


「ん?」


 誰かが俺を呼ぶ声が聞こえる。今、意識を集中してる分身体じゃ無くて本体の方だ。


「忍様!忍様!」


「あ!亜夢!」


 久々に本体の目を開けると、透明な壁に遮られた向こう側で亜夢が俺に呼びかけている。


「どうしたの?」


「やりました!忍様!!」


「へ?」


 満面の笑みで「やりました!」と報告してくる亜夢。何をやったのか解らない。


「何の話?」


「コレです!!」


「ぎゃぁぁぁ!!」


 亜夢が満面の笑みで差し出してきたモノを見て、俺は悲鳴を上げて飛び上がる。


「え!?何!?」


 亜夢が誇らしげに見せてきているモノ、それは人の生首である。目の焦点はあっておらず、口は半開き。そして、顔色は全く血の気を感じさせない土色である。


「『呪怨会』の幹部。『六呪』の一人、『音呪』轟木とどろき響也きょうやです!忍様のご家族を連れ去ろうと襲ってきたの返り討ちにしました!!」


 にこやかに報告してくる亜夢。うん、ウチの家族を助けてくれたんだ。それはありがたい。とても有難い!!でもね?俺、妖魔だけど感性は一般人なんだ。いきなり生首見せられて「おお!よくやった!!」とか言えないって!!ぶっちゃけ気持ち悪いもん!生首!!


「と、とりあえず首をなんか目のつかないとこに捨てといて」


「は?はぁ?」


 おい!そんな「何で!?」みたいな目で見るな!!ずっと生首眺める趣味なんぞねぇわ!!


 亜夢が指示に従って首を処分してくれたので漸く落ち着いて話が出来る。


「で!詳しく教えて欲しいんだけど。何があったの?」


「ええ。お伝えします!!」


―○●○―


 昨夜、私はいつものように忍様のご家族がお住まいのお宅の近辺で警護に当たっておりました。


「ん?人間?」


 いつものように周囲を警戒していると人間を見つけ、私の警戒心は跳ね上がりました。普通客人が尋ねてくる時間では無かったので。


「何が目的でしょうかね?」


 彼らに見つからないように隠れながら様子を探って目的は何か突き止めようとしましたが、それはすぐに知れました。


「良いか!速やかに藤堂忍の家族を拘束しろ!」


「「「かしこまりました!『音呪』様!!」」」


 アイツラは忍様のご家族を捕まえに来た!忍様のご家族を!!


「ふふふっ!!」


「へ?ぎゃぁぁぁ!!」


 次の瞬間には私はそれまで身を潜めていた建物の上から飛び降り、下に居た不届き者達の一人を地面に押さえつけ、その首に牙を立てていました。


「た、助けっ!!あっ!!あがぁぁぁぁ!!!!」


 初めて口にする人間の生き血は、美味でした。もっとも忍様から頂ける高尚な血には到底及びませんが。


「な!?何が!!」


「きゅ、吸血鬼!?」


 またたく間に血を飲み干し、襲った敵は干からびた躯と成りました。


「何をしている!!そいつは藤堂忍ではない。さっさと殺せ!!」


「「「はっ!!」」」


「くたばれ!!妖魔!!」


「我ら呪怨会に楯突くとは、愚かな妖魔だ!!」


 愚か者共は『音呪』と呼ばれる男の激で冷静さを取り戻し、次々と私の術による攻撃を放ちました。しかし…


「ふふふっ!!」


 私が手を翳し、瘴気を当てると全ての術が消し飛びます。


「なっ!?馬鹿な!!」


「いったい何が!?」


「愚かですね。貴方達のような下賤な者共では、私に傷一つ付けられないと言うことです」


 心持ち速く移動し、私の動きを追えていないもう一人の愚か者の首筋に牙を突き立てます。


「ぎゃあぁぁ!!やめっ!!あがぁぁぁ!!!」


「「「なっ!?」」」


「こ、コイツ!?」


「ふふふっ!」


「うっ!!」


 微笑みかけると彼らは顔を青くして一歩後ろに下がります。


「うろたえるな!!」


 戦意を無くしかけている愚か者共に、『音呪』の男は活を入れて前に出ます。


「中々強いな!何者だ?そこらで暴れている野良妖魔では無いだろう?」


「失礼な人ですね。他人に名前を訊く時はまず自分が名乗るのが礼儀ですよ」


「ふんっ!妖魔に礼を払う必要はないが、まあ良い。『呪怨会』の最高幹部『六呪』の一人、『音呪』の轟木響也だ!さあ、貴様は?」


「ふふふ。忍様の配下『四天鬼』が一鬼!『幻天鬼』宮下亜夢です」


「四天鬼?ほぉ〜なるほど!敵は藤堂忍だけでは無いと言うことだ」


 私の言葉に轟木響也と名乗った男は不敵な笑みを浮かべる。


「では、貴様も被験体としては役に立つかもしれんな」


「被験体!?愚かな!人間風情が四天鬼に敵うとでも?」


「驕り高ぶった傲慢な人外を叩き潰すのは何度味わっても楽しものだ」


「戯言を!!」


 その時、口から出た言葉に反して私はこう思いました。この男との会話、凄く楽しいと!!


―○●○―


「え!?あ、うん。そう」


 ちょっと亜夢ぅぅ!!いきなり本音を暴露しないでぇぇぇ!!


 まあ確かに、さっきから訊いた限り亜夢と波長が合いそうな連中だけどね。


「四天鬼の他の三鬼が冷たくて乗ってくれませんが、アレこそ私がしたかった会話でした」


 うん。そうだろうね。


「じゃあ殺さなくても良かったんじゃないの?」


「いえ。生かして返せば忍様のご家族に被害が出る可能性がありましたので」


 ああ。そこは優先してくれたんだ。


「では、続きをお話します」


「あ、うん」


 え!?まだ続くの?まあそっか。肝心な部分はこれからだもんね。亜夢的に。


―○●○―


「では、行くぞ!!」


 轟木は「キキキッ」と独特な音を起てながら刀を抜き、私に斬りかかりました。


「おっと!」


「くっ!何?」


 私は瘴気闘法を纏った左手を突き出し、人差し指と中指でその刀の平地を挟んでそれを止めました。


「ちっ!運が良い奴め!!」


「運?」


 轟木の言葉の意味が解らず首を傾げると、轟木の後ろで敵達がのたうち回っていました。


「目がぁ!目が見えないぃぃ!!」


「駄目だ!!物に触ってる感覚が無い!!」


「匂いが解らねぇ!!」


 相手の反応に私は先程の轟木の言葉に意味を推察します。


「もしかして、さっきの鞘走りの音を聞けば五感が奪われるのですか?」


「どれか一つな。それが俺の『無明音』の呪いだ」


 ああ!そういうことですか!でも、残念ですね。


「私には効かない様ですね」


「偶々運が良かっただけだろう!おそらく失われたのは嗅覚か味覚だろう?」


「いいえ!訊いてないんです。貴方の呪いが低レベル過ぎるので」


「戯言を!!」


 私の言葉に轟木は怒りで顔を赤くします。


「ならばこれも効かないか?『狂乱の音声』」


 言うと同時に轟木は大きく口を空けて耳障りな声を出す。


「あ゛ぁあ゛ぁあ゛ぁあ゛ぁあ゛ぁあ゛ぁあ゛ぁあ゛ぁ」


「「「「ぎゃぁぁぁ!!」」」」


 聴いた敵の部下たちが悲鳴を上げてのたうち回っていますが、私は轟木に微笑みかけます。


「馬鹿な!?何故!!」


「種明かしをしましょうか?」


「た、種明かし?何か仕掛けが有るのか」


「簡単です。私は瘴気で自身の体を包んでいます。私達は忍様から『瘴気闘法』と言う瘴気と妖気を混ぜて戦闘に利用する技を伝授していただいており、瘴気で作られた膜はとても強固です!この様に」


 私は左手を捻って日本刀を折りました。


「ば、馬鹿な!!妖刀が!!」


「この瘴気の膜を突き破る呪力がなければ私に呪いは掛けれません。しかし…」


「ならば、これはどうだ!!」


 また耳障りな声を出す轟木。その声は衝撃波となりアスファルトを壊しながら私に襲いかかりました。しかし…


「可愛らしい攻撃ですね」


「な、な、何故!!」


 私に迫った衝撃波は近づくと目に見えて威力を損ない、片腕で軽く払えば霧散してしまいました。


「人の話を最後まで聞かないからですよ。私には主より血を頂いたことで得た『対神威領域』が有ります。主の『反神威領域』に比べれば児戯に等しい力ですが、私もある程度は異能を消せると言うことです」


 私はそこまで説明するつ轟木と目を合わせます。


「そして、私は『幻天鬼』幻想を操るもの」


「なっ!!」


 私と目を合わせた轟木の目が虚ろに成り、口から泡を吹いて体勢を崩す。此方の能力が効いた証拠です。


「おっと!」


 崩れ落ちる轟木を支え、その首に牙を突き立て、生き血を啜る。


「あ、あぁぁぁぁぁ!!」


 口から涎と無意味な声を出し、轟木の体を徐々に体温を失い、干からびていきました。


「本当に愚かでしたね」


 干からびた轟木の死体から首を切り取り、未だに悶え苦しむ残りの愚か者達に私は襲いかかりました。


―○●○―


「と、言うのが事の詳細です!」


「いや、首取る必要なくない!!」


 てっきりトドメとして首を刎ねたのかと思いきや、その前に死んでるじゃん!!


「え?倒したことの証明に」


「お前は戦国武将か何かか!!次からは要らないから」


「はぁ?作用ですか」


 どうしてこうなっちゃたんだろうこの娘!


 でも、どうやら『呪怨会』の奴らは俺を使って何か実験をしたいらしいな。


「自分からどうこうしようと思ってなかったけど、狙われてるなら反撃しても良いかな?」


 攻撃は最大の防御って言うしね。今後、『呪怨会』とどう対峙していくか、俺は珍しく考え込んだ。


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