第4話 小旅行
さて、領域を手に入れた事で俺の中に挟界の力が流れ込んできた。先ずは能力の確認をするべきだ。
名前 :藤堂 忍
種族 :ヴァンパイア(デイライトウォーカー)
種族特性:邪気支配・日光耐性・夜目・吸血・吸血衝動・動物支配(蝙蝠と鼠限定)・変異誘発
死霊操作・眷属制御(New)・吸性(New)・吸命(New)・吸力(New)
吸威(New)・吸邪(New)
固有特性:反神威体質 流水耐性 竜化(応竜) 死者の眼(導きの瞳・破壊の魔眼)
反神威領域(New)
状態 :正常
死者の眼【導きの瞳(開眼中)・破壊の魔眼(閉眼中)】
能力 :超速再生(New)
電磁支配
三力支配(引力・斥力・重力の支配)
超回復付与
影支配(New)
極大影空間(New)
分裂変化(蝙蝠と鼠と虫限定)(New)
変化
血液操作
催眠
雷雲支配
妖毒生成(New)
念動(New)
催淫(New)
分身(New)
言霊(New)
備考 :ヴァンパイア族の弱点【日光(耐性あり)・銀・流水(耐性あり)
ニンニク(耐性あり)】 瘴気闘法習得
うん。一言言えること、能力メチャクチャ強化された!!特にびっくりしたのが『分身』だ。これは妖気で外見は自分と寸分違わぬ分身を作れるというもの。分身体は自分の意のままに操ることが出来、分身体の五感が感じている事を本体も感じることが可能だ。取捨選択が出来るため、視覚や聴覚は感じ取っても、痛覚などは感じないようにすることも出来る。
一方で、当然『分身』にも欠点が有る。先ず、1体だけしか作れないこと。作った分身が消滅すれば新たに作れるけど、同時に2体は作れない。後、本体に近い強さの『分身』を作ろうと思えば、莫大な妖気を消耗すること。最後に、どれだけ本体に近づけようとしても、全てのスペックが半分までしか再現されない事だ。とは言っても、領域内で『分身』を作れば、妖気の消費も抑えられるし、作った分身体も、領域を得る前の自分と比べると、妖気、身体能力共に上昇している。
そして今、その分身体を作った訳だ!しかし、眺めてみるが、本当に美形だ。こう言うとナルシストに聞こえるが、生前と全然違うんだから許して欲しい。ダンピュールに成る時に少し顔立ちが整い、ヴァンパイア化する時に一気に顔面偏差値が上がったのだ。
「忍様?いかがされました?」
「あ!啓生さん!」
声を掛けてきたのは本田啓生さん。三十代半ばのイケメンさんで、6体のグールの中の1人だ。今は、順一さん同様俺の血を大量に与えたことでダンピュールに成っている。ダンピュール化した事で、イケメンに更に磨きが掛かった!そのスペックがこれだ。
名前 :本田 啓生
種族 :ダンピュール(デイライトウォーカー)
種族特性:邪気放出・日光耐性 ・夜目・吸血・吸血衝動・動物操作(蝙蝠と鼠限定)
状態 :正常
能力 :再生
念動
備考 :ダンピュール族の弱点【日光(耐性有り)・銀】
そう!何と日光耐性持ちである。森沢さんや順一さんが羨ましがっていた。その能力は『念動』順一さんと違い、遠距離戦タイプだ。妖気の操作も上手いし、邪気もある程度自力で制御できる。後、邪気の制御で言えば、順一さんと森沢さんは『瘴気闘法』を習得した。残りの5人については、領域内に居る間は、俺が制御してあげている。この領域には聡美さんや他にも3人人間の女性が居る。邪気を出しっぱなしでは拙いのだ。
因みに3人居る人間の女性の1人が啓生さんの奥さんだ。そして、啓生さんがダンピュールに進化した理由も奥さんの為である。
ちょっと前から知っていたが、ゾンビやグールは死体が動いている状態の死霊系なので、繁殖能力は無い。一方で、ヴァンパイアやダンピュールは、悪性の妖魔で、体は生命活動をしており、繁殖能力は有る。相手は同族に限定されておらず、人間の女性でも大丈夫だ。
これを知ったグールの人たちはみんなダンピュールに進化したいと言い出したのだ。最も、じゃあ即座に俺の血を与えたかと言えば、それは躊躇する人が多かった。順一さんが進化する時の苦しみ方は半端じゃなかったからね。
それでも、啓生さんは年齢的にもそろそろ子どもが欲しいと奥さんと話していた矢先で切実だったらしいし、俺の血でダンピュール化したいと言ってきた。結果は見事に成功してこの通りだ。他にもう一人、子どもどうこう関係なく、ダンピュール化した変わり種が居るんだけど、残る5人は奥さんや恋人が残ってくれた人も、独り身の人も含めて、「いつかはダンピュールに成りたいが、急がない」と言うので、放った式神に集めさせた怨霊を食べさせて地道に進化してもらう方法を取った。
まあ、森沢さん、順一さん、啓生さん、あの娘と四回連続で成功しているので、他の人達も解っていると思うが、僕の眼の力が有れば、確率をある程度操れるので、そうそう失敗しないのだ。まあ苦しみが有るのは事実なので嫌だったのだろう。
「それが分身体ですか?」
「え?うん!」
一人で今までのことを思い出していたすっかり無言に成っていたのだろう。啓生さんが首を傾げながら話を振ってくる。
「いかがしました?」
「いや!奥さんとはどうかと思って!」
相手の反応をからかおうとの意図も有っての発言だったが、啓生さんは平然と返す。
「夫婦仲も生活も順調ですよ。夫婦揃って、忍様には感謝しております」
「そ、そう」
ちょっとは恥ずかしがるかと思ったけど、余裕の反応!これがイケメンの余裕!!
「所で忍様!」
「ん?」
「お探ししていたのは、頼まれていたものを渡すためでして」
言いながら啓生さんは僕に長方形の硬い紙を渡す。そう、新幹線の乗車券と特急券だ。
「あ!ありがとう!!」
「分身体を行かせるんですか?」
「うん。本体はなるべく領域内に居たほうが良さそうだし、五感を共有できるから本体で出かけても、分身体で出かけても変わらないしね」
分身体で手に終えない相手に遭遇したら厄介だけど、古参の大妖怪にでも遭遇しない限り負けないだろうと水母が太鼓判を押してくれた。
「じゃあ!ちょっと行ってくるよ!!」
「お気をつけて」
本体は城の奥に戻り、分身体は領域の外に出る。
おお!五感を全部リンクさせたら、本当に自分で外に出たのと変わらないな!
山から降りて、目的地である駅に向かう。そこからは新幹線で移動だ。目的地は仙台市。
兄貴の彼女については父さんと母さんには話した。水母が言ってたことも含めてだ。その上で俺が様子を見いくことにしたのだ。父さんと母さんも心配してたしね。
一方で、兄貴には何も伝えていない。もし倒す必要が生じた場合、兄貴に気づかれないように殺って、行方不明扱いにする方が良いだろうし、悪い妖魔では無かった場合は本人が兄貴に伝えるべきだと思ったからだ。
「とにかく、一度会ってみないと始まらないよな!!」
買った駅弁を頬張りながら、新幹線の窓から外を眺める。なんかちょっと旅行気分で楽しいな!
新幹線の中で食べたのは駅弁だけではない。狭い空間に人が大勢居る。しかも入れ替わり立ち替わり乗り降りする。この環境は怨霊が生じやすい。実際、新幹線に入ったときからフヨフヨそこら中に飛んでた。
まあ、悪霊が居ないあたり、きちんと定期的に浄化されているんだろうけど。
せっかくなので吸収させて貰う事にした。分身体の中に溜めておいて、領域に戻った後、皆にあげよう!俺はもう怨霊食ったくらいじゃ力はほぼ変動しないしね。
「ふん、ふふ〜ん」
不自然に成らない程度に各号車に行って怨霊を吸収する。そんな事を繰り返しながら、新幹線の中を移動していると、向かいから女の子が歩いてくる。新幹線の中の通路は狭い。俺は広い場所まで戻って道を譲る。俺は特に急いでないし、女の子は急いでるかもしれないしね。
「………」
「?」
俺の横を通り抜けようとした少女は、くるりと方向を変えて、俺の方を向く。
「えっと?」
「ありがとうございます!お優し方ですね」
花が綻ぶように微笑む少女。先程は意識しなかったが、こうして面と向かって見ると、可憐な美少女だ。
「い、いや、別に…」
少女の微笑みに思わず頬が熱くなる。
「私、糸井唯と言います!お名前を教えて頂けますか?」
「え?ああ!藤堂忍です」
「藤堂忍さん」
俺の名前を繰り返し、少女は再び微笑む。
「御縁が有ればまたお会いしましょうね!」
それだけ言うと、少女はその場を去っていく。何だったんだろう?
「それにしても、かわいい娘だったな!」
水母といい勝負だった。
思わず、惚けてしまったが、俺は自分が何をしていたのかを思い出して、再び新幹線の中を移動し始める。できれば怨霊は全部集めておきたい。
―○●○―
「如何いたしました?糸井様?」
席に戻ってきた年下の上司の楽しそうな様子に呪怨会に所属する男性は首を傾げる。
「いや。更に力を着けたんだと思って!アレは術者には厳しい相手かな?」
唯は忍に近づいた時に、体内の呪力が大きく削がれる感覚に襲われた。しかし、忍の様子に唯を術者と気づいた雰囲気は無かった。つまり、アレは無意識に起こしていること。何らかの特殊な領域を展開しているのだろう。
「は?力を着けた?」
一方男性の方は掴みどころのない上司の独り言に疑問符を浮かべる。
「まあ。正面から戦わなくても方法は色々ありそうだったけど」
「あの?糸井様?何を?」
「何でも無い!」
情けない顔で訊いてくる部下の言葉を唯はバッサリ切り捨てる。
「目的地は仙台市だったけ?」
「はい!京都や東京からは適度に離れており、政令指定都市にもなる大都市です。慣らしが上手くいったのが仙台市だった事は偶然ですが、計画の第一歩としては悪くないかと」
「そうだね!頑張らないとね!!」
唯は愛らしさの中に狂気を孕んだ笑みを浮かべた。
―○●○―
新幹線に揺られること数時間。俺は仙台市に到着したわけだけど、此処からが大変だ。ホテルは事前に啓生さんが予約してくれているので問題ないが、例の兄貴の彼女に会わなくてはいけない。それに、どうやらそれだけで終わりそうに無い。
「おかしいよな?」
仙台市は政令指定都市。人口もそれだけ多いはずだ。そして、人口が多ければその分怨霊の数も多くなる。あれは人の負の感情が固まった物なのだから。でも…
「こんな人が多い場所で、怨霊が一体も居ないなんてありえないぞ!?」
きれいに怨霊が一つも無いのだ。霊園などは陰陽師が定期的に浄化する為に、そんな場所も多いらしいが、町中は別だ。東北支部の陰陽師がありえないほど仕事熱心だと言うのでなければ、なにか別の原因を考えるべきだ。
「ひょっとしたら、兄貴の彼女の件以外にも厄介なことに巻き込まえるかもな」
自分で言って自分でげんなりしてしまう。おそらく、この予想は当たるだろう。
俺は肩を落としつつも、とりあえず今日泊まるホテルにチェックインしようと道を急いだ。
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