第3話 禁断の果実

 亜岳山の領域だが、禁断の魔樹以外にも色々と不思議なものが有ったので、水母に一度見て貰う事にした。自分の領域から出ることを嫌がるかと思ったけど、結構簡単に了承してくれたのだ。


「ふむ!最高位の領域を上級怪や大妖怪が支配すると力の相乗効果によって現には無い特殊な物が生じることが有る。それが領域主の宝物じゃ!大妖怪の場合は最高位の領域を支配すれば必ず1つは生じる。上級怪の場合は十回に一回くらいかの?2つ目の宝物が生じる可能性は大妖怪なら十回に一回、上級怪なら百回に一回くらいであろう。お主の領域に宝物が2つ有るのはその瞳の影響かもしれんの」


 おそらくそうだろう。俺の瞳は四百分の一以上の確率で起こる事象なら望んだ結果を引き寄せられる。


「『万果の宝樹』の変異種も良いが『護身の住処』も良いの!」


 俺の宝物の2つ目が『護身の住処』領域主の全力の倍までの威力では壊せない住居で、形も自在に変えられる。楔をこれの開かずの間で覆えば、先ず留守中に楔を砕かれるなどと言うことは有り得ないらしい。逆にこれを壊せるレベルの敵が侵入してきた場合は、自分が居ようが留守だろうが領域を奪われる事は変えようが無いらしい。


 確かにね。領域内で主の倍の威力の攻撃出すって、素の実力がどれだけ離れているのかって話だ。


「後は大したものでは無いの。『残り香の呪具』じゃろう」


「残り香の呪具?」


「領域を奪い際に楔を砕くと前の主が領域に流しておった妖気が弾き出されるのじゃ。それには領域の力も混じっておって、新しい主が楔を打ち込んで領域を変異させる際に呪具になる。それを『残り香の呪具』というのじゃ!『残り香の呪具』の強さは前の主の強さと領域の力によって決まる。性質は今の主の性質と似か依るの!」


「大した事無いって言うのは?」


「この領域は最高位じゃが、前の主があの猿ではの。そう期待できん」


「なるほど」


 じゃあ価値が有るのは2つだけか!因みに『護身の住処』は大きな大理石で出来た城のように成っている。いかにもヴァンパイアが住んでいそうな作りだ。


「後、問題は『万果の宝樹』が変異しておる事かの。普通の果実自体は問題なかろうが、この『禁断の果実』とやらがどうも解らんの」


 水母と一緒に目の前に有る紫色の林檎を見る。『禁断の果実』等と言うと、旧約聖書の楽園から追放される果実を思い浮かべるが、多分別だろう。と言うか、こんな毒々しい色をしていたらイブは、どれだけ蛇に進められても食べようとは思わなかっただろう。


「お主の付喪神で調べてみてはどうじゃ?」


「いや、調べてみたんだけどさ」


 俺は苦笑しながらスマフォの画面を水母に見せる。


呼称  :禁断の果実


品種  :禁断の果実


種族特性:%$#&%$#&%$#&%$#’&#%$&#%$&#%$’%#$&%#


固有特性:%$#&%$#&呪%$#&%恨$#’&#%怨$&#%殺$&#%$’%#$&%#


状態  :領域主の宝物

     

備考  :$%呪#&%怨##$&%&憎$&$&%#%$&悪#&%#%魔#$#%&%$


「こ、これは…なんとも不気味よな」


「そうなんだよなぁ〜。スマフォも書かれている内容以外は解らないらしいし」


「ともかく今は置いておく他あるまい。それより普通の果実じゃが、妾にも分けてはくれまいか?」


「ああ。もちろん!」


 水母には世話になったしな。それくらいお安い御用だ。


「助かるの。礼に我が領域の魚を送ろう」


 おお!魚くれるのか!有り難いな。そんな風に和やかに会話をしていると、領域内を探索していた透子さんが戻ってくる。


「あ!お話終わった?」


「うん。こっちは終わり。どうだった?」


「すっごく広いねこの領域。端にはたどり着かなかったよ!でも、私達には住みやすい場所だね!」


 透子さんは微笑みながら空を見上げる。


 空に浮かぶ赫い月は今は半月くらいに成っている。あの月、本物の月と違い、時間で満ち欠けが変わる。正午に丁度満月となり、それから徐々に欠けていく。午前零時に新月となり、それから再び繊月が現れ、徐々に満ちていくのだ。


 永遠に夜が続くが、月の満ち欠けで時間が解るのだ。そして当然だが、日光が無いと言うのは、ヴァンパイアやダンピュールにとって理想的な場所だ。


「ふふふ!良かったではないか!透子も此処に住むと良い」


「あ!でも…」


 透子さんは気まずそうに水母を見つめる。


「気にするな!これをもろうて行こう!」


 水母は『残り香の呪具』の一つである大きな鏡を手に取る。


「それを?別に良いけど何で?」


「同じ形の鏡がもう一つあろう?」


「え?ああ!」


 言われて探すと確かに有った。手に取るとその鏡に俺ではなく水母の顔が映る。


「え?これって!」


「そうじゃ!双方に映るものが見える上に声まで送れる。さほど珍しくはないが、遠方の者と話すには便利な呪具じゃ!」


 つまり妖怪版テレビ電話か!確かにお互いの領域にこれが有ればいつでも話せるな。


「では、妾は自分の領域に帰るかの。あまり長く空けて居るわけにもいかぬ。またの!忍!」


「ああ!ありがとう!」


 とりあえず、悪い猿は退治され、領域が手に入り、俺は住処と更に強い力を手に入れた。次は兄貴の件だな。できれば穏便に行けば良いけどな。


―○●○―


「マジですか!!」


「うるさっ!!」


 僕、前川祐介はスマフォに向かって大声を出してしまった。相手はうるさかった様で抗議の声が聞こえる。


「本当ですか!あの猿の経立を倒したって!?」


「ああ。弱かったし。倒したのは俺じゃなくて俺がゾンビからダンピュールにしてあげた人なんだけど」


 藤堂さん。着々と仲間増やしてますね。藤堂さんの言葉に苦笑する僕だが、相手は気づかなかった様で、普通に会話を続ける。


「それで、土倉さん居る?ちょっとお願いが有るんだけど」


「土倉さんですか?」


 ちらりと横目で確認すると、単独犯のはぐれ術師を縛り上げている最中だ。


「ぐぅぅ!!」


「よしっ!!」


 あ!終わった!!


「土倉さん!!」


「あ?何だ前川?つうか、お前何仕事中に電話してんだ!!」


「いや、実は藤堂さんから電話が入ってて、亜岳山の経立倒しちゃったみたいです」


「何!?」


「領域は藤堂さんの物に成ったとか」


「危険度上がってるじゃねえか!?」


 まあ、確かに。下級怪が領域持ってるより上級怪。それも大妖怪に匹敵する戦闘能力を持つ大妖クラスの藤堂さんが持つほうが危険度は上がるよね。でも、藤堂さんの性格からして大丈夫だと思うけど。


「で!何だあいつ!自慢するために掛けてきたのか?」


「いえ、捕まってた女性たちを助けたんで、アフターケアをよろしくって」


「ああ!まあ大事だよな!磯辺!」


「はい!」


「専門の奴に話し通しとけ!!」


「承知しました!!」


 磯辺さんが専門の人たちに電話を掛ける中、僕はもう一つの件も土倉さんに伝える。


「後、訊きたいことも有るみたいで」


「訊きたいこと?」


「禁断の果実について知らないかって」


「禁断の果実?それってアレだろ詳しくなけど聖書の。陰陽師じゃなくてエクソシストに聞けよ!」


 あ!今の返答からして知らないっぽい。でも、それ以上に気になった事が。


「エクソシストって居るんですか!?」


「ああ。陰陽師がしてるみたいな仕事を海外でしてるのがエクソシストだ。まあ、万国に跨って暴れまわる妖魔でも出ない限り、協力することは無いから会わないだろうけどな」


 へぇ〜エクソシストって居るんだ!って!そうじゃなかった!!


「いやいや!違いました!その禁断の果実じゃなくてですね」


 藤堂さんの領域で見つかった果実の話を聴いたまま土倉さんに話す。


「なるほどな。しっかしそんなの知らねぇぞ」


「そうですか」


 こっちにも目ぼしい情報なし!藤堂さんに連絡しとこ!


 この時僕は、もっと警戒するべきだった。少なくとも何人も黒服が居る中でする話ではなかった。


 でも、1つだけ言い訳をさせて欲しい。そこまで重要な物だなんて思わなかったんだ。

 

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