第2章 呪怨会

第1話 新たな仲間

 世の中何が起こるか解らない。交通事故に遭うなんてことも、本人にしてみれば、とんでもない事だが、第三者から見ればよく有ることで済む。自分が知らない人が事故に遭ったニュースなんて、何時ものリビングに座って、テレビで見て、「最近多いな」と思ったり、せいぜい「気の毒だ」と思うくらい。

 でも、事故に遭った後、人外に成って蘇るのは中々有ることじゃないだろう。

 そして、そんな人外が、思いがけず、同類に遭うことも早々有ることじゃない。と、思いたい。


「まだ領域の入り口は見つからないけど、予想外の物を見つけたな」


 亜岳山での調査2日目。1日目は、山の東側を探って領域への出入り口は見つからなかった。今日は西側を探ることにしたが、そこで、俺はゾンビの群れと遭遇する。


「まあ、男は猿の経立が殺したんだろうし、その人達の遺体がゾンビ化してても不思議はないな」


 人数も丁度7人だ。でも、先に陰陽師が来たはずだけどな?死体を遺族の下へ届けなかったのだろうか?


「結界が有るから人里に出てくる心配は無いと思うけど、進化すると拙いし、何とかしないとな」


 陰陽師が張った結界は瘴気をぶつければ、簡単に穴が開く程度の物だった。俺の出入りを邪魔することは出来ないが、コイツ等相手なら十分だったのだろう。


「とりあえず、動かないようにするか!」


 ゾンビは支配できる。能力を使い、すべてのゾンビの動きを止める。


「後は順番に瘴気で溶かすかな」


 人に被害が無いようにと考えるのなら、退治するのが一番だろう。とりあえず端から順番に溶かそう!


「タ、スケ…」


「え?」


 先ず、右端のゾンビから溶かそうとしたのだが、ゾンビのうめき声の中に人語が混ざる。


「タ、ス、ケル…」


「え?助ける?」


「ユル、サ、ナイ。サ、ル」


「許さない。猿って!え?自我が残ってる!?」


 自我が残っているのなら話は別だ。慌ててそのゾンビの体に有る傷口に指先から血を垂らす。


「話を聞かせてくれ!」


「ア、アア?ああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


「うるさ!!」


 ゾンビは耳を劈くような絶叫を上げる。あまりの煩さに、俺は思わず耳を塞ぐ。


 絶叫しながらもゾンビの皮膚は修復されていき、やがて人にと区別がつかない姿になる。


「グールに進化できたみたいなだ」


「ああぁぁぁ。はぁはぁはぁ」


 進化が終わり、その場に腰を落とすグール。荒い息を吐いているが、大分落ち着いたようだ。


「俺の言葉が解る?」


「ええ。大丈夫です。頭も大分スッキリしました。今までは色んな思考が入り混じったように

頭がグチャグチャでしたから」


「聞きたいんだけど、その体、貴方の物?別人の中に入ってるの?」


「その?」


「ん?何?」


 グールは言いにくそうに口を開く。


「そもそも今、自分の身に起きてる事態が飲み込めないのですが?後、貴方は何方で?体が自分の物かとはどういうことでしょうか?」


「あああ!!」


 そうか!そりゃぁそういう疑問が出るよね。最近妖怪とか陰陽師とかとばっかり話してたから、一般人の感覚が抜けてたよ。


 仕方ない。一から1人で説明するのは面倒だ。スマフォに手伝って貰おう。


 ポケットからスマフォを取り出し、協力してグールに一から説明する。途中でステータスも調べさせてもらった。


 結果がこれだ。


名前  :大滝 順一


種族  :グール


種族特性:邪気放出


状態  :正常


能力  :再生 

     加速

     

備考  :死体に悪霊が入ったタイプ。肉体と魂の組み合わせが生前と同じ


 解っていた事だが、そんなに強くない。特記する点も特に無いが、敷いてい上げるなら加速だろうか?自身や他者、物体の速度を倍にする。重ね掛けも可能だが、その場合は、重ねる前の倍の妖気を消耗するらしいので、無制限に倍増とは行かないようだ。


「で、解って貰えましたか?順一さん」


「ああ。信じられないような事だけど、今の状態が状態だからな」


 順一さんは他のゾンビを見て苦笑する。どうやらゾンビだった時の記憶もとぎれとぎれだけど、有るらしい。


「で、今度はこっちの質問です。大体知ってますけど、正確な情報が欲しいんです。何がありました?」


「何があった!?ああ!そうだ!!こんなにのんびりしてる場合じゃない!!聡美を!妻を助けないと!!」


「ちょ!!」


 いきなり走り出そとしないでよ!!


 俺は能力を使って順一さんの動きを封じる。グールは支配できるからね。


「いきなり走ろうとしないでください!!」


「ぐぅ!?こ、これは!!」


「ゾンビやグールは僕が支配できるんです!!いきなり走るのは止めてください!!先ずはお話を聞かせてほしいです!!」


「行かせてくれ!!妻が!!猿の化物に攫われて!!」


「まだ、大丈夫なハズです!!一緒に行けば十分間に合いますから!!」


 俺は慌てる順一さんを引き止める為に、猿の経立について解ってることを説明する。


「じゃ、じゃあ。聡美は、あの猿に…」


 拙い。猿の目的とか教えたら余計に心配し始めた。まあ、そりゃそうか!!


「大丈夫です!俺が助けますから!!」


 本来、あまり安請け合いはしたくないが、今はこう言っておくほうが良いだろう。


「さてと!」


 順一さんとの話で忘れかけていたが、まだゾンビは居る。最初は全部溶かすつもりだたけど、順一さんの例を見せられた以上、溶かすべきか悩む。


「どうしようかな?」


「何がですか?」


「残りのゾンビ達。溶かそうか止めようかと思って」


「僕の様にグールにはできないのかな?彼らもあの猿に殺された犠牲者のはずだし」


「それはちょっと厳しいかと」


「そうなのか?」


 あ!あんまり納得してない。ゾンビについて説明しないとな。


「実は、同じゾンビでも、怨霊が死体に入った物と悪霊が死体に入った物が有るんです。怨霊って言うのは、人間の負の感情の集合体で、悪霊は人間の霊魂が怨霊を吸収した姿です。

 だから、悪霊の入ったゾンビならグール化させるときに俺の力で生前の人格呼び出せますけど、怨霊が入ったタイプはグールになっても自我は戻りません。逆により、人間を襲いやすくなります。後、悪霊が入っていても自分の体に入ってるとは限りませんし」


「なるほど。それは…」


 少し考えていたが、順一さんは何かを思いついた様に、俺のスマフォを見る。


「それで相手の状況解るんでしょ?中身が怨霊か悪霊か確認できないんですか?」


「なるほど。その手がありますね!出来る?」


『調整すれば可能です』


 頼りになるスマフォは出来ると太鼓判を押してくれる。でも、結局、6体全部入っているのは怨霊だった。


「駄目だな!溶かすしか無いか!」


『そうとも限りません!』


「どういう事?」


 スマフォの力強い言葉に僕は首を傾げる。


『どうやら、この結界の中に6体悪霊が居ます。状況から見て彼らの魂魄かもしれません。確認は必要ですが、もしそうなら、体に戻してやれば、グールにできます』


「そんな手が!!」


 ちょっと驚くが、それなら助けるのは吝かじゃない!僕と順一さんはその後、山中を探して、悪霊を捕まえた。運の良いことに、6体全部が、ゾンビ達の生前の魂魄だった。


「こんな偶然有る!?」


『おそらく結界のせいで内部に怨霊が溜まっていたせいで、魂魄が消滅する前に悪霊化しやすく、更に、結界で悪霊が外に出られないし、悪霊を喰う妖魔も入ってこれなかったからでしょう』


 なるほど!そういう事も有るのか!


「良し!先に進むか!!」


 順一さん以外のゾンビ6体も無事にグール化させることに成功し、彼らと共に山中を駆ける。


「あの!お願いがあります」


「なんですか?」


「あの猿を、僕に倒させてくれませんか?」


「順一さんに?」


 驚いて訊き返すが、順一さんの瞳には決意の火が灯っている。


「殺されて、妻を攫われた。自分自身の仇討ちになりますが、やり返したいと思うのがおかしいでしょうか?」


 なるほど。そう言えば、そうなるよね。俺は、止めに来ただけだけど、順一さんは件の猿に恨みが有るのだ。他の人達も何か言いたげだったが、順一さんの決意の籠もった目を見て、口をつぐむ。


「そういう事なら」


 俺は足を止めて順一さんを見る。


「俺は構いませんけど、勝算あります?」


「大学では剣道の大会で全国優勝したんです。山の中で太い木の棒でも拾えればそれで…」


「剣道!?」


 驚いた!まさかこんなにタイミングが良いとは、作為すら感じるよ。


 影の中から水母に渡された妖刀を取り出す。竜化した俺の鱗や牙を使って作ったソレは、峰の部分は竜燐に覆われ、刃は美しい刃紋を描いている。


「それは?」


「俺が竜に成った時の牙や鱗から作った妖刀です。剣道をしていたのなら、使えますか?」


「……!」


 妖刀を手に取った順一さんは、刀身をじっくりと眺め、ゆっくりと頷く。


「使えます!ぜひ!使わせてください!!」


「良かった!じゃあ、もう1つ」


「何でしょう?」


「件の猿の経立ですが、この山を領域にしていて、領域の中では自分は強くなりますし、他人を弱くできます。いくら剣道が強くても、グールのままで勝つのは難しいと思います」


「どうすれば良いのです?」


 覚悟を決めた落ち着いた態度で訊いてくる順一さん。この様子だと訊くまでも無いかな?


「俺の血で更にダンピュールに進化できます。大量に血を入れれば、新しい能力も手に入るかも知れません。でも、貴方より圧倒的に妖気が濃い俺の血は大量に取れば劇物になります。

 ひょっとしたら、進化できずに死ぬかも知れない。でも、進化すれば勝率は跳ね上がります。どうしますか?」


 指先から血を垂らしながら、順一さんの眼の前に突き出す。


「……」


 暫く眺めていた順一さんは決心したように頷く。


「もっと血をください。あの猿に勝つために必要なら」


「解りました!」


 爪を注射器の様な形に変化させ、順一さんに大量の血を注入していく。


「う!くぅぅ!!ぐあぁぁぁぁぁ!!!」


 俺の血に拒絶反応が起きたのか?苦しみながらのたうち回る。グールの人たちもこれには青い顔をして、不安げな表情だ。


「ぐぅ!くぅぅぅ!!」


 暫く暴れまわり、他の人に押さえてもらっていた順一さんだが、やがて粗く息をしながら起き上がる。


「はぁはぁはぁ!!ど、どうですか?」


「確認します」


 スマフォで確認した順一さんの強化後のスペックがこれだ。


 名前  :大滝 順一


種族  :ダンピュール


種族特性:邪気放出・夜目・吸血・吸血衝動・動物操作(蝙蝠と鼠限定)


状態  :正常


能力  :再生 

     加速

     鬼火(New)

     

備考  :ダンピュール族の弱点【日光・銀】


 おお!ちゃんとダンピュールに成れてるし、能力も増えてる。


「凄い!!力が漲って来るみたいだ!!」


 順一さんは手を握ったり開いたりしながら、呟く。


「じゃあ、領域の中に入ったら、俺はまっすぐに領域の楔を壊しに向かいます。順一さんは猿の経立の相手をしてください。皆さんは順一さんがもし不利になったら援護して下さい」


「解った!!」


「「「「「「了解です!!!」」」」」」


 こうして俺は、新たに得た、心強い仲間達と共に、経立退治に乗り出した。


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