第30話 忍 対 守護
どうしてこうなったんだろうか?俺、藤堂忍はいかにも実力者ですよ。と言わんばかりの態度で現れた2人の陰陽師と対峙している。
あれ?おかしいよね?桜とその友達を家に送って、水母の領域に帰り、夕飯を食べて、新しく考案した新技の練習をしていた。
新技は威力がとんでもないし、瘴気闘法との相性も良い。その上妖気の消費量が少ないという完璧な技だった。
完成した時、嬉しさのあまり実践で試そうと、残りの蠱毒3匹を探しに外に出た。だが、これが間違いだった。
陰陽師の集団が苦戦してるのを見つけ、しかも戦ってるのが蛇の性質も持った蠱毒だったので、加勢に入ったのだが、何でこんな事になるんだろう?
「焔龍撃!!」
再び炎の竜を撃ち出してくる赤髪の美少女。それ効かないよ。ただ、今回の陰陽師はヤバそうだし、保険は掛けておこう。
「技名とか叫ぶべきか?いや、厨二が加速するだけだな」
俺は体から無数の蝙蝠を出す。分裂変化だ。少し身長は縮むが、蝙蝠達が炎の竜にぶつかると、炎は霧散していく。
「あれ?さっきと一緒!?何で効かないんだろう?」
「火宮。どうやらそのヴァンパイア、反神威体質だ!術式や異能は一切効かんだろう」
「うえぇぇ!!ヴァンパイアで反神威体質!!ありえないでしょ!!何そのチート!!でも、通りで!雫ちゃんが負けるわけだ!!」
美少女は腰に下げている刀を抜く。
「直接切るしか無いね」
美少女の抜刀に合わせて、男性の方も何処から取り出したのか身の丈程もありそうな大太刀を構える。
美少女の刀は炎を纏い、男性の大太刀は何やら白っぽいオーラの様な物を纏っている。
いや、何でそんな武器!!普通の刀じゃ駄目なの!!
「はっ!!」
「え!?」
美少女は俺に接近し、その刀で俺の右腕を切り落とす。接近は見えてたし、動きもそこまで速くなかった。避けることが出来るはずだったが、体が動かなかった。何かの能力かな?でも、俺には異能が効かないはずだし。
俺は慌てて距離を取るが、何故か、いつの間にか今度は男性の方が近くに居る。いや、確かに近づいて来てた。見えていた。でも、動けなかったのだ。
「動きは速いが、動き方が素人だな。それでは俺達の体術に対抗できない」
男性がボソリと呟くように言うと、大太刀で、俺の体を袈裟懸けに両断し、
後方から迫ってきていた美少女が刀で俺の首を刎ねようとする。
「ヴァンパイアならば、俺の霊刀で切らねば再生するだろう」
「ああ!!そうだね!!」
男性の言葉に頷いた美少女は俺の首に中程まで食い込ませた刀の軌道を変え、そのまま下に切り下ろし、心臓を焼き切る。
「最後だ。成仏せよ!!」
男性が大太刀で半ばまで切れていた俺の首を刎ねる。
「終わったな」
俺の首がポトリと地面に落ちる。
「上級怪に守護2人。過剰だったね」
「反神威体質の在る特殊固体だ。警戒するに越したことはない」
男性は俺の首に向かって一度手を合わせる。
「さて、残るは…」
「ひっ!」
「このグールも滅っさないとね!!」
男性が森沢さんの方に視線を送り、美少女が刀を構えた。
ー○●○ー
「嘘でしょ!!あの藤堂さんをあんなにあっさりと!!」
「アレが守護だ!だが…」
土倉さんは顔を歪める。そうだよね。藤堂さんは今まで僕達を助けてくれていたし、それを一方的に殺しちゃうなんて。
「話も聞かずに一方的にだなんて」
「相手はヴァンパイアです。当然ですよ」
水月さんが、優しげな声で諭すように言うけど、僕の中のモヤモヤは収まらない。
「やっぱり一言言わないと!」
僕が立ち上がろうとした時、水月さんは眉を潜めて僕の肩に手を置く。
「駄目です!」
「幾ら陰陽師の常識だって言っても、良い妖怪と悪い妖怪の区別くらい!!」
「今は危険です!!」
「え!?」
予想外の水月さんの言葉に、僕が驚くと同時にそれは起こった!
「なっ!!」
「これは!!!」
最初に藤堂さんが体から出した無数の蝙蝠。それらから一斉に藤堂さんが撃ち出してたのと同じ赤い閃光が飛び出て守護の2人に襲いかかる。
「馬鹿な!ありえん!!」
「どうして!?本体倒したのに!!」
2人は防御用の術式を使うが、それは簡単に貫通されてしまう。
「ちっ!!」
「なんて威力!!」
しかし、流石は守護。体捌きだけで、避ける。しかし数が多すぎる。
「くそっ!!」
とうとう避けきれなくなった男性、確か仲邑さんだっけ?仲邑さんが大太刀で受け止めるが、大太刀は砕かれ、赤い閃光は仲邑さんの右の二の腕を粉砕する。
「ぐぁぁぁ!!」
「な、仲邑さん!!あぁぁぁ!!」
驚く美少女。確か火宮さん。彼女の左足にも閃光が当たり、その足を吹き飛ばす。
「なっ!!嘘だろ!!守護が!!」
驚く土倉さん。一方僕は別の事に気づく。いつの間にか藤堂さんの死体がきれいに無くなっている。
「蝙蝠が最初よりずっと多い?」
「何?」
僕の発言に土倉さんは驚きの声を上げる。
「確かに、言われてみればですね。まさか…」
水月さんが何か言おうとした時、それは起こった。
一部の蝙蝠が空中で集まり、人の形を作る。やがてそこには背中から1対の蝙蝠の翼を生やした藤堂さんが現れる。
「あぁ〜!死ぬかと思ったぁ〜!!!」
大きく安堵の息を吐く藤堂さん。ちょっと!格好良く復活しといて台無しですよ!!
ー○●○ー
やりすぎただろうか?復活した俺の目の前では左足を失った美少女が炎で傷口を焼いて塞ぎ、こちらを睨んでいる。一方男性の方は、また何処から取り出したのか?鉄の義手の用な物を付け、今度は大剣を構えている。
「仲邑さん!!」
「火宮!なんとか動いて下がれ!!コイツは俺が片付ける!!」
「すいません!気をつけて下さい!!唯の上級怪ではありません!」
「おう!もちろんだ!!」
俺に向かって大剣を構える男性。やりすぎただろうか?でも、この相手は手加減してたらこっちが殺られる。
さっきのだって多分保険を掛けてなければ死んでた。
「悪いけど、今回は命の危険を感じた。手加減してやれないぞ」
目立つだろうか?いや、知ったことか!!陰陽師が後でどうにかするだろう。
俺は竜化を使う。
「なっ!!まさか!!」
俺の人型の体が変化していき、巨大な竜の姿に成っていくのが本体からよく見える。
え?竜化してる俺の体は本体じゃ無いのかって?違うよ!本体は最初に出した蝙蝠の中の1匹だ。
分裂変化では、本体を人型にしておかないといけないなんて言うルールも、本体が一番でかくなくちゃいけないなんてルールも無い。俺の魂が宿ってるのが本体で後は体の一部だ。
「ば、馬鹿な!!応竜だと!!」
「りゅ、竜化。それも応竜の」
陰陽師2人は絶望的な表情になる。
「応竜って?」
「竜の上位種だ。大妖怪だよ。若い大妖怪でも、一体で守護2〜6人分の強さが在る。応竜となると、6人要るな」
「それって…」
「たった2人。それも負傷した状態では先ず勝てないな」
前川君と土倉さんの会話は助かるね。そうなんだ!この人達それくらいの強さなんだ。
「隠れている者達!!火宮を連れて逃げろ!!」
悲壮な表情をした男性が、竜化した俺に向かって突っ込むが、まるで勝負にならない。流石の動きで、接近し、大剣で斬りつけるが、応竜の鱗には通じない。
「ガウゥ!」
「ぐはぁぁ!!」
適当に尾を振ると、ぶつかった男性は吹き飛ばされ、盾にした大剣は折れる。
「ガァァ!!」
次の武器をまた出されると面倒なので、起き上がる前に上から尾で叩きつける。
「ぐあぁぁぁぁ!!!」
男性は悲鳴を上げる。尾をどけても、起き上がろうとしない。いや、起き上がれないのだろう。義手も砕け、ぐったりとして倒れ込んでいる。
「そ、そんな!!守護が!こんな、こんな事って!!」
美少女の方を運ぼうと出てきていたモブ陰陽師達が青い顔で震えてる。
「よし!」
俺は竜から人型に戻すと、男性に近寄る。
「これならいけるかな?」
催眠で眠らせると、意識を失う。やっぱり抵抗できなかった。するだけの体力が残ってなかった様だ。
「後は…」
蝙蝠で砕けた腕と肉片を集め、義手の残骸を外して、傷口に繋げる。
「これで良いかな?」
俺の能力である「超回復付与」は回復力を付与するだけなので、腕を生やしてやる事は出来ない。でも、切られた腕を繋げることは可能だ。
「神経も上手く繋がると良いけど」
次に美少女の吹き飛んだ左足を持ち、肉片を集めて、彼女に近づく。
「「「ひっ!!」」」
「くっ!!」
彼女の近くに集まっていたモブ陰陽師は悲鳴を上げて腰を抜かし、彼女は刀を構えて、こちらを睨む。
「治してやるよ!」
「何を!!」
刀を振り上げる美少女だが、俺は新技で刀を砕く。
「なっ!!」
「ほれ!足出せ!!」
着物を捲って、左の太ももの切断面を露出させる。これは医療行為であって決してやましい気持ちはないぞ。和服でも下着履いてること確認できたけど、不可抗力だからな!!
「離しっ!!」
暴れようとする美少女の手を抑え、集めた肉片と足を切断面に繋げて、「超回復付与」を行う。
「なっ!!」
「どうだ?神経も繋がってるか?」
「………」
キョトンとした顔をした美少女はゆっくりと左の膝を曲げ、コクリと頷く。
「それは良かった」
美少女治療を終えたと判断し、固まっている森沢さんの側に向かう。
「行くよ!」
「え?私!!」
「だから仲間に成ったんだって」
「ああ。ごめん!何か色々起こって頭が混乱してるから」
森沢さんは大きく深呼吸する。
「それで、何処に行くの?」
「後蠱毒が2体残ってる。それを探す」
「蠱毒なら」
俺達の会話を、陰陽師の美少女が遮る。
「蠱毒なら私と仲邑さんが此処に来る前に1体づつ滅したけど」
「へ〜流石は守護!」
他の陰陽師は何だかんだで一体も倒せてないのにな。
「俺が5体。守護が2体だから丁度7体だな。予定通りならもう居ないわけだ。なら帰るか」
「ちょっ、待ってよ!!」
歩き出した俺に、森沢さんが慌ててついてくる。こうして、蠱毒騒動は表面上終わった。
ー○●○ー
「いかがでしたか?糸井様」
「凄い!!まさかヴァンパイアだなんてね。それも竜化まで使う」
「接触はお止め下さい」
頬を紅潮させる少女に男性は諦め混じりの声で言う。
「そうだね。守護が2人がかりで勝てなかった相手なんて絶対勝てないもん。もうちょっと様子を見ようかな」
「え?よろしいので?」
驚く男性に、少女は愛らしい笑みを見せる。
「だって今のままじゃ捕まえられないもん。でも、捕まえるだけが協力してもらう手段じゃないけどね」
少女は軽く息を吐いて立ち上がる。
「とりあえず一旦戻ろっか!巫蠱の新術式の実験は成功だったし、予想外の成果も在ったしね」
「はっ!承知しました」
男性は安堵の表情で同意した。
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