第29話 転生
黒服達の男たちが飛ばした呪符が私の体を縛り付けるが、私が体を強引に動かすと簡単に飛び散る。
躰が重くなり、水や土の弾丸。炎や鉄の雨が私の躰を貫くが、生まれ変わった私の躰は即座に傷が塞がる。
「 もういい。解った!先に貴方達から始末してあげる」
今までと同じだ。皆私を気持ち悪がって蔑んだ目で見て、傷つける。ブス。デブ。豚女。聞き飽きた!!
世の中の人間は皆敵だ!!私を苦しめに来る!!でも、もう私はやられるばかりじゃ無い。言われるばかりじゃない!反撃できる!強く生まれ変わった!!
「うぎゃぁぁぁ!!!」
「鈴木!!がはぁ!!」
尾の1本で、私を傷つける人の1人を串刺しにし、名前を叫んだ、そいつの友達と思えるもう1人も同じ尾で串刺しにする。くっついて死ねたこの2人はきっと来世でも仲良く成れるだろう。
「水虎刃!!」
「ぎゃぁぁぁ!!」
またあの女の水か!あの女は目障りだ。美しい顔に均整の取れた体。街ですれ違えば、脳が性欲に支配された馬鹿な男が全員振り向く様な美人だ。
世の中を謳歌しているタイプの人間。私を苦しめ、蔑んでいる人種だ。許せない!!許せない!!しかも、あの女の攻撃は痛い!私の殻を切り裂き、躰を切断できる力が有る。
美しくて力も有る。本当に忌々しい。
「殺してやる!殺してやる!!」
切断された尾はすぐに再生し、全ての尾であの女を串刺しにしようとする。
「くっ!!」
水の膜の様な物に阻まれるが、それで手を止める事はしない。力で押しつぶしてやる。
「ああああ!!!」
「こ、これは!!!」
水の膜が圧力で変形する。私の尾に耐えきれなくなってきている。後1歩で、あの忌々しい女を殺せる。美しい躰を醜い肉片に変えられる!!
「ヤバい!全員攻撃防御を止めて攻撃に集中!!蠱毒の尾を砕け!!」
煩い人間が吠え、人間達が一斉に私に向けて鬱陶しいちょっかいを掛け始める。殆どの物は気分は悪いが効果はない。だが
その中に幾つかあの女同様痛い物が混じっている。
そう言えば人間だった頃の近所の小学生も一緒だった。私を見るとキモ豚子と呼び、私に泥を投げつける。無視するとその中に石が混ざり始め痛かった。
「煩い!煩い!煩い!そんな蔑んだ目で私を見るな!!!」
肩甲骨から伸びる蛇の頭を使い、周囲を見回す。自身の頭と2つの蛇の頭。3つの頭で周囲をぐるりと見回す。
囲まれている。つまり何処に毒を飛ばしても私を苦しめる者達を懲らしめられる。
2つの蛇の頭に毒の濁流を吐かせ、左右を百八十度づつ、ぐるりと円を描くように動かす。
「ぎゃぁぁぁ!!」
「しまっ!!ひぎゃぁぁ!!」
「防げ!!」
「無理です!そんな急に切り替えは!!」
「ああ!!助けて!!!」
「ぎゃぁぁぁ!!俺の体が溶けてる!!」
「足が!足が!!」
私の毒で体を溶かされながら、馬鹿どもが馬鹿な声を上げてのたうち回る。こうして見るとやはり人間は猿と同じだ。
「アハハ!アハハハハ!!」
のたうち回る連中を見てると不思議と笑いがこみ上げてくる。
「死んじゃえ!死んじゃえ!皆死んじゃえぇぇぇ!!!」
更に毒液を撒き散らし、猿どもを溶かしていく。
「私を、私をそんな目で見るな!!!」
ー○●○ー
「ありえないでしょ!あの化物!!」
土倉さんが作った岩の壁に隠れて僕は悲鳴を上げる。
「本当にバケモンだな。でも、上級怪なら当然の強さだ。諦めろ」
「チートすぎでしょ!!」
藤堂さんも大概チートだったけど、アレとはまた別のヤバさがあるよ。そんな事を考えていると、背後から声がかかる。
「何か困ってるみたいですね」
「へ!?藤堂さん!!」
「お前!!何で此処に!!」
「貴方は先日の!!」
一緒に隠れていた土倉さんが驚き、水月さんが藤堂さんを睨みつける。
「アレが例の人が混じった蠱毒?」
一方藤堂さんは水月さんの視線を無視して蠱毒を眺める。
「ああ。上級怪だ。バケモンだよ」
「そうか。試してみるか」
「え?」
ボソッと呟いた藤堂さんは、岩壁から出ると、蠱毒に向かって手を翳す。
「実践での初使用が上級怪相手ってちょっとアレだけど、まあ、またとない機会だしな」
藤堂さんが自分の親指の爪で中指を傷つけ、僅かな血が垂れる。と、同時にそれは起こった。
「はっ!!?」
「え?」
「こ、これは!!」
僕たちに見えたのは、一瞬の赤い軌道。そして、猛威を振るっていた蠱毒の胴体、蛇の部分が砕け散る様。
「ぎゃぁぁぁぁ!!!」
耳障りな悲鳴を上げながら蠱毒の上半身は地面に落下する。
「何?アレ?」
ズドンと大きな音がして蠱毒の下半身が力を失った様に倒れる。
「なんつぅ威力だよ!!」
土倉さんは顔を青くして呟く。
「今の一撃。あまり妖気を使っていませんでしたね。明らかにおかしいです」
藤堂さんはゆっくりと蠱毒の上半身に近づいていく。一方、まだ生きがある蠱毒の上半身は、匍匐前進をするように腕だけで這って逃れようとする。
そう言えば…
「何で再生してないんでしょう?さっきまで傷はすぐ治ってたのに?ダメージが大きすぎるから?」
「いえ、蠱毒の傷口が溶けているのが見えます。恐らくあのヴァンパイアの能力に依るものでしょう」
藤堂さんは蠱毒の上半身へ静かに近づいていく。
「言い残すことは?」
「あ!?藤堂くん!!貴方、藤堂くんよね!!隣のクラスの!」
「え!?」
蠱毒の言葉に藤堂さんは驚きの声を上げる。知り合いなの?
「何で俺だって解るんだ!?面影殆ど無いだろ!!」
「ふ、ふふ。確かに外見は凄く格好良くなったけど、そんな風に変に格好を付けてしゃべるのは藤堂くんくらいだもの。ゲホッ!「言い残すことは?」とか、キメ顔で言う痛い人早々居ないわよ」
「げふぅ!!!」
あ!何か圧倒的に優勢だった藤堂さんが、言葉でダメージ受けた。
藤堂さんは苦笑いしながら、なんとか空気を戻そうとする。
「とにかく、アンタが誰かは解らない。隣のクラスって言ってたけど、覚えがない。でも、これだけ人を殺したんだ。罪は償わないといけない」
「罪?ふざけないでよ!!私は復讐しただけよ!!復讐されるような事したアイツ等が悪いんじゃない!!後は高山君だけなの!!それを邪魔する方が悪いんじゃない!!そうよ!そうよ!!」
「何が在ったかは知らない。でも、関係ない人を殺した時点で被害者面は出来ないよ」
「巫山戯ないで!!」
蠱毒は2頭の蛇の頭を持ち上げ、藤堂さんに向かって毒液を吐き出す。
「危ない!!」
危険を知らせようと僕は声を上げるが、間に合わず、藤堂さんは毒液に飲み込まれる。
「溶けちゃえ!!溶けちゃけえぇぇぇぇ!!!」
「藤堂さ…え?」
毒液の濁流から赤い線が飛び出し、蠱毒の両肩と蛇の頭を砕く。
「ぎゃぁぁぁぁ!!!」
「凄い攻撃なんだろうけど、俺には訊かねぇよ」
毒液の濁流が収まると、そこには無傷の藤堂さんが平然とした様子で立っている。やっぱりこの人が一番チートだ。
「あ、ああぁぁぁ」
「名前は?」
「へ?」
「同じ学校の生徒だったんだろ?倒す前に名前だけは聴いておく」
「森沢。
「森沢!?あのイジメられてた?外見変わりすぎだろ!?」
驚いた様子の藤堂さんだが、すぐに表情を引き締める。
「まあ、名前を聴いて大体分かったけど、俺の考えは変わらない。アンタに被害者面をする資格はないよ」
「ま、待って!やめ」
藤堂さんの鋭い爪が蠱毒の胸を貫き、心臓をえぐり出す。
「あ、がぁぁぁ!!」
あまりの痛みに絶叫しながら蠱毒から力が抜けていく。死んだのだろう。
「これも竜蛇の心臓だな」
「え?藤堂さん?うわぁ!!」
えぐり出した心臓を暫し眺めた藤堂さんは電流で炙ると、食べ始める。
「な、何を!?」
「力を増すためだろう。聞いたことがあるぜ」
「ええ。唯でさえこの強さ。更に力を得ると厄介ですね」
水月さんも深刻そうな顔で教えてくれる。
「さてと!」
スマフォで自撮りした画面を確認した藤堂さんは蠱毒の死体に近づく。
「仲間を増やすつもり無かったけど、やってみるか!!」
「藤堂さん?何を?」
藤堂さんは既に傷が塞がっていた自分の中指を再び親指の爪で傷つけると、その血を蠱毒の死体の傷口に垂らし始める。
「う!うぁぁぁ!!」
「ええ!!死んでたんじゃ無いの!?」
「これは!!」
「ええ。ヴァンパイアが同族を増やすときの物です」
驚く僕の横で土倉さんと水月さんの表情は険しい。
「おい!ヴァンパイア!!テメェどういうつもりだ!!」
土倉さん!!あのチートっぷり見せられて、その態度で接することが出来るのは凄いですね。
「コイツはイジメられてたんだ。その復讐にこんな事をした。許されることじゃない。けど、1度死んだなら」
藤堂さんの言葉と同時に、蠱毒の死体に変化が起きる。
「ええ!!」
手が再生し、半身を覆っていた虱が無くなり、人と変わらない下半身が生えてくる。
「ぅ、ううぅぅ。あれ?私は?」
現状を理解できず、当たりをキョロキョロ見回す女性。全裸だから目のやり場に困る。土倉さんは少し赤面しているが、水月さんは険しい顔だ。
「グールですか?」
「ああ。魂が残っているな」
「え?藤堂君?どうして?」
藤堂さんは女性に上着を掛けてあげながら話しかける。
「さっきも言ったけど、人を大量に殺したのは事実。どんな事情が在っても罪は償わないといけない。だから1回殺した。でも、可愛そうな事情が在ったのも事実。だからグールとして生き返らせてあげた。
これから人生をやり直せるように。新しい道に進めるように」
ああ。藤堂さんそれで!!
「私みたいなブス。生き返っても辛いだけよ。死なせてくれれば良かったのに」
「森沢さ?言うほどか?」
呟きながら藤堂さんはスマフォで森沢さんの写真を取る。
「ほら!お前のステータスだよ。ついでに今の外見も確認してみろ」
言いながら藤堂さんは女性にスマフォを渡す。
「え?これ、私?」
「言っとくけどグールは外見補正かからないからな。人間だった頃と変わらない外見だ。虫に栄養持っていかれてるから随分痩せたみたいだけどな」
確かにちょっとぺちゃ鼻ではあるけど、生きる価値が無いと卑下するほどの外見じゃないよね。普通にその辺歩いてそうなくらいだし。
「ともかく。アンタは俺の眷属だ。これからは仲間だ一緒に来いよ」
手を差し伸べる藤堂さん。
女性は、感極まった様に涙を流しながらその手を取る。
「誰かに優しくされたの初めて」
「それで、済んだと思いますか?」
「ちょ!!」
水月さん!!良い感じに終わりそうだったのに、水ささないで!!
「この娘は一度死んで罪を償ってるよ」
「巫山戯ないでください。死んだからと言って殺された人は生き返りません」
「確かにそうだけど、日本の刑罰でも死刑囚の罪は家族にまで連座しないだろ?一度死ぬことで罪は償われているよ」
お互い睨みある藤堂さんと水月さん。一方土倉さんは表情は険しいが何も言わない。
「それに、それはグールでしょう?人を喰いますよ?」
「俺がそんな事させないよ」
「ヴァンパイアの言うことが信用できるとでも!!」
水月さんが水の鞭を振り上げようとした瞬間、横から炎の竜が藤堂さんと女性に襲いかかる。
「ん?」
しかし、藤堂さんは避けもせず、軽く手で払うだけで、炎が霧散する。
「何だ?」
首を傾げる藤堂さん。一方で、土倉さんは苦虫を噛み潰したような顔をする。
「タイミング悪すぎだろアイツ等!!」
「え?」
土倉さんが見る方向に視線をやると2人の人物が歩いてくる。大柄な男性と赤い髪の女性だ。
「あれ〜?蠱毒と戦闘中って言うから急いできたのに?何でヴァンパイアとグールが居るの?」
「上級怪と戦闘中な事に変わりはない。手早く滅するぞ!!」
「それもそっか!!アハハ!!」
女性は明るく、朗らかな印象だが、男性の方は仏頂面だ。
「土倉さん。あの人たちって?」
「「守護」だ。「三界の陰陽師」に次ぐ力を持つ、実働部隊では最強の12人。その内の2人だよ」
「え?あの人達が!!」
「ああ。守護の
「あの人達が守護!!」
守護の2人と藤堂さんは静かに対峙した。
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