第28話 陰陽師 対 蠱毒
ー京都・陰陽寮本部ー
「では、人が混ざった蠱毒が居ると言うのか」
「実際に遭遇はしていないが、目撃情報が有るらしい」
「人が混ざった蠱毒となれば、下手をすると上級怪だぞ」
「確かに混ざった人間の恨みが大きければ大きいほど、強大な蠱毒が生まれるだろうな」
暗い和室に、嫌な沈黙が流れる。
「しかし事実なのか?遭遇していないのなら目撃情報がただの見間違いや恐怖で錯乱しての情報という可能性も有る」
「確かにその可能性も有る。だが、水月雫の報告では吸血鬼も件の町に来ているそうだ」
「「「吸血鬼!?」」」
「じょ、上級怪ではないか!!それに、奴らの血は人を…」
「一刻の猶予もならんな。最低でも吸血鬼は確実に居るわけだ。「守護」を向かわせねばならん」
「守護を!!」
「しかし、守護は御所の警備担当の3名以外は京都の安定に必要不可欠で」
「この京都も昔とは違う。妖魔の数も、鎌倉の世や戦国の世、それに戦後初期に比べれば随分と減った。9名も「守護」を置いておくほど危険ではない」
「未だに京都各地に有る大妖怪や上級怪の封印をはぐれ術者共が狙っています。妖魔は減ったかも知れませんが、人が増えたことで別の危険が…」
「失礼いたします。守護・火宮灯様、守護・仲邑太一様。お着きになりました」
上座に座る老人に反対している比較的若い声を遮って襖の向こうから声が聞こえる。
「おお!来たか!入れ!」
「「はっ」」
部屋に入ってきたのは線の細い美女と大柄の男性だ。
「2人にはこの京都から件の蠱毒が暴れる町に向かってもらう」
「なっ!総師!!まだ結論は出ておりません!」
「此処で話し合って派遣が遅れることこそ問題ではないか?その分被害は広がるぞ」
「そ、それは…」
「他に、反対意見の有るものは?」
「「「………」」」
「どうやら、結論は出たようだ。任せるぞ!両名」
「はっ!」
「御意!」
ー○●○ー
夜の病院というのは中々に不気味だ。しかも、そこに妖魔が来る可能性が高いとなれば、尚更である。
「おい前川!!何を怯えてやがる!!」
「だって、おそらくこの病院に入院してる高山さんでしたっけ?その人を狙って一番強い蠱毒が来るんでしょ!!」
「おう!だからこうやって迎え撃つ準備万全で待ち構えてるんじゃねえか!!」
周りには今まで見たこともないくらいの数の黒服と、陰陽師が居る。
「土倉様」
「あ?何だ磯辺」
何やら報告を受け取ったのか、磯辺さんが土倉さんに近づく。
「陰陽寮本部から「守護」が派遣されると」
「マジかよ!本部の爺さんども、思い切ったな。で、誰が来る?」
「 守護・火宮灯様と守護・仲邑太一様です」
「おっ!太一来るのか!!そりゃぁ良い。五代守護家のお嬢が来るのは気に食わねえが、太一が来れば、終わった様なもんだ」
「ただ、京都から此処まで来るとなると、今日中の到着は無理かと」
「一晩凌がないといけないわけだ。気合い入れねとな」
守護って確か前に聴いた強い陰陽師だよね。来てくれるのはありがたいけど、到着は明日か。今日一晩大丈夫かな?土倉さんは張り切ってるけど、前にもっと弱い蠱毒に僕達負けてんだけどな。
「どうした前川?」
「いえ、大丈夫ですかね?前にもっと弱い蠱毒に僕達負けてんのに」
「馬鹿野郎!!弱気になってんじゃねぇ!気持ちで負けんな。それに今回はこっちも数が居る。前とは違う」
「前川様のご不安も解りますが、今回は黒服385名と臨時陰陽師36名、下位陰陽師73名、高位陰陽師16名が参加しております。上級怪と言えど、追い返すことは十分に可能かと」
磯部さんが僕を気遣って、安心だと言ってくれる。でもそうかな?僕は不安を押し殺して、病院を見上げた。
ー○●○ー
「上手く舞台が揃ったな」
集まった陰陽師達を病院の窓から眺めながら彼女はほくそ笑む。
「柊先生?」
「おや、医院長」
「こんな時間に何を?」
「いえね。陰陽師方を見ていました」
「ああ…」
彼女の言葉を聴いて医院長と言われた中年の男性は表情を暗くする。
「まさか入院患者が妖魔等という化物に狙われているなど、本当でしょうか?」
「しかし、医院長も就任する時に、怨霊や悪霊、妖魔の知識を先任の医院長に聴いたはずでしょう。それを知らない人間が医院長になってきちんとした対策を取らない等という事態になれば、死体を安置できる大病院は数日でゾンビの巣窟になりますから」
「ち、知識としては知っていますが、半信半疑で、怨霊や悪霊対策もルールとしてガイドラインに沿ってやっていただけで、まさかこんな事態になるなど…」
医院長は冷や汗を拭いながら、ため息を吐く。
「ほ、本当に大丈夫なのでしょうか?入院患者が妖魔に狙われているなど」
「心配ないでしょう。アレだけの陰陽師が集まっているのだから」
「ひ、避難などは」
「必要ありませんよ。逆に患者を動かすほうが危ない」
「(まあ、例の蠱毒を見てみたいと言う気持ちも確かに有るが、こんな時間に、それも何時蠱毒が来るか判らない状況で人間が大量に外に出る方が危険度は上がるのも事実だ)」
柊医師は窓の方をもう一度見て思わず笑みを浮かべる。
「おや!来たようですね」
「ひっ!なんておぞましい」
「高山君!高山君は何処??」
「気を引き締めろ!!最低でも守護到着まで保たせろ!!」
「「「おおぉぉぉ!!!」」」
窓の外で蠱毒と陰陽師達が死闘を繰り広げる中、柊医師は嬉しそうな笑みを浮かべる。
「(素晴らしい!!蠱毒と化しながら、人間の頃の記憶が残っている。例のグールと合わせて、我らの研究の良い素体になる)」
恐怖しながら病院の奥に逃げる医院長を尻目に、柊医師は嬉しそうに笑い続けた。
ー○●○ー
「はぁはぁ。何なんですかコイツ!どれだけ重力を掛けても潰れるどころか、動きが鈍くなりもしない」
「これが上級怪だ。とは言ってもおそらくコイツはまだ従五位の下くらいだろうけどな」
「高山くんの所に行くの!邪魔しないでぇぇぇ!!!!」
巨大な百足の尾が無数に僕達に向けて繰り出される。
「クソッ!!」
「バケモンめ!!」
さっきからこちらの攻撃は全く効いていない。一方でこちらはもう陰陽師5人と黒服38人が戦闘負のにされた。因みに、そのうち、陰陽師1人と黒服6人は死んでいる。
「水月流奥義・
「あぁぁぁ!!!」
「うるせぇ!!」
水月さんの放った術が蠱毒の右肩から右胸に掛けてもぎ取るが、そいつは耳がおかしくなりそうな絶叫を上げた後、すぐに傷を再生させる。
「ありえなだろ!あの化物!!」
水月さんの顔が悔しそうに歪む。以前、猿の経立との戦闘では終始舐めた態度で戦っていたし、あんな技も使ってなかった。おそらく本気ではなかったんだろう。
一方今は、最初から奥義を使い、水月さんは本気だ。しかし、その本気をあの化物は上回る。
「許さない!許さない!!許さない!!!」
いきなり人型の部分の腹部が膨らみ、口から大量の紫の液体が飛ばされる。
「避けろ!!」
土倉さんが咄嗟に拙いと判断して声を張り上げるが、遅い。矢のように飛来した紫の液体は多くの黒服や陰陽師の体を貫き、その身を溶かす。
「これ以上は!!水月流奥義・次の型・水虎刃」
「ぎゃぁぁぁ!!!」
水月さんが放った水の鎌が蠱毒の体を切り裂く。
「動きが止まった!!」
「これで終わりです!水月流奥義・
地面から飛び出した水で作られた竜の
勝った?
「殺ったか?」
「ちょ!!」
土倉さん!!!それ言わないで!!フラグだから!!
「こ、こんな事して、ゆ、許さない!絶対絶対許さない!!」
土倉さんの不用意な発言のせいかどうかは知らないが、案の定、蠱毒は傷ついた体をユラユラと揺らしながら、水煙の中から姿を見せる。更に、全身に付いた傷はみるみる塞がっていく。
「もういい。解った!先に貴方達から始末してあげる」
ギラリと光る蠱毒の目が僕達を睨みつけた。
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