第27話 強者
俺が抱きかかえる人を見て、土倉さんは目を丸くする。
「おい!忍!何の冗談だ!何でお前が水月雫を連れてくる?」
まあ、驚くよね!どうにもこの美少女、強い陰陽師らしいし。
「それがさ〜」
俺に攻撃を放った水月さんだが、俺は即座にそれを回避して間合いを詰めた。実は回避しなくても
『反神威体質』で無効化出来たんだけど、なんとなく反射で回避しちゃったのだ。
驚く水月さんの水の防護膜を切り裂き、そのまま催眠で眠らせた。
催眠は敵の強さや能力、そしてどんな催眠を掛けるかで、成功率が変わる。一番簡単なのが五感を狂わせる物であり、一番難しいのが意のままに操るものだ。「眠らせる」、「理性をなくさせる」等はその間。成功率は0.3〜30%。つまり、眼と併用すれば確実に成功する。
「で、眠らせて連れてきたの。土倉さんの場所はこの人たちが案内してくれたし」
俺の後ろに控える黒服の人たちを顎でしゃくる。
「何で黒服が妖魔を普通に案内するんだ?」
「こっちにも催眠をかけたから。意のままに操る催眠は難しくて成功率が
0.1〜10%だったけど、この人たちはそんなに抵抗力無いみたいで助かったよ」
まあ、目の力を使っても、催眠術を持ってたり、俺の倍以上の強さが有れば成功率がグッと下がるから効かない場合が有るんだよね。
「黒服達は弱いからな」
土倉さんは呆れたように頭の裏を掻く。
「んん…。ここは?」
「あ!目が覚めた!」
まあ、近くでこんな大きな声で話してたら当然だけど、水月さんが目を覚ます。
「なっ!?ヴァンパイア!!私は…、何故!?」
「ちょっと暴れないでよ!危ないから。下ろすよ」
なんとか俺の腕の中から逃れようとする水月さんだが、術は俺には効かないし、膂力には赤ん坊とプロレスラーくらいの差が有る。
怪我をさせないように気をつけながら地面に下ろす。
「くっ!どういうつもりですか!?」
軽やかな動きで距離を取り、こちらを睨む水月さん。
「いや、どういうつもりって言われても…」
「アレです!忍!美少女陰陽師が男の妖魔に負けたのですから、それは当然…」
「え!?アレ!18禁展開!!」
「くっ殺せ!のお決まりのやつです!」
「でも俺アレだよ。触手とか出せないよ?」
「まあ、そういうタイプの妖魔じゃありませんからね〜」
「て言うか、そういう敵ってオークとか触手が主流じゃないの?」
「まぁ〜ヴァンパイアはもっとクールなイメージですから」
「おい!女が居る前で、その話題は止めろ!と言うか、何だそのスマフォ!喋れるのか!!」
唐突に始まった俺とスマフォのボケ会話に土倉さんから切れの良いツッコミが入る。前も思ったけど、意外と常識人だよね。後、苦労しそう。
「何なのですか?貴方は?」
訝しげな顔で尋ねてくる水月さん。
「え〜と?」
結局土倉さんと協力して俺の現状を説明する。
「なるほど!にわかには信じがたいですね」
「でも、実際にこうして居るし」
「それでも、陰陽師としては高い危険度を誇るヴァンパイアを野放しにしておけません。最も、今の私では勝ち目はないので、攻撃しませんが」
そう言って水月さんは立ち上がる。
「土倉さん!引き続き蠱毒の捜索を行いましょう!」
「ああ!」
水月さんと共にその場を去ろうとする土倉さん。
一応伝えておこうかな?
「こっちは蠱毒を全部で3匹倒しました。当初の予定通り7匹だとすると後4匹です」
「お前が倒した中に件の人が混ざってる奴は?」
「居ませんでした!」
「了解!」
伝えるべきことだけさっさと伝えて、俺のその場を後にする。そろそろ学校が終わる時間だ。桜を迎えに行こう。今の俺なら藤堂忍だと解る奴の方が少ないだろうし、騒ぎにならないだろう。
ー○●○ー
放課後になり、私、藤堂桜は新城胡々乃ちゃんと下校しようとしたんだけどどうにも校門前が騒がしい。
「どうしたんだろう?」
「なんだか、凄く格好いい人が来てるって盛り上がってる」
流石に妖怪なだけあって、胡々乃ちゃんの五感は私より鋭い。噂話の声を聞き取ったらしい。
「凄く格好いい人か!ちょっと見てみたいかも!」
「えっ!?今それどころじゃないよ!」
胡々乃ちゃんは乗り気じゃないみたいだけど、それでもついてきてくれる。優しな〜
「お!アレかな?」
人の波をかき分けて校門まで行ってみると、確かにイケメンが立っている。でも、ちょっと色が白すぎ?白通り越して青白いし。体もヒョロヒョロの印象。病弱で儚げな感じだ。
うん!結論!イケメンだけどタイプじゃない!
「桜さん。評価厳しいね」
「胡々乃ちゃん?胡々乃ちゃんはああいうタイプが好み?」
「いや、その〜」
どうしたんだろう?いきなり胡々乃ちゃんの歯切れが悪くなる。
「好み云々以前に、アレ人間かな?」
「へ?」
なにそれ?違うの?解るの妖怪の感覚的な?
「いや、それも有るけど、アレは多分…」
胡々乃ちゃんが何かを言おうとしたところで、その青白いイケメンさんがこちらを向く。
ん?目が遭った?知り合いにいたっけ?て言うか、何あの目?変なカラコンでも入れてんの?厨ニ?
「………」
無言で近づいてくる青白いイケメン。本当に誰だろう?
「桜。迎えに来たぞ」
「え?誰?」
「あ〜」
私の言葉に苦笑したイケメンさんはスマフォを取り出すと、操作する。ん?何。
「電話?」
私のスマフォが着信音を鳴らし、とってみると、画面には『おにぃ』と書かれている。
えっ!?まさか!
「え!?嘘っ!?」
スマフォn画面と眼の前のイケメンさんを交互に見ながら目を見開く私に、イケメンさん。おにぃは苦笑で頷いた。
「えええぇぇぇぇ!!!!」
ーーーーー
ーーー
ー
3人で学校を離れて適当なファミレスに入って席を取る。
「まさかおにぃだとは」
「どうだ!格好良くなっただろ」
ドヤ顔だねおにぃ。
「趣味じゃないけどね!体弱そうだし、ヒョロヒョロだし!もっと健康的な細マッチョのイケメンが好み」
「相変わらず辛辣だなお前。変な虫が出没してるから迎えに来てやったのに」
「それはありがとう。でも、まだ倒せてないの?おにぃ役に立たない!」
「ちょっと桜さん。流石に言い方が…」
胡々乃ちゃんがちょっと慌てながらやんわりと嗜めてくる。やっぱり良い子。でも、大丈夫だよ。いつもおにぃとはこんな感じだし。
「七匹居るみたいでな。3匹は駆除したけどまだ4匹残ってる。新城さんが言ってた奴も見つかってない」
「うへぇ〜そんなに居るんだ〜」
「向こうも動いてるみたいだからそのうち収まるだろうけど?」
「向こう?ああ!」
陰陽師の事ね!
「てことは、暫くは危険か〜。て言うか、胡々乃ちゃん?顔色悪くない?大丈夫?」
どうしたんだろう?おにぃと遭ってから胡々乃ちゃんの顔色が悪いし元気ないんだけど?
「いや、その…」
「おにぃ?なんかした?」
「何で俺のせいなんだよ!!」
「だっておにぃと遭ってからだし〜」
私が疑わしそうな目を向けると、おにぃは心外だと言わんばかりに顔を顰める。
「ほ、本当に大丈夫だから!すみません藤堂先輩」
「あ、ああ」
「ふ〜ん。それなら良いけど。ところでおにぃ?何でそんな恰好なの?学校来るから?」
今までの顔面偏差値底辺とは変わりすぎだよね?
「いや、実は…」
おにぃは顔を近づけてきて声を顰める。
「ヴァンパイアに成ったんだよ」
「え!」
「ああ!やっとか!おめでと!それで顔面偏差値爆上がりしたんだ!」
「相変わらず言い方が辛辣だな。で、暫くは物騒らしから送り迎えしてやるよ。そっちの新城さんも」
「え!?いや、そんなに気を使っていただかなくても、悪いですし…」
「でも、狙われたんだろ?」
「それは、そうですけど…」
「大丈夫だよ胡々乃ちゃん!頼りないけど、こんなおにぃでも居ないよりマシだって!」
「ちょ!桜さん!!!」
青い顔で「すいません」とおにぃに謝る胡々乃ちゃん。本当にどうしたんだろう?
結局その日は3人で胡々乃ちゃんを家に送ってから私達も帰宅したんんだけど、終始胡々乃ちゃんは顔色が悪かった。謎だ?
因みに、おにぃが来てくれて結果的に助かった。道中で一回襲われた。
後、どうして胡々乃ちゃんがこんなにおにぃを怖がってるのかも少しは解った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます