第26話 瞳と吸血鬼

 ブクブクと溶ける断面を見ながら俺はため息を吐く。


「どうしてこうもキモいんだよ蠱毒」


 今回の敵は八又大蛇風の蠱毒だった。え?意味が解らないって?用は頭と尻尾が8つづつ有ったのだ。しかも全部蛇じゃない。3つは蛇で5つは百足だ。それが体の真ん中辺りだけ混ざってくっついていた。

 しかもその混ざって太くなってる部分からは蝿の羽が伸びていて空まで飛ぶ。


 羽音まで不快だし、本当に嫌だよ。ただまあ、良い点も有ったんだよね。それは…


「心臓3つ有るんだ!」


 百足の部分に心臓は無かったが、蛇の部分はそれぞれに心臓が有った。


「これはどうなんだろう?3つで普通の竜蛇の心臓1つ分?それともそれぞれ1つと考えて3つ分?」


 後者なら嬉しいけど多分前者かな?


「よし!」


 電流で炙ると香ばしい匂いをさせる蠱毒の心臓。蠱毒の死体を見なければ焼き鳥の内臓系だと思って食える。


「いただきます!」


 先ずは1つ目をガブリッ!実は家に行った時に塩を貰ってきていたのだ。


「うん!塩振ると結構美味いな!」


 1つ目を食べ終わると、胸の辺りと、目が熱くなる。


「お!来た!アレ?でも目も?」


 今まで目がこんなに熱くなった事は無かったんだけどな?


「どう変わったのかな?」


 何時もの如く、スマフォで能力を確認する。


名前  :藤堂 忍


種族  :ダンピュール(デイライトウォーカー)


種族特性:邪気放出・日光耐性・夜目・吸血・吸血衝動・動物操作(蝙蝠と鼠限定)


固有特性:反神威体質 流水耐性 竜化(角竜) 死者の眼(導きの瞳・破壊の魔眼)(New)


状態  :正常 

     死者の眼【導きの瞳(開眼中)・破壊の魔眼(閉眼中)】


能力  :再生   

     電磁支配

     三力支配(引力・斥力・重力の支配)

     超回復付与

     影操作(New)


備考  :ダンピュール族の弱点【日光(耐性あり)・銀】瘴気闘法習得


 うん。目が熱くなった原因判明!目が熱くなった原因絶対これだよ!


 て言うか死者の眼って何?俺って死者?まあ死者か!一回死んでるし!


 一応竜化も翼竜から角竜に変化していたが、そっちより、眼の方が気になる。


「しかしコレ、外見的に目立つな!」


 コバルトグリーンの瞳の中に、クリームイエローの正二十面体が浮かび上がっている、しかも、それがクルクルと回っているように見えるのだ。


「余計に厨ニとかからかわれる要素増えたよ!!しかも何!?『魔眼』って!!明らかにそっち系の病気の人じゃん!!」


「元々ダンピュールの時点で手遅れです忍!問題ありません!」


「問題大有りだ!」


 て言うか!久々に喋ったなスマフォ!


「しかし、強力な能力ですし、良かったのでは?」


「強力!?そう言えばコレ、何が出来るんだ?」


 見た目と名前のインパクトが凄くて能力意識してなかったよ!


「どうやら『導きの瞳』と『破壊の魔眼』(笑!)を切り替えられるようです。

 『導きの瞳』は片目で20分の1。両目だと400分の1以上の確率を確実に当てることが出来る能力のようです」


「確率を当てる?」


 どういう事だ?


「例えば、競馬等でどの馬が勝つか一目見れば解ると言うことです」


「例え!!何その例え!!」


 もっと他の言い方無かったのか?


「悪かったですか?では、マークシート等のテストで答えの選択肢が400個以下なら正解が解ります!」


 それも微妙だが、大体解った。でもさ〜


「今言った物以外に使える所無くないか?」


 未来予知等なら強力かも知れないが、単純に400個以下の数の選択肢の中から正解が解るだけだろ?


「そうでもありませんよ。敵が右に避けるか左に避けるか。等も解ります」


 ああ!確かに!戦闘でもソコソコ使えるのか。


「後、もう一つの能力として、片目なら20分の1、両目なら400分の1以上の確率なら、意図した結果を意図的に引き寄せられます。例えば、競馬で勝つ馬を当てるのではなく、結果を変えて自分が選んだ馬を勝たせることが可能です」


 また競馬の話になった!それ言われるとそれ以外使える所なさそうに聞こえるから止めて欲しい。


「他の例えで頼む!」


「他ですか?そうですね。例えば敵が出した能力が400回に1回くらい失敗する技だった場合、失敗させ続けることが可能です。逆に術式等で、成功率が0.25%以上有るものは必ず成功させることができます」


 うん。そう聴くと結構良い能力だ!400回に1回も失敗する技が有るのかは知らないが、儀式とかで成功率が低いものはありそうだ。アニメとかの感覚だけど。


「更に、視力と動体視力を20倍まで引き上げられます。片目だけ等も可能です!」


 今も結構視力良いけどな!更に20倍か!


「単純だけど良いな!」


 さて!では、気合を入れて次に行こう!そう。気合を入れて!!


「で、その、もう1つの…」


「はい?」


 言うのも恥ずかしいな!


「は、破壊の魔眼の方の能力は?」


「厨二病の拗らせ方が半端じゃなくなります!」


「おい!!」


 思わず素で突っ込んでしまった!まあ、冗談だろう。


「冗談です!能力は『破断線』が見えると言うものです」


「破断線?」


「切り替えてみてください。念じれば出来るはずです!」


 言われた通りに念じてみると、瞳の中で正二十面体が砕け、瞳の中で光の粒が浮かんでいるような見た目になる。


 うん!ぶちゃけて言おう!厨ニの病状進んだ!!


「言った通りだったでしょう?」


「本当にね!」


「ですが、見えますよね?破断線が」


「破断線?コレかな?」


 地面、空中。そこら中に線が見える。


「色が違う?」


「当機には見えていないので解りませんが、能力を調べた限り、固体の破断線が白色。

 液体の破断線が青色。気体の破断線が黄色。プラズマやエネルギーの破断線が赤色。

 空間事態の破断線が黒色です」


「で?この線は何なんだ?」


「動いていませんか?線」


「確かに動いてるけど?」


 動いてもいるし、いきなり消えたり、別の場所に出たりもする。


「それを切ってみてください」


「切る?」


「爪でなぞるだけでいいです」


 言われた通り、俺は手近に有った黄色い線を爪でなぞる。


「え!?のわぁぁ!!」


 線を爪でなぞった瞬間。すごい勢いで風が起こり、俺は体勢を崩しかけ、変な声を出す。


「な、何だ今の?」


「何色の線を切りました?」


「黄色だけど?」


「なるほど。気体を切りましたね。切った所が一瞬だけ真空状態になり、そこに空気が流れ込んだので、今の風が起こりました。破断線とは物同士の間に生じる亀裂です」


「物同士の間に生じる亀裂?」


「はい!どんなに硬いものでも、それを形作る原子や粒子、それにエネルギーには離れやすい場所が何処かに生じるのです。これは空間も同じ。その部分は最初から最後まで、正確になぞれば、軽くなぞるだけで、どんな物でも切れてしまいます。それを見極めるのが『破壊の魔眼』です」


 すごっ!どんな物でも切れるって事は防御できないって事じゃん!しかも赤い線はプラズマやエネルギーって言ってたから、炎や妖気も切れるって事だ。


「空間って切るとどうなるんだ?」


「切られた空間に有った物は全て切り裂かれます。後、切り裂かれた筋が一瞬だけ虚無状態になります」


 やばいなそれ!どんだけだよ!


「後、線をなぞるのではなく、同時に切った場合、その物は砕け散ります」


「同時?」


「小さい線はありませんか?」


「小さい線?」


 探すと有った。小さい“黒色”の線。


「手刀を線にかぶせるように切ってください。手刀は振り抜いてくださいね」


「こうか?」


 言われた通りに俺は黒い線全部に丁度手刀がかぶさるように当てて、振り抜く。


「へ!?」


 黒い線が有った空間が、まるでガラスの様に砕け、その場に小さなブラックホールの様な者が生じる。


「それが虚無です。空間が砕けたことで生じました。虚無に触れたものは全て消滅します」


 これが虚無!うん。すごい!でも一言。


「危ねえことさせるな!!」


 つまりアレだろ!!俺の手刀の速度が遅かったら、手が消滅する可能性が有ったんだろ!!


「手くらい忍の再生能力なら瞬時に生えてくるでしょう?」


「そういう問題じゃねぇ!!」


 俺の手を危険に晒したスマフォは素知らぬ顔で、話を逸らす。


「それより残りの2つの心臓も食べては?」


「今、話を…まあ良いけど」


 ダベってても仕方ないしな。眼は念じると瞳の中の光の粒が集まり、また正二十面体を作る。切り替えは自在のようだし、片目だけ変えるなんて事も出来た。

 後、スマフォ曰く、まだ使えないだけで、別の能力も宿っているらしい。


「後、2つも食べるか!」


 手早く炙って、塩を振り、ガブリと食べる。


「こ、これは!!」


 すごく胸が痛い。これは!もしや…


「治まった!」


 痛みと熱が引いてきたので、スマフォで自撮りし、能力を確認する。


「と言うか、まとめて3つ食べてから確認すれば良かったのでは?」


「それ言うなよ!俺も思ったけど!」


 仕方ないじゃん!気になったんだから。それはともかく、能力を確認だ。


名前  :藤堂 忍


種族  :ヴァンパイア(デイライトウォーカー)


種族特性:邪気支配(New)・日光耐性・夜目・吸血・吸血衝動

     動物支配(蝙蝠と鼠限定)(New)・変異誘発(New)死霊操作(New)


固有特性:反神威体質 流水耐性 竜化(応竜) 死者の眼(導きの瞳・破壊の魔眼)


状態  :正常 

     死者の眼【導きの瞳(開眼中)・破壊の魔眼(閉眼中)】


能力  :再生   

     電磁支配

     三力支配(引力・斥力・重力の支配)

     超回復付与

     影操作

     影空間(New)

     分裂変化(蝙蝠と鼠限定)(New)

     変化(New)

     血液操作(New)

     催眠(New)

     雷雲支配(New)


備考  :ヴァンパイア族の弱点【日光(耐性あり)・銀・流水(耐性あり)

     ニンニク(耐性あり)】 瘴気闘法習得


「おお!ついにヴァンパイア!」


 能力もメチャクチャ増えてる!そして、何より、イケメンになってる!グールからダンピュールに成った時もちょっと顔立ちが整ったけど、あの時より、ダンピュールからヴァンパイアに成る方が変化が激しい。これは誰が見てもイケメンだよ!どことなく俺の印象は残ってるけど、多分俺だって気づかない人の方が多いだろうな。


「ただ、顔色が悪いな。病弱に見える。後、犬歯が発達しすぎなんだよな」


「忍!見た目より能力を気にするべきでは?」


「能力?」


 スマフォの忠告も解るが、お年ごろなんだよ!見た目は重要なんだよ!


「まあ、大体解るけど、竜化が応竜に成ってるな」


「はい!応竜は大妖怪クラスの竜です。かなり高位の竜で、これ以上の竜となると、固有の特殊固体か黄龍だけです」


「そんなに!すごい!」


「ヴァンパイアが上級怪ですからね。竜化でそれ以上に強くなるとなると、応竜なのでしょう」


 ああ!そうか!俺、とうとう素の状態で上級怪に成ったんだ!


 他の能力も説明して貰った。


 簡単にまとめると。


邪気支配…邪気を出す上に操れる。

     (他人の邪気も下級怪以下の奴が出してる邪気なら操作可能)


動物支配…操作の強化版。視覚の同調とか可能。


変異誘発…血を飲み干した相手が31.4%の確率でゾンビ化、

     3.14%の確率でグール化。

     生きてる相手に自分の血を注入した場合、3.14%の確率で

     ダンピュール化。(ダンピュール化に失敗した場合は死ぬ)

     死体(魂が残っていない)に血を注入した場合、3.14%の確率で

     ゾンビ化。

     死体(魂が残っている)に血を注入した場合、31.4%の確率で

     ゾンビ化、3.14%の確率でグール化。

     ゾンビやグールに血を注入すれば、3.14%で上位種に進化。


死霊操作…ゾンビを意のままに操れる。グールをある程度制御できる。


 影空間…影の中に空間を作って物を収納できる。


分裂変化…体を無数の蝙蝠や鼠に変化させることが出来る。

     腕などの一部のみでも可能


  変化…色々な姿に化けることが出来る。


血液操作…自分の血を自在に動かせる。

     血液の半分以上が自分の血である相手を操作できる。


  催眠…その名の通り、催眠術。眠らせたり、操ったり出来る。

     対象の強さや能力に応じて成功率は変化する。


雷雲支配…雷雲を作ったり操ったり出来る。雷を落とすことも可能。


 うん。メチャクチャ強くなったよね。妖気や邪気の量も大分増えてるし。

 後、何気に仲間を増やせるみたいだ。増やす気無いけど。


「ヤバい!知らない内に大物に成ってた!」


「まあ、上級怪ですしね」


 そんな風にスマフォと進化を喜んでいると、人の気配が近づいてくる。


「ん?人か!ヤバい!蠱毒の死骸どうにかしないと!」


 見られたら騒ぎになるよ。


「忍!影空間を!」


「そうだった!」


 影空間に蠱毒の死骸を収納する。早速役に立った。


 何事なく、その場を離れようとしたが、やって来た女性は俺を見るなり、微笑み、物騒なことを口にする。


「あらあら?蠱毒が大量に発生しているから応援が欲しいとの事でしたが、妙な物が居ますね」


「あんたまさか!」


「ダンピュール?いえ、ヴァンパイアでしょうか?こんな危険な妖魔が人里にいるだなんて」


 ため息を吐いた女性は、俺に向かっていきなり水の鞭を振るった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る